238話 ペットカメラと不信感
アップの際、このお話が抜けておりました!すみません
特に無くても問題ないのですが、若干この後の話が飛んで見えるので補填もかねて、もしよろしければ読んで頂けたら幸いです!
「……ふぅ」
給湯室で澪桜はインスタントのカフェインレスコーヒーを入れていた。
「みーお先輩!幸せ過ぎてため息ですかぁ??羨ましい!おすそ分けしてください♡」
花開くような可愛い声と共に、愛らしい姿が入口からひょこっと顔を出す。
「……沙也加ちゃんも飲み物?」
「はい!……ここの会社ってケチですよねぇ?バリスタくらい無料で設置しろよ!自腹なのに知らない人がたまに飲んでたりするし!ありえないんですけど」
「……まぁ、仕方ないよね。私物に鍵はかけられないからねぇ」
インスタントコーヒーの蓋を眺めながら笑う。
「私の紅茶ぁ〜」
冷蔵庫を開けて、付箋で名前の書いてあるペットボトルを開けて、コップに注いだ。
「あ、そういえば……沙也加ちゃん。やっぱこれって異常だと思わない?」
「ん?何がです?」
おもむろにスマホを開く澪桜。
とあるアプリを開いた。
すると画面に、書斎でパソコンに向かって作業する周が映った。
「!?!?」
思わず零しそうになる紅茶。
変顔のまま澪桜はスマホに指をさす。
もう一度覗き込むと、満面の笑みの周がカメラ目線で手を振っていた。
「んな!?なんですかそれ!?」
アプリを閉じて、ポケットにスマホを戻す。
「……最近うちの家に導入されたペット用見守りカメラだよ」
「ペット用……」
松井は先程の満面の笑みで手を振る周を思い出し、遠い目をした。
「私がログインすると小さいランプが点灯してね、それで周さんが気付くんだよ。まぁ、気づかない時もあるけどね」
「……疑ってしまった私が言うのもなんですが……結城さんって手加減知らないですよね、セルフ束縛って言うか」
「そうなんだよ。日に日に悪化していく……ああ。出会った頃の少年のような純粋な周さんよカムバック」
「いやいや。結城さん絶対泣きますよ?そんなん言われたら。というか私から見たら前も今も大差ない変態です」
「辛辣っ!!」
松井の言葉に思わず澪桜は仰け反った。
***
「おっと。もう10時か。ミーティングは11時から……そろそろ出勤しますか」
腕時計を確認し、軽く腕を振った。
今日は10月第1週の金曜日。
久しぶりの出社ともあって……やる事は山積みだ。
しかもやらなくていい仕事から始まる。
「……最悪な一日になりそうだな」
一言だけ呟いて、自宅を後にした。
久しぶりにオフィスに入る。
ゼラニウムとラベンダーの香りが心地よく広がる近代的な空間。
「おはようございます。結城マネージャー」
「おはようございます、マネージャー」
次々にされる挨拶。パソコンに目を落としていた社員達も周の方に視線を向けた。
背筋を伸ばし、低くよく通る声で周は社員達に挨拶する。
「皆さんおはようございます。一昨日ご連絡した通り、11時よりコンプラミーティングを行いますので、作業をきりのいい所で止めて、プロジェクトルームにお越しください」
次々と社員達が立ち上がり始めた。
今日ここにいない社員にはもう事前にオンラインで会議に参加するように伝えてある。
続々とプロジェクトルームに向かう社員。
ふぅ。
一人ため息をついて周は自前のイヤホンマイクを装着した。
『皆さん、時間を取って下さってありがとうございます。では早速業務環境の改善と、コンプライアンス遵守について、確認していきたいと思います』
会場にいる神崎チームにさりげなく目を向け、先日岡本VPに指摘された事を思い出し……。
この内部から腐り始めている部署を立て直す為に周は言葉を選びながら話を進めていった。
・”業務中”に特定の社員と過度なコミニュケーションや依存をしないこと
・一社員の仕事を過度にサポートしすぎないこと
・業務中、雑談はしすぎないように。会話の内容もTPOを意識すること
・いかなる場合も公私混同は避けること。
・柔軟剤、香水などは過度に使わないこと。香りの種類もTPOを選ぶように
(こんな小学生に言うような内容のミーティングを行わないといけなくなるとはな……)
社員達を眺め、呆れる周。
最後に……後で確実に社員達が荒れるのが分かっている事を宣告する。
『後ほど、個別の面談をさせて頂きます。名前を呼ばれた方は僕の所に来てください』
面談……
これはすなわち評価に直結する言葉。
良くも悪くも。
この会議の後に呼ばれるということは。
つまりそういうこと。
一瞬でザワつく社員達
(いや、私噂で聞いたけど公私混同してんの結城マネージャーじゃない?)
(わかる。私も聞いたんですけど。もしかしたら神崎さんと繋がってるかもってやつでしょ?女の趣味悪過ぎてウケるんだけど)
(え?あれガチなの?神崎さん、うちの部署食いって言われてない?)
(なにそれ?)
(独身の男性社員片っ端から食ってるらしいよ)
(うわ、マジでキモイんだけど)
(お、俺じゃねぇよな)
(俺かな……)
弱気になる男性社員。そして周と神崎へ、ヘイトを募らせる女性社員。
神崎はその噂に頬を緩ませる。
(いい感じね……これであの女といる所を目撃した女性社員はより結城マネージャーにヘイトを向ける。そして私は被害者のように泣けばいい。地に落ちた評価を取り戻す為にあの女を捨てて私を選ぶしかなくなるはずよ)
勝ち誇った表情を浮かべる神崎の背中を一人、佐々木は唇を噛み締め睨みつけていた。




