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社会不適合者の恋愛論~変人に恋は難しい~  作者: 澄泉
女郎蜘蛛編 〜反撃〜
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257話 マザコンモラハラDV男

な、長くなってしまった。

ごめんなさい。

いい感じで切れませんでした。


今日は嫌な男全乗っけ丼。

 


 19:45


 見慣れたクレストリンクのエントランスを抜けると涼しい風が頬を掠めていく。


 役員会議が押してしまったせいと、他社との打ち合わせが思いのほか時間を食ってしまったせいで一人オフィスを出るのが遅くなった周。



「オンライン上での打ち合わせは便利だが……今日は調子に乗って詰めすぎたな」



 週末に持ち込みたくなくて、つい自分で組んだスケジュールなのに愚痴を零してしまう。


 空はもうとっぷりと更けているが、商業ビルの照明が並木道を照らす。

 今日は徒歩で出社した周は背中を伸ばして深呼吸した。


「さて。帰りますか」


 歩きだそうとした瞬間

 後ろからあの鼻につく猫なで声が聞こえてくる。



「あっ……あの。結城マネージャー」



 周の足がピタッと止まる。


(やっぱり……待ち伏せていたか)


 周は一瞬、ほくそ笑みそうになるが、驚いた顔を作って振り返る。

 やはり、神崎が会社の物陰に立っていた。



「あれ? 神崎さん。どうしたんです?こんな所で……」


「実は……その。折り入ってお話が……あの。時間は取らせませんから……聞いて頂けませんか!?」



 切羽詰まったような表情で近付いてくる。

 その演技に周も合わせながら、例のごとくスマホを取り出した。


「あの、落ち着いてください。……ちょっと待って……ボイスメモ録っておかないと。……はいどうぞ」


 ピクっと反応し、神崎は一瞬怪訝な顔をする。


(……就業時間過ぎてるのになんなの? この対応は)


 少し不快だが神崎はそれを匂わせないように演技を続けた。


「こ、ここではちょっと……。人目に付きすぎるので。結城マネージャー、ご婚約者さんおられますし」


「うーん。そうですね……じゃあ友達の行きつけのBARとかでもいいですか?それともファミレス?」



「ファミレスは……子持ちの社員とかがいたら困りますよね? ……じゃあ、そのBARで」



「分かりました……仕事のご相談ですかね?」


「いえ、その。結城マネージャーのご婚約者さんの事で……」



 タクシーを止めた周が振り返る。

 不安そうな顔で聞き返した。


「え……僕の婚約者……? あ、神崎さんとりあえず、こちらにどうぞ」


 動揺を隠すように停止しているタクシーへと神崎を促す。

 しゃなりと頭を下げた。


「すみません。失礼します」



 乗車後も周の対応は終始徹底しており、当たり前のように助手席に乗り込んだ。


(なんで私の隣に座らないのよ)


 神崎は不快感を滲ませる。

 それはタクシーの運転手もそう。


 とても迷惑そうな顔をしているが、周は全く気にせず道順を運転手に事細かに指示をする。


(……結城マネージャーっていちいち細かいのね……)


 タクシーから降りた後も、少しウンザリしながら見ていると、周はレシートを受け取り事細かにスマホへ記載していた。


 何もかも、ちょっとずつダサい。


 そう思いながら、神崎は「こっちです」と誘導する周について行く。


 見覚えのある建物の前に周が立ち止まったとき、神崎は微かに目を泳がせた。



 BAR vulgus (ウルグス)


「……」


 佐野の行きつけのBAR。

 計画のために来た場所。


(……まずい。あの日ここのマスターにも私が彼の婚約者だって写真も見せて話したのに……これはまずい……)


 俯き立ち止まる神崎に気付いた周が首を傾げ、口を開く。


「どうしたんです? やはり、無理はいけないのでお話は社用のメールで」


「い、いえ、是非お話させて下さい!!」


「そうですか?」


 そう言いながらドアを開けた。


「いらっしゃいませ」


 近重の声が柔らかく響く店内。

 暖色系の仄暗い店内を見渡すと、一番奥の席にカップルが座っている。

 手前側のゴツい茶髪の男性がこちらに背中を向けて、必死に何か奥に座る女性と話をしていた。


 女性は見えない。

 完全に手前側の男性に隠れている。


(あまりほかの客とは近付きたくないわね……)


 神崎が席を悩んでいると、周は素っ気なく言う。


「好きな席に座っててください。僕はトイレに」


 スタスタと立ち去ってしまう周の後ろ姿を見ながらイラついた。


(何よ、エスコートすら出来ないの?)


 顔との嫌なギャップに少しずつ不満を募らせていく神崎。



 だが、これはこれで好都合だ。

 周がトイレへと向かった事を確認した神崎は、おしぼりを渡してくる近重へと小声で声をかけた。


「重要な話をするから近付かないでね。今彼とは微妙な状況なの。くれぐれも私とは初対面の体でお願いね」


 近重は気に止める事もなく頷く。


「もちろんですよ。お客様」


 しばらくして戻ってきた周に神崎は席を誘導した。


「こちらにどうぞ」


「では、失礼」


 周が腰を落とす。

 だがその席は神崎から二つ席を開けた場所。流石に頬を引き攣らせた。


「と、隣へどうぞ?」


「いえ、声も聞こえますし、こちらで結構です」


 さすがにプライドが傷付いた神崎。

 声に怒りが滲む。


「そんなにコンプライアンス気にしなくても私は訴えたりしませんよ?」


 だが周はいつもの笑みで返す。


「お気になさらずに。男性はこういう時、非力なものですから。それで何を飲まれます? お酒は控えて頂きたいが」


(気にするわよ!! 私が病原菌みたいじゃない! しかも飲み物指定なの?!)


