245話 鼻メガネ
すみません!!
1時間遅くなりました!!
鼻メガネ、始まります
※今回のタイトルはあまり意味ないです笑
『澪桜が泣かされたぁぁぁ!? 詳しく話せ今すぐに!!』
「うわっ」
余りにも大きな声量で思わず山本はスマホから耳を離す。
いつもお気に入りだった喫煙所を通り過ぎ、ビルの踊り場のような場所に繋がる、人が普段開けない錆びた扉を開きながら、未だに耳元で怒号を響かせている周に話しかけた。
「まーまー、落ち着け。……とりあえず佐野には今日付き合えとは言っといた。安達は前から松井と予定があったみたいだな」
『そうだよ。俺の職場の近くに出来たフレンチに行くって言ってた、女子会なんだって嬉しそうに。……可哀想に。嫌な気持ちにさせられて。朝まであんなに浮かれてたのに……佐野の野郎、証拠なら俺に突きつければ良いものを……』
地を這うような低い声が耳に響く。
本当に怒っている、そしてやはり白だと思った山本は忙しなく煙草を探す右手でポケットからガムを出し、口に入れた。
「まぁ、腹が立つ気持ちはわかるよ。にしてもお前昔っから神崎に付きまとわれてんなー。一応その話も安達にしといたぜ。そしたら安心したみたいだった。感謝しろよ? ……てかお前、なんで安達に神崎が大学の同期だったって言ってねぇんだよ」
『……あ、忘れてた。そう言えば神崎さん同期だったっけ』
「お前本当に女に無関心な。昔から」
『そんな事言ったって……。他の女どもが生きてようが死のうがどーでもいいんだよ。……ただまぁ、ここまで俺の将来を邪魔されると……流石に神崎さんだけは目障りだなぁ』
何気なくいつもの口調で不穏な事を言う周に、山本は一瞬ぞくりとした。
「おいおいお前、間違っても法に触れるようなことすんなよ」
『馬鹿なことを……。カスの為に人生無駄にしてたまるか。ただ……まぁ。潰しはするよ、お望み通りにな。……俺に相手して欲しいんだろ?』
そう周が吐き捨てて電話は切れた。
通話終了の画面を眺めながら煽り風を浴びて、ジャケットを靡かせる山本は、手すりに背中を預けて上を向く。
「……うなぎ登りで狂気のグレード上がってるなアイツ」
晴れ渡る空に向かって、独り言を呟いた。
***
「あ! 周さんお疲れ様!」
「……お疲れ様」
パタパタと、エントランスを抜けて近づいてくる澪桜の頬に、そっと触れて目を細めた。
「……腫れてる」
「うーん、バレたか。アイライナーくらい持っておくべきだった。アイシャドウで誤魔化したけどやはりダメか〜」
「……澪桜」
唇を噛み、自分の事のように辛そうな表情を浮かべる周。
澪桜は周を宥めるようにゆっくり微笑んで、少し癖のある細くて滑らかな髪を撫でた。
ふわりと綿毛のような質感が指に伝わる。
「大丈夫、初めから疑ってないよ。ただこんなに人から嫌がらせや、別れさせられそうになるほど私は君に不釣り合いなのかなって悲しくなっただけだよ。だから少し……泣けただけ」
「この世で君以外に愛せる女なんていない。知ってるでしょう?でも……俺のせいで嫌な思いばっかさせてごめん」
「すぐそんな事言う。山本さんの話も沙也加ちゃんの話も聞いたし安心材料しかないから、尚更信じてるよ。だから周さんも私を好きでいて」
澪桜は優しい声でそう呟いて、不安がる周の頬をそっと撫でた。
すぐに大きな手がその華奢な手を包み込み、存在を確かめるように切長な瞳が閉じる。
