↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社会不適合者の恋愛論~変人に恋は難しい~  作者: 澄泉
女郎蜘蛛編 〜動き出す蜘蛛〜
244/318

236話 周の誤解の解き方

 

 

 山本が追加注文したアイスティーを受け取り、ストローを刺しながら周は思考していた。



「おい周、何難しい顔してんだ?……ははーん? さてはお前、本当は――」



「どうしようかな……リモートだから大したアリバイはないし、スマホ見せてもいいけど、社用メールは極秘だから見せられないし。こんなことならペットカメラでも仕込むべきだったか……」



「え? 結城さん……」



 松井の視線に気づいた周は、思いついたと言うようにポケットからスマホを取りだした。


「そうだ松井さん、俺のクレカ履歴でも見る? もし本当にその写真にある店に行ってデートしてるなら、流石に俺が払ってるだろうし。……現在俺が契約してるカードは全部で4枚。それぞれアプリに連携してるから履歴は見れるよ? 写真全てを照らし合わせてみよう」



 さっさとロックを解除し、松井の画像に記載されてる日付と照らし合わせていった。


 ……1つ目、家賃や公共料金、駐車場代に共益費。


 2つ目、スマホ代、ガソリン代、スーパーや薬局の支払い。


 3つ目、ETC、通信回線費、サブスク、ネット注文品、クラウドサービス料……


 4つ目、タクシー代、化粧品、衣服代。



 どのカードにも画像に該当するような店の飲食代も、ホテル代も含まれていなかった。


 だが周の顔は曇ったまま。


「……でもこれじゃ、現金払いの可能性があるから、証拠としては弱いか……うーん。じゃあLINU見る? ついでに通話履歴もみていいけど」



 LINUを開いてアカウントをみせる。

 女性は澪桜と母親のみ。

 通話履歴は澪桜と職場のみ。

 ブロックや非表示はゼロ。


 出来る限り松井の誤解を溶かすために思考を続ける。


 まだ涙が止まらない松井に、周は店員から受け取ったおしぼりを渡した。



「……あと出来ること……あ、そうだ。今から二人とも俺の家に来る? パソコンのスクリーンタイムと出退勤ログイン履歴だけなら見せられるよ……それでも全て開示するのは仕事の関係があるから無理なんだよな……他に出来る事は……」



「……どっどうして、そこまで出来るんですか!?」


 周の思考と、画面を開示しながらスマホを操る手を、か細い声が止めた。


 松井は涙を拭いながら、混乱した心のままに質問する。



 今まで出会ってきた、どの男とも違う反応の周が分からなさすぎて。


 一瞬目を見開いた周は、俯いたままの松井へ、子供に向けるような笑みを浮かべて口を開いた。


「どうしてって、当然でしょう? 松井さんが俺を疑ったまま傷付けば、それを知った澪桜が悲しむ。俺は澪桜が大切にしている人は可能な限り大切にしたい。……でもごめんね? この程度では疑いを消せないね」



 どこまでも誠実な周の対応に言葉を失う。


 抜き打ちで呼び出し、動揺する周に白状させて説得しようとしたのに、何一つ当てはまらない写真とクレカ履歴。


 そして、さっき見た待ち受けの澪桜。


 その全てが――



「はい。一応、これが出退勤ね。今スマホに落とした。その写真の日時と照らしあわせてみて? でもこれ位置情報ログとか無いからな……」



(失礼な事をしている自覚はある。澪桜先輩の恋愛に首を突っ込んでいるのだから。それでも助けたかった。でもきっと、結城さんは無実……)