 周は近重から受け取ったおしぼりで手を拭きながら神崎に飲み物を聞く。

 神崎はイラつきを隠すように無理やり笑顔を作って返した。


「じゃ……じゃあ……アイスコーヒーを」


「はい。マスター、僕はアールグレイをアイスで」


「かしこまりました」


 神崎がおしぼりで手を拭いていると周が微笑んだ。


「あ、神崎さん。ここは会計別でお願いしますね。さっきのタクシー代はもういいので」


「も、もちろんです」


(もういいって何!?なんてケチなの!?)


 と喉まで出かかるが必死で笑みを崩さないように頷いた。


 神崎は一旦咳払いをして、本題へと切り替えた。


「それであの。先程の話ですが……」


「は、はい」


「まずはこれ、見てみてください……っ」


 席が……遠い。

 必死に腕を伸ばし、スマホの画面を見せた。


「……!?な、なんですかこれ!?」


 そこには澪桜が男性と楽しそうに二人きりで繁華街を歩く姿が。

 神崎は悲しそうに声を出す。


「やっぱり……ご存知なかったんですね」



「でも、この写真……どうして!? 何で神崎さんは僕の婚約者を知ってるんです!?」


 調べたから。

 なんて口が裂けても言えない神崎は、作り上げたシナリオ通りに話していく。



「最近ご婚約者さん、うちの会社に迎えに来られたりしていましたよね? たまたまお二人が帰るところに遭遇したり、彼女がロビーで待たれてる所をお見かけしたりする事があったので、それで」


 それを聞いた周は、静かに納得した。


「ああ、なるほど……そうだったんですね」



「今日たまたま仕事帰りに友達と食事しに繁華街の方に向かっていたら……その。男性と仲睦まじく歩いている所に遭遇してしまいまして。今日の結城マネージャーの様子を思い出したら心配で仕方なくなって。食事も早々に切り上げて残業してる結城マネージャーの元に……」


 潤んだ瞳で遠くに座る周へと体を向けた。

 周は申し訳なさそうに微笑む。


「そう……だったんですね……。わざわざありがとうございます。……でも大丈夫ですよ。異性と飲みに行く位なら普通にあると思うから、そんな程度で束縛するわけに行かないですしね」


「無理しないでください……。何か事情があるにせよ、恋人がいるのに黙って行くのは酷いですよ……私なら絶対そんなことしないのに……」


「神崎さん……僕は……」


 周が熱を帯びた視線を神崎に向け、目を細めた。

 でもすぐに首を振り、今までの会話が無かったかのようにアールグレイを口にした。



「いや、こんな話やめましょう」


(ちっ! もう少しだったのに!)


 神崎はすぐさま食い下がる。


「結城マネージャー! 私っ本気でっ」


 だが、周のガードは思いのほか固く。

 静かに首を振って神崎を静止した。


「神崎さん、僕は貴女が思ってるような人間じゃない。……彼女に見限られても当然なクズなんですよ、きっと」


「そ、そんな訳ない!!」


「どうして? 貴女は僕のこと何も知らないでしょう?」


「……私は……私なら何を聞いても驚きません!」


 周は薄く微笑んで、神崎へと体勢を向けた。遠慮気味に眉を下げて。


「そうかな……だといいんだけど」


「大丈夫ですから、話してみてください」


 神崎は慈しみの笑みを浮かべ、聖女の如き優しさを滲ませた。


「神崎さん……ありがとう。それじゃあ、話してみようかな……」


 周は感動したように、目を細めて頷く。

 そしてゆっくり話し始めた。



「……僕はね。お母さんが世界で一番大切なんです。だからね、婚約者にもお母さんと同じ行動、同じセリフ、同じ生き方してもらわないと嫌なんですよね」


「……え……」


「ちょっとでもズレたら許せなくて。だから……先週ほんの少しだけ5日間くらい? 無視したかもしれない。作ってもらったご飯が、不味くてゴミ箱に捨てたかもしれない。……でも僕、何も悪くないですよね?」


「え、ちょ」



「しかもこの間、ちょっとFXで失敗して4億くらい負債抱えちゃっただけなのに。そんな怒ることないですよね? 資産がマイナスになっちゃったから、お金貸してって言ったのに断られて……だからね、少し殴っちゃっただけなんですよ? あ、でも大丈夫。人の目につかない所だから」



「なっ……え……」


「たかがその程度で……婚約破棄なんて。酷いですよね……」


(た……たかが!?)


 悲しそうに俯く周に、喉が開かない神崎は目を泳がせた。


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― 新着の感想 ―
周さん! 設定の盛り方が豪快過ぎる!!! マザコンモラハラDVマシマシ周スペシャルじゃないですか(笑) 同じ行動、同じセリフ、同じ生きかたは盛りが高すぎて見上げんばかりでした。想像以上の反撃の嚆矢、最…
完全なるダメンズ!!凄い! 周が冬彦さん味する←古 割り勘は今は意見が分かれるんですよね。 古のBBAは奢り文化の残り香がありましたが……。 細かくチェックと一円単位の割り勘、ポイントカードは地雷。…
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