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社会不適合者の恋愛論~変人に恋は難しい~  作者: 澄泉
女郎蜘蛛編 〜反撃〜
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262話 アオブダイとパリトキシン

諸説あるよ★


そんなお話です笑

 


「うわっ……す、水族館だ。澪桜、水族館だよ! 大きい」


 ほわーっと周がキラキラとした眼差しで建物の外観を見上げている。

 澪桜は笑いながら周にチケットを渡す。


「あはは。珍しく浮かれてるね! 私も楽しみだったんだ! ほい、パンフレット。館内広いらしいけど全部見て回るだろう? イルカショーもあるらしいし、ペンギンとかのブースも……」



 楽しそうにパンフレットを見ながら話す澪桜の後ろを行く男性達。


 彼女連れにも関わらずチラリと澪桜を盗み見る。

 その視線に気づき、ピクッと眉を動かした周はひんやりとした大きな手で澪桜を引っ張り、館内に向かった。


「後は中に入ってから。館内をまわりながら確認したらいい」


「おおう。どうした〜? ウキ☆ウキ男(お)かい?」


「変なあだ名つけないの」


 チケットを彼に渡し、館内に進む。


 休日、ということもあって人が多く流れも早い。

 二人はポケーっとした顔で呆気にとられる。



「人が多い……」


「み、澪桜。とりあえず順番に巡ろう」



 握る手に力を入れて周が澪桜をエスコートし始めた。



「周さんは、いつぶりくらい?」


「え、俺? ……20年振りとか? 子供の頃じいちゃんとばあちゃんと行ったっきり?」


「私と大してかわらんな! 私は15年振りだぁ! ぬはは」



 残念な会話を繰り広げながらゆっくり進む列に並ぶように仄暗い通路を進み、照明を浴びて青く深く浮かび上がる水槽に目を向ける。


 前を行くカップルに周の視線がいく。


「まぁ〜君♡ みてぇお魚さん、キレ〜」


「くみぽよの方が綺麗だよぉ♡」


「やぁ〜だ〜♡」


(なんだコイツら。早く歩け)


 そう、思いながらも見てしまう。

 イチャイチャと体を密着させて幸せそうに歩く二人。

 正直……うらや


(ばかか! 羨ましくない! 既に俺、めっちゃ幸せ!)


 頭を振って隣の澪桜に目を向ける。

 ……いない。


(い、いない!? 何処に!?)


 周は慌ててまわりを探した。


 すると、はるか後方。人気(ひとけ)のない、小さな水槽達が並ぶブースにポツンと澪桜の後ろ姿があった。


 中腰で草だらけの水槽の中をまじまじと覗き込んでいる。

 周はうしろからゆっくり近付き、また指を重ねて呟いた。今度は見失わないように。


「何見てるの?」


 可愛い言葉を期待して。


「……見てごらん? ここは人気がないんだねぇ。何故だ、私は彼らが大好きなのに」


「ん? 彼ら?」


「周さん、覚えているかい? ほら、覗いてご覧?」


 澪桜と同じ姿勢になり、水槽の中に目を凝らす。

 すると……草や木にカモフラージュされていた姿が浮かび上がる。


「かっカエル!?」


「懐かしいねぇ〜。ヒキガエルだよ、イボガエルとも言うねぇ」


 周は瞬時に思い出した。付き合う前、澪桜との電話で話していた内容。


「ぶ、ブフォトキシン……」


「お! 流石だねぇ〜カエルの友よ、ほらこっちはヤドクガエルだよぉ☆ 可愛いねぇ〜」


「誰がカエルの友だ、誰が」


 しばらくその場から離れようともしない澪桜に痺れを切らした周が口を開く。


「ほ、ほら。先に進もう? 向こうの方も少し空いてきたし。海洋生物の方も見に行かないと!」


 青い照明に照らされる通路の先を指さした。

 澪桜は確かにそうだね!と言いながら周と繋いだ手を機嫌よく振り回す。


 女性達の黄色い声が上がる美しい熱帯魚達を軽く眺め、サクサク進んでいく澪桜。


(あんま興味ないのかな。魚……)


