246話 謝罪を促す男と、謝罪したくない男と、そんな事どーでもいい男の男子会
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「結城って人……浮気してないんすかね? 本当に」
「……まぁ、俺が聞く限りは有り得ねぇなぁ。てかお前反省してたんじゃねぇのかよ」
「ちっ……ちが……。そういう意味じゃなくて。サキさん……本気で泣いてたから。あれが全部演技だったなんて信じられなくて」
「ああ〜なるほどな。詐欺の被害に遭うやつの典型だな。正義感ぶって、ただ二人の女性を助けたかっただけなのに〜て感じか?まさかそんな簡単に、自分が騙されると思ってなかったわけだ」
「うっ……」
図星をつかれ、佐野は俯いた。
二人を乗せて降りていくエレベーター。
チラチラとカウンドダウンのように変わっていく数字を眺めながら山本は続ける。
「まー、あれだ。お前の気持ちも分からんでもないよ。でも勘違いで人の恋路邪魔しようとしてたかも知れねえんだ。それは自覚しとけ」
「……はい」
エレベーターの扉がゆっくり開いた。
二人はエントランスを抜けて、少し紫がかった外に出る。
「よ! 周。待たせたか?」
「そうでもない」
切長の冷たい瞳が佐野を射抜く。
薄暗い景色に溶けるように佇むその男は、彫刻のような完璧なフォルムを漆黒で染め、長い首まで隠していた。
ここまで薄手のハイネックを異様に着こなす男を佐野は知らない。
落ち感の良いダークグレーのパンツでラフに佇むその姿は何とも知的で……。
細いフレームの眼鏡を直す仕草すら洗練されて見える。
一気にまた、劣等感に見舞われた。
佐野は唇を噛みながらも目の前の男に目を奪われてしまう。
(見れば見るほど……隙がなくて。生活感を感じない。だからこそ信用が出来なくて……)
佐野は静かに首を振った。
いや、それはただの言い訳だ。
頭では分かっているのに。
周へ謝ろうと口を開くが喉が貼り付いて声が出ない……微かなプライドが邪魔をする。
(俺はどこまでダサくて、かっこ悪いんだ……)
佐野はある程度覚悟していたのに、怒鳴られも殴られもしなかった。
周は決して感情を出さない。
静かに前を歩いているだけだ。
格が違うと見せつけられているようで、余計に惨めになった。
「佐野、行くぞ。周がもう店決めたらしいから」
目の前の二人に従う事しか出来ない佐野は、劣等感を感じながら、前を歩く足に目を落としてついて行った。
***
しばらく二人の後ろを歩いていた佐野が、急に足を止めた。
「な……んで?」
裏路地にひっそりと佇む柔らかな光の前で周は立ち止まり振り返る。
「なんでって? あれ、ここで聞いたんじゃないの? 『ある写真をもらったから、月曜日俺が先輩を助けるんだ』ってほらここ、呟いてる」
周は、スクショした佐野の呟きを見せた。
「……それは」
「個人情報はあまり呟かない方が賢明だよ。……神崎のゴミにもSNSから君の気持ちや素性がバレたんだろうからね。どうやって君の存在を調べたのかは知らないけど」
「……お前……ゴミて」
「ふふ。プライベートの俺に相手されたいんだろ? ……だから望み通り、あだ名で呼んでやってるんだよ。予約の時間だ……入るぞ」
周は扉に手をかけたまま
山本の方に視線を向けて不敵な笑みを浮かべた。
「……意味が違うと思うなぁ〜」
山本の気だるいツッコミが、ドアチャイムの流木の音で消えていった。
「いらっしゃいま……」
営業スマイルのまま、近重の動きが止まる。
「三名で予約をしておりました山本です」
「え!? おま、俺の名前で予約してたの!?」
「……何となく。お前の名前ってどこにでもある名前で便利だから」
「別にいいけど、なんかムカつくな!!」
「先程は僕のご相談を快く引き受けて下さってありがとうございました。では3時間だけよろしくお願いいたします」
周が近重に向かって丁寧に頭を下げた。
「あ、いえいえ。とんでもないです! こちらこそ……暇だったので有難い申し出ででしたよ」
そう言って入口の方へ向かい、外の看板をCLOSEにして鍵を掛け、ついでに表の電気を落とした。
「し、重! なんで閉めるんだ?」
「貸切のご予約だったんだよ。……まさか……お前関連とは思わなかった……。なんでこうなったのかはだいたい予測がつくがな」
『あれだけ止めただろ』
とでも言うような呆れた声に佐野はいたたまれなくて、山本の促す席に静かに座った。
振り返った近重はつい、息を飲んだ。
二度ほど女性から見せてもらった写真で見た顔がそこにいる。
写真とは比べ物にならないほどのオーラを放ち、優雅に座る姿。
同じ男とは思えない程の美貌でどこか冷たい。
(……これは……優には悪いが。太刀打ち出来るレベルじゃない。それになにより……)
周が入ってきた途端、近重は背筋が凍りついた。
その男が纏う空気は……殺気を孕んでいたから。
近重はカウンターに座る三人におしぼりを渡す。
チラリと真ん中に座る佐野を見ると小さく俯いていた。
(……恋は盲目とはいうけど、相手考えろよ優……)
ため息を付きながら、眉を下げた。




