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社会不適合者の恋愛論~変人に恋は難しい~  作者: 澄泉
女郎蜘蛛編 〜反撃〜
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259話 めざしVSメロン

あああ。

今回も文字が多い。

わ、分けられない……


いつも読んでくださっている事に感謝しかありません。

どうか本日もお付き合い頂けますように(>人<;)



「さっき吹きそうになりましたよ。なんのギャグですかそれは」


「がはははは! 変装の為だ! 後ろからじゃ全く分からんかっただろう!? 激安ジャングルで仕入れたんだ」


 楽しそうに酒を飲みながら笑う藤堂。

 またウィッグを被ってみせる。


 周はため息をつきながらカウンターの中に声をかけた。


「おい。いるんだろ? 佐野くん」


「はっはい!!」


 奥の暖簾で目隠しされてある食料庫の方から佐野がおずおずと出てきた。

 それを見て神崎はギョッとする。


(佐野まで……どうして!?)


 冷静に考えれば分かる。だがそう簡単にこの窮地は受け入れられない。


「君、なんで澪桜にあんな寄り添って……」


「いや、一切触れてませんからね!? ガチで! 結城さんからの指示LINUをそこの……藤堂さんが見たいって言うからみせたら、こっちの方がリアルだ! とか言って連れてかれただけで……」


「ふぅん? それを理由に、あんな仲良さげに入って――」


「俺は入ってません!!」


「がはははは! 嫉妬はかっこ悪いぞ結城よ」


 片眉だけ上げて周は不服だと言わんばかりに藤堂に物申した。



「失礼な、貴方のせいでこうなってるんですよ? 僕は家の前で撮影して下さいって言いませんでした?」


「言ってたなぁ。だからこそ、リアルだ!! がははは! 若いもんがそんな家まで待てるものか! それに結城、お前だって演技せずに済んだだろう? はははは」


「え、待って。俺そんながっつきませんよ!? なんかすんごい嫌なんですけど」



 男たちのギャーギャーと続く答え合わせのような喧騒に、少しずつ理解が追いついてきた神崎は気が遠くなる。


(……まさか、そんな)


 指先が冷たくなり、肩が震える。

 言い逃れが出来ない現状。

 神崎は俯き、店を出る準備を始める。


「神崎さん、どちらに?」


 ビクッと肩を揺らし、周の方へ視線を向けた。

 目元は赤いままだが、先程までの絶望とも言える悲壮感は消え、とても軽い表情。


「もう私は、帰ろうかと」


「そうですか? ……いいんです? 今帰っても」


 先程とは全く違う、いや今まで見たことないほど冷たい微笑み。 


「どういう意味ですか?」


「いえ? 特に意味はありませんよ。ふふ」


 嫌な間が二人の間に流れる。

 はあ、と一つため息をついて、観念したように神崎は席に戻った。


 目の前のスマホに手を伸ばす神崎に声がかかる。


「何処にご連絡を?」


「別に。ただ時間を確認しようとしただけです」


 素っ気ない態度でスマホを手に取り、アプリを開いていく。


「そうですか。……あ、所でこの二人に見覚えは?」


 周の問いに神崎は一瞬視線を佐野と近重に向けて、一瞥した。


「さあ。存じ上げませんわ」


 それでもスマホを操作する手元は止まらない。

 佐野は何が言いたげに前のめりになるが、周が軽く手で合図し、制止する。


「……そういえば、僕の婚約者とは会社のエントランスでしか会ったことがないんでしたよね?」


「先程そうお伝えしたつもりですが?」


「僕の婚約者が前に、家の近くの交差点で貴女とぶつかった事を覚えていましてね。……身に覚えはありませんか?」


 奥に座っている澪桜と目が合った。

 まっすぐ神崎を見つめる澄んだ瞳。


 神崎は微かに表情を歪め、まつ毛をゆらした。



「はい。……覚えてますわ」


「ですよね? 良かった。あ、それとどうして僕が家から送り迎えしてる事をご存知なんです?先程仰っていた」


(……!? ……しまった、口を滑らせすぎた)