 松井の心を後悔と罪悪感が埋めつくしていった。


 彼女の視線に気づいた周が、申し訳なさそうに眉を下げて見守る。



 その表情に酷く胸を締め付けられた松井は、また肩を揺らして、深く頭を下げた。



「……結城さん。なんの根拠もないのに、たかがこの程度の写真だけで……疑って、暴言まで浴びせてしまって本当に……ごめんなさい。何とお詫びしたらいいか」


 震える声。


 再び涙が頬を伝う。

 今度は苦しさからではなく、自責の念と安堵から。


「おい。松井、泣くな」



「松井さん。顔を上げて?」


 優しい、深い声。

 ゆっくりと顔を上げた松井に、周は柔らかく笑みを深めた。



「泣かないで? 怒ってないから」



 長いまつ毛を揺らしながら。


 久しぶりに目の当たりにした……

 いや、初めて微笑みかけられたその破壊力に、松井の頭の中は真っ白になって、


 今までのやり取り全てが吹っ飛んだ。



「ぐっはぁぁぁぁ!! や……山本さ……ん。やばいです、私また結城さんに落と……」


「き、気を確かに、しっかりするんだ!! ほら、俺を見ろ! こんなヤツよりいい男がここにいるぞ!?」



 松井の肩をガクガク揺らし、渾身のキメ顔で山本は懸命にアピールした。


 松井が薄目で山本を眺める。


「ぐふぅ……そ、そうでも……ない」


 松井、こんな時も辛辣。


「やめろぉ傷付くだろうが!!! 周、お前この野郎!! どこでもここでも簡単に女落とすな! どうしてくれるんだ!? この天然女磁石がぁぁぁ!!」



 周を視界に入れさせない為に必死でガードして、瀕死の松井を守る。



「え? だってアリバイ……」


「うるせぇ! もう疑いは晴れたんだよ! というか他人にここまで開示してくる奴がいるかぁ! ぼけぇ!!」



「何でだよ、誠実に対応しただけなのに理不尽すぎる。今日は特に失礼だな山本のクソ」


 納得がいかない周は一言だけ毒をついた。


 松井を完全にガードしながら山本も噛み付く。



「誰がクソだ誰が! いつまでもグチグチ言ってねぇでさっさと安達呼べ!! 肉食いに行くぞ! シャトーブリアンを!!」


「や、山本さん。いきなり呼びつけた挙句、それはちょっと」



 いつものテンションでガサツに命令する山本。

 申し訳なさそうにそれを止める松井。


 二人の絶妙に近付いた距離感を眺めながら残りのアイスティーを飲み干した。

 グラスをテーブルに置き、周はスマホに目を落とす。



「……いきなり肉ってお前、相変わらず唐突だな。まぁ澪桜も好きだし、全然いいけど。あ、念の為言っとくけど、山本に気分を害してるから、お前だけは絶対に奢らないからな? 高いだの何だの泣きつくなよ?」


「誰が奢れとか言ったんだよ! 肉食う金くらいあるわ!」


「……"俺に重課金しろ"とか宣のたまってたのはどこのどいつだよ。勘違いで人を猿呼ばわりしやがって。猿はお前だろうが」


「それいつの話だよ! そして猿って言ったことずっと根に持つなぁお前は! あーもー悪かったって! すんませんでした!」


「うわ、山本さん、社会人として謝り方までダサい。しかも結城さんのお金宛にしてたんですか? パチンカスすぎる やば」


「松井! お前笑ってんじゃねぇぞ! あんなこの世の終わりみたいな顔で、あたかも事実のように相談してきやがって! それ信じたせいで今こうなってんだぞ!? 俺可哀想!」


「そんな顔してません!! そして物凄く反省してます! 結城さん、本当ごめんなさい!」



「いいって、別に謝らなくても。ちゃんと誤解が解けて良かった。……それより早く澪桜に連絡して迎えに行かないと。きっとお腹空かせて待ってるから。……あ、でも澪桜に嘘ついた責任は山本、お前が取れよ」



「な、何で俺が!?」



 慌てる山本を他所に、すぐに澪桜へ連絡する。



 二人を連れて澪桜を迎えに行く途中、

 周は後部座席の松井に話しかけた。



「あ、松井さんさっきのアカウント、山本経由で送っておいてくれないかな?写真はエアドロで共有させて欲しい」


「分かりました!!」


「……ありがとう。助かるよ」


「全然! 結城さん、この写真で何かする気ですか?」


「いや? 何もしないよ。……まだね」



 ルームミラー越しに松井と目が合った周は、悪魔のような妖しい笑みを浮かべた。



本日もお読み下さりありがとうございました!!

次回更新は10日となります!


次回も是非よろしくお願いいたします( ᐡ. ̫ .ᐡ )

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
周ビームからの山内さん渾身のキメ顔を 「ぐふぅ……そ、そうでも……ない」 松井のやり取りめっちゃ笑いました。 無い事の証明は難しいのに、周さんは澪桜さんのためならこれでもかと納得させるところがすごい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。