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社会不適合者の恋愛論~変人に恋は難しい~  作者: 澄泉
女郎蜘蛛編 〜反撃〜
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255話 綻び始める糸

28歳(満29歳)って作者からすると十分過ぎるほどピチピチだと思うけど、見る位置変えると価値観って変わるよねって話です。


ちょっと長くてすみません(^^;


「ったく、座るとこがないじゃねぇか……二郎食おうと思ったのに。この時間すら多いのかここは……」


「……すぐ空きますよ。食べ終わってる人もまぁまぁいますし……って本当にあそこのラーメン好きですよね。こないだ食べたばっかりじゃありません?」


「あっ……あの」


 女性社員が手を挙げる。

 立ち話をしながら先に席を探す周と藤堂が視線を落とした。


「もし、ご迷惑じゃなかったら。ご一緒にいかがでしょうか?」


「お! すまんな! 助かる」


「よろしいんですか?」


 周が申し訳なさそうに眉を下げた。

 女性社員は耳を真っ赤にして、是非どうぞと進める。


 座る前に周がスマホのボイスメモアプリを開く。



「女性に失礼があってはいけませんからね。念の為、録音させて下さいね」


「結城マネージャーらしいですが、コンプライアンス気にしすぎですよ!」


「いやいや、これはしっかりしないとね?」



 笑って流し、ボイスメモを起動させた。


 神崎は何も言わずに藤堂と周がジャケットを椅子に掛ける仕草を見つめていた。


「……それ、美味しい?」


 低く籠った声が響く。

 目が合った瞬間、心臓が跳ねた。


 まさか自分に声をかけてくると思わなかった神崎は一瞬反応が遅れ、戸惑う。



「えっ?」


「あ、すみません。彩りが綺麗で美味しそうだなって。ロハウスのランチプレートですよね?」


「そうです。今月限定の」


「そうなんだ。……じゃあ、僕も神崎さんのと同じものにしようかな」


 また、微笑む。

 悩ましい視線。クオーツのような瞳が色気を孕み……


 神崎は耳が赤くなるのを感じた。


 先週から幾度となく向けられる熱の篭った視線。

 だが言葉は変わらず軽い。


 気付くともう二人はテナントの方に向かってしまった。


 何か返事をしようと思うのに、いつも会話を続ける隙は与えてくれない。



 だからこそ分からない。


 生まれて初めて、駆け引きの劣勢を味わう。

 屈辱だが……焦るわけにはいかない。


(大丈夫、私に惹かれてるわ。確実に……落とすのよ)


 その為にはどんな女を演じればいいのか……。

 婚約者のデータはあるが、イマイチどんな女なのか分からないままだった。


 話した感じは普通。

 服装はダサく、体型もただ細いだけ。


 どこも真似ようがない。



 一度背筋を伸ばし、女性社員達の方に目を向けた。

 必死に自分の話ばかりしている。

 このタイプはハズレだ。

 自身の自慢やマウントを取ることしか考えていないから、噂を流したりはしてくれない。


「ね、ねぇ。さっき結城マネージャーが私に言ったことだけど」


「……? ロハウスの限定ランチが美味しそうって話でしょ? それがどうかしました?」


「いや……」


「あ、それでね。さっきの話だけど合コンで知り合った男性がテレビ関係者で――」


 先程の周との会話も軽く流される。

 トイレで佐々木に邪魔されて以降、この二人か、取り巻きの男性社員しか食事を共にしてくれなくなっていた。


 昼休憩は男性社員達と食事には絶対来たくない。

 周の好感度を下げる可能性がある。


 だから仕方なく我慢してるが……


 年下で

 生意気で

 パッとしない見た目

 それなのにマウント気質


 何をとっても気に食わない。


(こんな女が自分をモテると思ってるんだもの。世も末ね)