「そっ……それは……会社で聞いて……」


「誰から?」



 咄嗟に思考を巡らせた。

 佐々木が会社のトイレで澪桜と友達だと社員たちに言っていた事を思い出す。


「……佐々木さん……だったかしら」


「……まぁ有り得なくもないですが、あくまで会社で聞いた事……とおっしゃる?」



「それ以外に有り得ませんわ」


 神崎は周の方に一切視線を向ける事なく、スマホをものすごい速さで操作しながら、平然とした表情で答えた。


 タン


 美しいオーバル型の爪(スカルプ)が画面を鳴らす。

 全ての作業を終えた神崎はひとつ、深呼吸して周へと視線を向ける。


 人形のように整った笑顔を作った。


「お話は終わりでしょうか? そろそろお暇させて頂いても?」


 一瞬微かに怪訝な顔を浮かべそれでも直ぐに、周は微笑み返す。


「もちろん。今日はご協力ありがとうございました。お気を付けて」


 周の白々しい返しにフン! と鼻を鳴らし席を立とうとすると、その薄い唇から低い声が響いた。



「ネクス・リサーチ」


 ビクッ


 思わず体が反応してしまう。


 カウンターにお金を置こうとした手が止まり、そのまま神崎は目を見開いた。


 背中に冷たいものを感じる。

 ……もう、周の方へ視線を向けられない。


(私の使った興信所……どうしてそれを)


 神崎の心を見透かしたような声が響く。

 冷たく、静かなトーンのまま。


「なんで僕が知ってるのか……意味分かりませんよね? ……僕なりにね、調べたんです。ちょっとしたツテを使って……。だっておかしいでしょ? 神崎さんの家は三駅離れてる、それなのに通勤時間に澪桜の後ろから追い抜く形でぶつかるなんて」


「たっ……たまたま用事があったんです。そういう日だってあるでしょう!? そんな会社知りません!」



 必死で言い訳をした。

 だがそんな幼稚な弁明が周に通じる訳もない。


「それだけならね。……でもなぜか、松井さんをSNSでフォローし、佐野くんのよく出没するこのBARに現れ……僕の送迎まで知ってた」


「それもっ……さっき言いましたよね!? 話聞いたって! ここのBARだってたまたま見つけて偶然入っただけだし、SNSなんか身に覚え――」


「あれ? この二人と面識ないんじゃなかったですか? おかしいな……貴女さっきそう仰っていた」


「あ……」


 焦った神崎は余計な一言まで言ってしまう。


(し、しまった)


 時すでに遅し。

 力なく俯いた神崎に周は優しい口調で続けた。


「ちなみに裏取りはあります。君から言質を頂かなくてもね。……ネクス・リサーチがなぜこちらに加担したのかは、直接問い合わせて聞いてください。僕から教える義理はないんでね。あ、それとね」


「……?」


「自分の保身の為に、この期に及んでも見苦しく嘘を並べる人間を、僕はこの世で一番軽蔑します。貴女には真底ガッカリだ」


 ズグ

 胸の辺りに嫌な痛みが走り、反射的に顔を彼に向けてしまう。

 神崎はこの時、周と目が合った事を心底後悔した。


 その目は神崎を蔑(さげす)み、氷点下とも思えるほど冷ややかだったから。


 乾いた喉から、消え入りそうな声を出した。


「……のに」


「? なんです?」


 周の冷たい反応に耐えきれなくなった神崎は

 とうとう感情を爆発させた。


「ずっと好きだったのに。貴方が好きだった! だから、そいつから奪いたかった! それの何が悪いの!? そんな言い方しなくてもいいじゃない!! 貴方だってさっき言ってたでしょ? 『本気にしてしまいそう』って!」


