234話 あらぬ疑いと生徒指導
活動報告にも書かせていただきましたが、本日より1ヶ月間3日に一度の更新とさせて頂きます。
せっかく読んで下さっている読者様にはご迷惑をおかけしますが、どうかお付き合いいただけたら幸いです!
1〜170話の書き直しを1ヶ月で終わらせられるように頑張ります…((( ꒦ິД꒦ິ)੭ु⁾⁾
周がコロナになった次の週の火曜日。
夜19:00
険しい顔で睨む松井。
その目線の先には―――周。
松井の隣で気怠げな顔で面倒くさそうにしている山本。
周は松井の威嚇など、全く意に介さずに涼しげな顔で微笑んだ。
「それで? 今日はどのようなご要件で?」
「ゆっ……結城さん、何もかも知ってるんですよ! 私は!!」
「お前もやっぱ男だったんだなぁ。俺の事、散々言ってきたくせになぁ」
(山本まで。何を言ってる? なんの事だ?)
周は少し眉を顰めて目の前のグラスに手を伸ばした。
***
遡ること1時間ちょっと前
リモートで仕事をしている周、本日の午後のスケジュールは……
黒瀬というアホな生徒の生活指導……もとい業務指導。
画面越しに不貞腐れている、態度の悪い男に今日も今日とて指導をしていた。
「浜竹商事から、株式会社ユーエンから、松重重工から……クレームですね。貴方に」
「はぁ!? 僕が何をしたと仰るんです? それは向こうの言いがかりだ」
鼻で笑う黒瀬。思い当たる節があるはずなのに、全く反省すらしていない。周は軽く頭痛を覚える。こめかみに手を当てながら冷たい視線で口を開く。
手元のメールを証拠として共有した。
「この『取引のことで二、三質問しただけなのに、高圧的な態度でバカにされ、その後は返信もなく、催促のメッセージをしても無視をされました』……とありますがこれは?」
「それはっ契約内容を読めば分かることなのに、いちいち僕に聞いてきたからですよ! 無駄を省いただけです。無視ではありません」
「世間はそれを無視と言いますね。次に『担当を変えてくれ。君ではなくもっと若い女性社員に。でないとやる気が出ないと言われてとても不愉快でした』……これは?」
「は! そのままの意味ですよ。31歳の行き遅れおばさんの癖に、高飛車だったから現実を教えてあげただけです」
「現実を見るのは黒瀬さんの方だと思うのは僕だけですかね? ……『贔屓にしてほしければ誠意をみせるべきだ』……これはどういう意味ですか?」
「たったあのくらいの取引しか出来ない貧乏中小企業の癖に、偉そうに言ってきたからですよ! だったらもっと金を出せ。アメリカではそうでしたよ?」
「ここは日本です。そして黒瀬さんの個人取引ではなくクレストリンクと一企業の取引であって、貴方の価値観は関係ない」
はあ。と黒瀬を呆れた顔で見つめ、哀れみを帯びた声で呟いた。
「ああ、取引先との業務連絡すらダメでしたか……」
「すらってなんだ!! 結城マネージャー、アンタまた僕のことを馬鹿にするのか!?」
指導開始以来、いろんな仕事を周から振られていた黒瀬。その度に細かに指摘されて、イラつきがピークに達していた。
だがそんな事は、何処吹く風。周は淡々と返す。
「馬鹿にはしてません、落胆しただけです」
「同じじゃないか!!! 僕はエリートだぞ!? こんなカスがするような業務ばかり寄越して!! これが馬鹿にしてないとしたら何だと言うんだ!? しかも何で僕までリモートワークをしなければならない!?」
「エリートなのは知ってますよ。でもね、黒瀬さん……貴方はそのカスみたいな仕事を、何一つまともに出来てないことに気づいてますか? 新入社員ですら3日でこなせる内容を……ですよ?」
「なんだと!? 貴様、誰に向かって――」
「まぁ、僕がリモートワーク辞令を受けたせいでとばっちりになったのは申し訳なかったけど、貴方はエリート。だったらいきなり環境が変わっても問題ないかなと思ったんですけどねぇ」
キレそうになった黒瀬を上手く持ち上げ、コントロールする。
「そ、それはそうだが。だからといって」
「VP直々の辞令ですが、ご自分で岡本VPに物申されてもいいと思いますよ? 僕みたいな下っ端ではどうすることもできませんので。そうだ、今からこのウェブ会議に――」
「そっそろそろ終業時間じゃないですか!? 明日また9時、14時、17時にご指導よろしくお願いいたします!」
周の言葉を遮って、慌てて切り上げようとする。
「本当だ。もうこんな時間。……ではまた明日、今回のクレーム対応は僕がしておきましたが、次からクレーム自体が上がらないように接客も”日本式”でお願いいたしますね。それでは落ちて頂いて結構ですよ、お疲れ様でした」
「はい! お疲れ様でした!」
逃げるようにオフラインになった黒瀬。
イヤホンを外して背筋を伸ばす。
ギシッ
周の体に沿ってチェアがしなった。
「……はー疲れた。なんかリモートになってから澪桜より黒瀬さんと話してる時間のが多い気がして、凄く嫌なんだけど。……ああ、頭皮が心配だ……」
時計を見ると18時過ぎ。
澪桜を迎えに行く時間。
パソコンの電源を落とし、飲みかけのコーヒーをシンクに持っていこうと立ち上がった。
すると、スマホが鳴る。
すぐに目線を落とした。
「なんだ、山本か」
いつも通り無視してシンクに向かおうとしたが、スマホがそれを許さなかった。
今度は着信で周の動きを封じる。
少し様子を見たが、スマホの震えが止まらない。
出るまで鳴らし続けるぞという、山本の強い意志をスマホから感じた。
「ちっ……面倒臭ぇな。せっかく今から人が澪桜を迎えに行こうって時に」
イラつきが顔に滲んだ。
ため息をついて仕方なく出る。
「何」
『お前なー。早く出ろよ、在宅の癖に。それとも何か? 何か出られない訳でもあんのか? んん?』
相変わらずウザい。
そして何かを勘ぐるような言い方がイラつく。
「面倒臭ぇから出たくないだけだよ。……で、何の用?」
『俺が用っていうかだなぁ……松井がさぁ』
「……松井さん?」
『安達にはお前をちょっと借りるって話してあるから、安達を送ったらお前だけちょっと面貸せ』
ピクッと眉を動かし……表情が変わる周。
低く唸る。
「……澪桜に? 何を言ったんだ?」
『別に、ただ男同士でたまには話してぇから周貸してくれって言っただけだよ。松井がいることも話してない。人が忖度してやってる間にさっさと出てこい』
全く意味は分からない。
だが何となくいつもの軽いノリの冗談だという風でもない。
何か……話さないといけないことでもあるのか?
仕方なく言う通りにして澪桜を自宅まで送り、
「ごめん、すぐに戻るから」
一言謝って、指定の場所に向かった。
―――そして今に至る。