「うん、死ぬまでずっと大好きだよ。邪魔な虫は全部潰すから、だからお願い、捨てないで」
切なそうに呟いて、眉を下げたまま周がゆっくり瞳を開けて潤ませた。
キュン☆
一呼吸ののち、澪桜は仰け反る。
「不法投棄はしないし物騒!! 不穏!! 一瞬可愛いと思ってしまった、私のアホ!」
「お待たせしましたー! 澪桜先輩!」
「あ、沙也加ちゃん来た。じゃあ私は女子会に行ってくるね! 初の女子会に! ……ぬあっ」
離れていく澪桜の手を掴み、抱き寄せる。
アンバーが優しく澪桜を包んだ。
もう誰に見られても関係ないと言わんばかりに澪桜の髪に顔を埋めた。
通り過ぎる全ての人間に澪桜は俺のものだというように。
「必ず迎えに行くから。会計が終わっても店内で待っててね」
「わかっ……分かったから! ここ職場の前だぞ!? 離せぇ!! 恥ずかしいいいい!」
「ムリ」
「何でじゃああああ!? って……あ、そうだ。沙也加ちゃん達も送って貰えるかい? 夜は危ないからね!」
必死に逃れようとするその耳に囁く。
「仰せのままに」
「うわぁ、今日も人目を憚らず結城さんが通常運転だ。お疲れ様でーす。今日は澪桜先輩をお借りしますね〜」
周は澪桜を捕らえたまま、ゆっくり近付いて来た松井に視線を向けて微笑んだ。
「お疲れ様、松井さん。澪桜の事よろしくね。それに今日はうちの部下とも会うんでしょ? 三人で楽しんできて……おっと」
にゅるりと鰻のように周の腕から抜け出した澪桜。
ボサボサになった髪を整えて真っ赤な顔で物申した。
「んもう! せっかく沙也加ちゃんに髪をセットし直してもらったのに!」
「うん。凄く可愛いよ」
「ちっがーーーう! そういう意味じゃない!」
「てか結城さん、目ぇ悪かったんですね。眼鏡姿初めて見た」
まじまじと見上げる松井の視線に気付いて、眼鏡のフレームに触れる。
「ああ、これ? 目が疲れた時だけ掛けてたんだけど、澪桜が眼鏡好きだから最近はよく掛けてるんだ。……なんか仕事出来そうに見えるでしょ」
「見える。めっちゃ見える。てかエリートシゴデキが何言ってるんですか……いいなぁ〜インテリスパダリ沼るわ〜」
「しごでき……? ぬま?」
首を傾げる澪桜に目を細めながら周は軽い口調で言った。
「ふふ。山本に眼鏡かけさせたらいいじゃない? 即席インテリ」
「いやいやいやいやいや! 山本さんに眼鏡かけさせてもただのパーティグッズの鼻眼鏡ですよ! もしくは食いだ〇れ人形!」
「あははははは! 鼻眼鏡鼻眼鏡!」
「澪桜先輩、笑いすぎです! なんかヤダ!」
「ほら澪桜、人の彼氏を勝手に笑っちゃダメだよ? もう悪く言っていいのは松井さんだけなんだからね?」
「本当だ! ごめん、沙也加ちゃん!! や、山本さんとお幸せに」
「だから、彼氏じゃない! 結城さん、余計なアドバイスしないでください!! ……んもうっ、澪桜先輩。今日私にお友達紹介してくれるんでしょ!? 早く行きましょう!」
「あ。そうだった、佐々木さんが待ってる! じゃあね〜、周さんも山本さんと佐野くんと楽しんでね!」
澪桜の手を掴み凄い勢いで去っていく二人を見送りながら周は静かに呟いた。
「ああ。俺も楽しんでくるよ」
空に赤みがさし始め、朱色が深くなる景色の中で周の笑みが溶けていく。
8月より毎日なるべく更新できるように頑張ります!
引き続き社会不適合者の恋愛論、あんま社会不適合者じゃないけど、社会不適合者の私が描く物語にお付き合い頂けましたら幸いです!!