 キョトンと、一瞬首を傾げた周は、思い出したと言うように反応した。


「ああ、あれは『このままだと本気で法的措置を検討してしまいそう』の意味だったんですが。勘違いさせてしまいましたか? それは最悪だ」


 少し小馬鹿にしたように笑う。


「なんですって!?」


「おっと。本音が漏れてしまった。引き止めたみたいで申し訳ない、お帰り頂いて結構ですよ?……どうぞ?」


 さっさと帰れ

 そう丁寧に促す周

 この上ない屈辱を与えられ神崎の中で欲が憎しみに変わっていく。


 ワナワナと肩を震わせ、全てのメッキが剥がれ落ちた神崎がゆらりと席を立った。


 鋭い眼光で周を睨みつける。

 先程までの人形のように整っていた姿は跡形もなく

 ただ、憎悪に取り憑かれ、醜く歪む顔がそこにあった。


「……覚えてなさい。この私をコケにした事、絶対後悔させてやる」


 地を這うような声を出し、静かに出入口の扉に手をかける。


 すると後ろから

 澄んだ声が響いた。


「少し、私からもいいかい?」


 ピク

 微かに神崎が反応する。

 周も目を見開き、声の方に振り返った。


 そこには椅子から降りて、まっすぐ神崎を見据える澪桜が立っている。

 黒髪を靡かせ、凛とした姿で。


「君は周さんが好きと言った。それなのに口では共感しつつ、終始鼻で笑ったり呆れたりしていただろう? 好きなはずなのに」


「そんなの、気がある相手に話し合わせるなんて誰でもやることでしょ? 偽善者ぶってんじゃないわよ」


「……でも君、さっきのくだりで周さんが泣いてた時も慰めもせずにため息ばかりついていたじゃないか」


「それがどうしたのよ!? こんな男だって思わなかったんだから仕方ないでしょ?」


 するとカウンターに座っている周がクスクスと笑いながら手を挙げた。


「あ、さっきの話、全て嘘ですから悪しからず。でも神崎さんも嘘ばかりだったからおあいこですよね?」


 神崎は顔を赤く染め、憎しみを込めた声で力いっぱい罵った。


「っ! ほんっと最低!!!」


「お褒めの言葉、どうも」


 ハァハァと、肩を揺らし周から視線を外すと、まっすぐ神崎を見つめる澪桜とまた目が合った。

 表情は変えずに神崎へとまた口を開く。


「思ってたのと違う? 君は周さんに何を求めていたんだい? 周さんは君の作った偶像じゃない。ちゃんと生きてる」


 分かりきったド正論に神崎はさらにイラついた。

 声が大きくなっていく。


「だから! 何が言いたいのよ」


「勝手に好きになって、勝手に幻滅して失礼だって言ってるんだよ。何より好きな男に浮気させようとするんじゃないよ。例え彼がそれに乗っかったとしても、君の手元に来るのはただのゴミじゃないか」


「うるさい!!! アンタに何がわかるのよ!? この貧乳!」


 バン!!

 神崎は金切り声を上げ店を出て行った。


 弦を張り詰めたような空気が一気に消えて、フッと力が抜けたように全員が息をつく。


 思わず周は立ち上がり、人目も憚らす澪桜を抱き寄せた。


「ああ、澪桜。痺れる。俺今死んでもいい♡」


「やめろぉ! 人前だぁ!!!」


「少しくらいいいでしょ? ずっと我慢してたんだから」


 バタバタと暴れる澪桜を仕方なく腕から離し、周は楽しそうに笑う。


「そんなことよりメザシたる私が今、非常に傷付いてる! ヘイ周、力一杯慰めるんだ」


 澪桜の髪を大切そうに耳へかけながら、周は首を傾げた。


「……? なんで、メザシ?」


 澪桜が俯きポツリと呟いた。


「……貧乳」


「なんだ、そんな事か。じゃなかった。かしこまりました。気にしなくて大丈夫。かなり控えめな所がむしろ可愛――」


 全て言い終える前に、澪桜は手を握りしめ、その場で回転しながら下から拳を突き上げるようにジャンプした。


「鉄槌!!!」


「グフぅ!」


 澪桜のアッパーカットが往年の対戦ゲームのようにクリーンヒットした事は言うまでもない。



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― 新着の感想 ―
澪桜ちゃんも、そうされて何度も傷付いてきましたものね。 たとえ演技だとわかっていても、大事な人がそうされて黙っていない彼女が大好きです。 本当にカッコいい。周さん、彼女に愛されて幸せだね^^
前回、佐野君とホテル前でしたね。失礼しました(>人<;) 今回は、 「勝手に好きになって、勝手に幻滅して失礼だって言ってるんだよ。」 一番最初の一文を思い出す、澪桜さんのセリフ。 そのとおり過ぎる。蜘…
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