 適当に会話を聞き流し、周がこの席に戻ってくるのを待った。



 戻ってきた周と藤堂。なにやら仕事の話をしている。

 結局この日、これ以上周と話をすることも目線が合うこともなかった。


 目の前に座ってるはずなのに遠い。



 そんな幻のような男。



 だが


 この偶然がこの日から毎日続いた。

 周と一緒にいる男性社員がコロコロと変わるだけで。


 狙っているかのように決まって14時過ぎに神崎の前に現れる。

 一度お礼を言われ調子に乗ったのか、女性社員が毎回周に一緒に座りませんかと誘うようになった。



 周も断ることは無く毎度ボイスメモを起動した上で、神崎の前に座り、

 同じものを食べ、たまに話しかけられる。



 伊藤と二人で現れた日は


「神崎さん、アプリ開発順調そうですね。万歩計機能はそのままで、1万歩歩いたらガチャ一回無料なんて! いいアイデアですよ」


「いえ、そんなっ」


 神崎の返事を待つことなく、周は伊藤と会話を続ける。


「キャラクターですが前より魅力的になりましたね! 僕はあの猫が好きです」


「あはは。あのマスコットキャラクターはうちのチームでも推しなんですよ」


 その後は伊藤とずっとアプリ開発について熱く語って終わった。



 また別の日


 岡本VP


「岡本さん、いい加減ゴルフ誘うのやめてくれません?僕、運動音痴なんですけど」


「だから打ちっぱなしから行こうと言ってるだろう!」


「ね? これってパワハラって思いません? あ、女性陣はゴルフ、したことあります?」


 その後は目の前でずっと7番アイアンの話をしていた。



 話題にはあまり入れない。

 視線はよく向けられる。

 熱を帯びて

 見つめられる。


 ただそれだけだが……

 神崎の確信は色濃くなっていった。


 金曜日、女性社員二人といつも通り食事をしていると、珍しく話題をふられた。


「あのぉ。言いづらいんですが……いいですか?」


「何?」


「神崎さんって、結城マネージャー好きですよね?」


 ニヤつく女性社員。

 神崎は図星だからか、それとも小馬鹿にされた感じがしたからか分からないが嫌な気がした。


 少し冷たい声で返す。


「……どうしてかしら」


「いや、だって必死じゃないですか。日に日にメイク濃いくなるし、ずっと結城マネージャーのこと目で追っかけてるし、結城マネージャーと話す時だけキャラ変わるし」


「あ、分かる」


 冷やかすように笑う二人にイラつく。


「それを言うなら彼の方が私に気があるんじゃないの?いつも狙ったようにこの時間に現れて」


 女性社員二人は目を合わせ、爆笑した。


「いやいやいや、勘違い乙ですよそれ!!ヤバ!」


「ゆっ……結城マネージャー、仕事の話しかしてないじゃないですか!? したとしてもご飯の話とか! あはははは! おばさん必死じゃん!」


「おば!? あなた達と3歳しか変わらないでしょ!?」


 思わず大きな声が出た神崎は顔を真っ赤にする。


「いやいや、アラサーのくせに男侍らせて勝ち誇ってる時点でだいぶヤバいから。自分の顔、鏡で見たら?一回言ってやりたかったんだよね。だって私たちのこと、心の中でバカにしてたでしょ? 態度に出てたよ」


「あ、それ分かる。こっちが親切で一緒にご飯食べてやってるのにね」


「気付いてるのか知らないけど、うちの部署の女性社員皆アンタの事嫌いだから。仕事も出来ないクセに。男使って仕事した気になってんのかなり痛いから、あと結城マネージャー絶対気づいてるからね。うちのトップ馬鹿にしすぎ」


「あの結城マネージャーの嫌味に気付かないあたりもだいぶやばいよ? ……あーあ、早く異動してくんないかな?老害ババア」


「なんですって!?」


「あー。ダル。もう行こ」


 ガタガタと椅子を片付け、女性社員二人は席を立った。


 神崎の言葉を聞くこともなく、去っていく。


 上手くやっていると思っていた仕事も

 周の事も


 何もかも見下され、

 悔しくて、歯がゆくて、唇を噛む。


 こんな仕打ち人生で初めてで。

 気付くとスカートを力いっぱい握りしめていた。


 ヒエラルキーの頂点にいると思っていたはずなのに。

 あんな程度の低い人間に見下され


 神崎のプライドはズタズタに傷つけられた。



「あれ?神崎さん。今日はおひとりですか?」


「お、珍しいなぁ」


「え、ええ。ちょっと」


「元気ないですね。体調不良ですか?」


 心配そうな周の表情を見て、つい神崎は

 さっきのあの女たちの言葉が嘘だと言って欲しくなった。


「……いえ。私女性社員に嫌われてるそうなんです。だから善意で食べてやってたって言われてしまいました」


「あらら。そうでしたか」


 それだけ。

 その後どれだけ待っても慰めの言葉一つない。


 業を煮やした神崎はさらに続けた。



「あの、もし宜しかったらご一緒して頂けませんか?一人は寂しくて」


「あははは。仕方ないな、いいぞ。食ってやろう」


「だそうです。でもいいんですか?僕ら今日……ラーメン食べますけど」


「全然大丈夫です」


 だが。全然大丈夫ではなかった。


(うっ……やっぱり臭い!!)


「神崎さん、本当に顔色悪いですよ?やっぱり僕ら他で食べましょうか?」


「だっ……大丈夫……です」


 嗚咽を抑え、精一杯可愛い角度を作って笑った。



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― 新着の感想 ―
おっと!女性陣からの強烈なブローです! 蜘蛛女さん、これまでの態度に感情はモロバレでしたね。 そして、またしてもマシマシ系ラーメン! 私が経験した会社では彼女のような方をおばさん女子って言ってました。…
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