 少し寂しく思いながらも繋いだ手を離さない周は澪桜について行った。


 すると、澪桜の足が止まる。


「うわぁ」


 とうとう聴けた。感嘆の声。

 周はさっきのカップルを真似するように寄り添う。


「可愛い魚がいた?」


「見てごらん! タカアシガニだぁぁ! 足が長ぇ!! 湯掻くにも、そのままじゃ入らん! 寸胴に!!」


「湯掻くな!! 生きてる」


 思わず鋭いツッコミを入れる。すると澪桜が周に振り返り、キラキラした目で水槽の端っこを指さした。



「周さん! 伊勢海老、伊勢海老がいるよ。隠れてるぅぅぅ」


「うん。伊勢海老だね……。なんでそんな嬉しそうなの?」


 周の質問に、澪桜が嬉しそうに体を揺らしながら答えた。



「伊勢海老はね。野生ではおよそ30年ほど生きるんだよ」


「え!? そ、そんなに長生きなの!?」


「そうだよ〜。諸説あるけどね、彼らは脱皮の度に内臓まで新しく作り替えるから、不老不死だと言われてる。諸説あるけどね☆」


 何度も念を押す。

 誰に忖度してるんだと思いながらも周は素直に驚いた。


「すごー! ……あ、でもさっき30年って」


「あの硬い外骨格を脱皮するのって、ものすごいパワーがいるんだよ。で、脱皮不全で力尽きて死ぬ」


「おおお。なんて残念なんだ。で、何でそんなこと知ってるんだ澪桜は」


「ふふふ。好きだからね。不完全な生き物って」


 周の腕の中からするりと抜けてまた独り、歩いていく。イチャイチャしたいのに、させてくれない澪桜。


(もう少し傍にいて欲しいのに)


 とぼとぼと、澪桜の後を追っていると、澪桜が大水槽の前で元気よく手招きしている。


「周さん!! 凄いよ〜見て!! オイルサーディントルネードだよ!!」


「多い多い、一言多い!! なんで一旦油に漬けたの!」


 ……オイルサーディン……トルネード……


 アホな光景。


 無駄に想像してしまい、じわじわと頬が引き攣り始める。



「間違えた! サーディントルネードだ! あははは!ちなみに内側の満員電車状態のイワシは基本酸欠でちょっと苦しいらしい」


「なんださっきからその残念な情報は!」


 その後もワケの分からんウンチクと共に澪桜の水族館ツアーが続いた。

 思ってたのとだいぶ違う。

 なのに物凄く楽しくて。


 美術館のデートを思い出す。


 あの時は繋げなかった手。

 今はしっかり繋いで歩いてる。


 周は視線を落として微笑んだ。



「……? どうしたんだい? 急に笑って」


「いや。人間慣れると欲が出てダメだなと思ってさ」


「なにが? それより見てみて!」


 クイッと引っ張られて周が澪桜に視線を向けた。

 嬉しそうに指を水槽に向ける。


「周さんここの特設ブースにアオブダイがいるぅ! 見て! ぽってり唇がセクシー」


 毒々しい色の……大きな魚。

 良くわからない周は、ただ色が綺麗だなぁと思いながら優雅に泳ぐその魚を眺めていると澪桜が呟く。


「この魚の体内には海洋生物最強と呼ばれる毒が蓄積されていてね。パリトキシンっていうんだけどね、青酸カリの8000倍の強さを誇るんだよ」


「ええ!? この魚、フグより毒性高いの?」


「顎が強靭でね。パリトキシンを持つイワスナギンチャクを食べるから蓄積されるんだよ、体内にね。温かい海に生息してるらしいよ」


「へー。それで特設か」


 あまり人気とは言えないそのブース。

 つかの間の二人きりの世界に浸る。

 ボーッと眺めていると、寒色に頬を染めた澪桜が微笑んだ。


「私はね、前から思ってたことがあってね」


「ん? 何? 聞かせて」


 優しい周の声に頷き、澪桜はまた水槽に目を向けて口を開いた。


「君はパリトキシンみたいだよ。その毒に侵されたら気付いた時には……致死量だ」


「え……?」


「……私はもう、君なしでは生きていけない体になってしまったようだ。……君が居なくなったらきっと私の心は、その毒に溺れて死んでしまう」


 その場に固まる周を置いて、次の展示へと足を向ける澪桜の後ろ姿に、そっと呟いた。


「……何度、俺を口説けば気が済むの……」


 周の心が軋む。


 誰よりも強く、重く

 そして気高く愛してくれる澪桜。


 他の恋人達の表向きの甘さを澪桜へ一瞬でも求めてしまった自分の浅はかさに後悔しながら。


 さらに深く澪桜という名の深海に堕ちていく。




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― 新着の感想 ―
お魚残念情報が満載なのに、どうしてこんなに甘いんだ。澪桜ちゃんの愛の言葉が一撃必殺すぎて、こちらもやられてしまいます。 イセエビ、30年も生きるんですねー。甲殻類などが脱皮に失敗してお星さまになって…
ハァー!甘ーい!!でもピリピリ痺れる系の甘さがもう、素晴らしい。この個性が欲しい⭐︎ 「君はパリトキシンみたいだよ。その毒に侵されたら気付いた時には……致死量だ」 「え……?」 「……私はもう、…
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