233話 めざしとメロン
更新が遅れましたすみません!!
本日もどうかよろしくお願いしますいたします!
若干甘々の回です!
「うーーーーーむむむむむむむむむむむむ。一休宗純さまぁ、我に良い会話の切り出し方を与えたまえ」
何やら謎めいた事をぶつくさと呟きながら、一休さんのポーズを取り、歩きながらとんちを繰り出そうとしている澪桜。
とても険しい形相だが、本人は気づかない。
営業部との打ち合わせが終わり、すれ違う人達を驚愕させつつデスクに戻った。
澪桜だって人だ。
煩悩や嫉妬に影響される日だってある。
今日がその日。
「……み、澪桜先輩!?」
強ばった筋肉は戻らない。
そのまま松井へ指示を出す。
「沙也加ちゃん、これ。営業部の田丸さんが渡してって。ポップの追加オーダーらしいよ。締切は本日中だって」
「ええ。……あれで決まってたはずなのに……って、どうしたんです? その岩みたいな表情」
「……岩て。どんな表情だいそれは」
ぐぎぎぎぎ。
と、音が聞こえてきそうなほど、ぎこちなく無理やり笑顔を作る。
直ぐに松井は核心に迫った。
「何かあったんですか? その……結城さんと」
ジャスミンティーを飲もうとしたタイミングで図星を突かれて澪桜はむせそうになった。
「ぐっ!!! ……! ……ケホッ……なぜピンポイントで分かったんだ……」
「いや、それ以外に何も無いでしょ? 澪桜先輩の悩むものなんて」
「言い方が辛辣だ……はぁ。しかしまぁそうだね」
素直に認める澪桜に眉を下げた。
「……年下で後輩ですが。私でよかったらお昼話聞きますよ? なにかアドバイスできるかも」
パァっと強ばった頬の筋肉が緩んでいく。
口を開こうとして少し止まった。
(……ああ、そうだった。こうやって悩んで、周さんに直接言わないから誤解してすれ違ったんだった)
だが、思い返した澪桜はゆっくり首を振る。
「いや、やっぱりやめておこう……本人に直接聞くのが一番だろうからね。ありがとう! なんか急にスッキリしたよ。言い回しなど気にせずにストレートに聞くことにしよう!」
松井の優しさが染みたからか、覚悟を決めたからか……澪桜は吹っ切れたように笑った。
「おお、さすが澪桜先輩。なんか男らしい」
「ふふふ。待っていろ周さん、君がムチムチボインの豊満ちゃんが好きなのは知っているぞ。同僚メロンのメロメロ攻撃にやられているのか否か、聞かせて貰おうじゃないか!! このめざしの如き私がねぇ!!!」
「うん。……なんの事か大体分かった気がします」
何かを悟った松井は笑ってつっこむ。
「おっといけない。次の打ち合わせの時間だ今日は立て込んでてねぇ。……じゃあ沙也加ちゃん、さっきのポップの件、宜しくね」
先程座ったばかりだと言うのに、すぐにまた新しい書類を手にして、時間を気にしながら立ち上がる澪桜に視線を上げて頷いた。
「あ、……はい。わかりました」
颯爽とオフィスから出ていく澪桜の後ろ姿をながめながら
ニコニコと笑っていた表情を少しずつ曇らせる。
もうその背中には届かない、か細い声でつぶやいた。
「……はあ。どうしよう……今日も打ち明けられなかった」
***
仕事が終わり、迎えに来た周と帰宅した澪桜は、いつも通り食事を作って二人で夕食を共にする。
普段と変わらない、いつもの会話。
「今日は忙しかった? ……ゴホッ」
優しく甘い、周の声が響く。
まだ乾いた咳が止まらないままだが、先程食後にシロップを飲んだから、いくらか治まるだろう。
「今日は打ち合わせが立て込んでてねぇ。珍しくほぼ一日が打ち合わせで終わったよ。人と話すのは疲れるねぇ」
汚れた食器を片付ける手を止めて、澪桜を見つめる周。
訝しげに片眉を上げる。
「……打ち合わせって……何回あったの? 男の人? 何歳の人? 何人?」
いつもの尋問……いや、会話。
毎日の日課のようなもの。
事も無げに澪桜は自分の食器を重ねてシンクに運びながら答えた。
「午前中は二件で、一件は男性と女性、もう一件は女性……というか君」
「な、何?」
急に岩のような変な顔でにじり寄ってくる澪桜の迫力に押され始める周。
「毎日毎日、事細かに聞いてくる君こそどうなんだい? ええ? めざしの如き私が聞こうじゃないか」
「んなっ……なんの事ぉ?! しかもめざしって何!?」
思わず上擦る声。
「……女優のように美しくて、君好みのムッチムチのボインボインに普段囲まれて仕事をしているんだろう? 今はリモートだが、そのチームにもメロメロ攻撃をしてくる女性がいるんじゃないのかい?」
「ええ!? そんなのいないよ。というか顔なんか見てないし、興味も無……ってかちょっと待って!? 聞き捨てならないんですけど! 俺がいつ豊満バディが好みって言った!?」
「男の人は皆、巨乳が好きだとコラムに書……」
「はい、もうダメ!! コラム読むの禁止!! そんなの千差万別でしょうが!! 世論の全部が全部、俺に当てはまるわけないでしょ!? 前も職場の女性には何の興味もないって言ったの忘れた!? 俺の好みは澪桜なの!! 分かった!? ゴホッゴホッ!!」
「言ってる事は分かるが、分からん!!」
「自信満々に言うな!! 矛盾がすごい!!」
すると澪桜は少しずつ不安げな顔に変わっていく。
喧嘩とも言えない、いつも通りのアホなやり取りだと思っていた周。
澪桜の表情に気付いて、眉毛を下げた。
優しい声で話しかける。
「……何か不安なことでもあるの? 何でも聞いて。答えるから」
「……いいのかい?」
「もちろん。俺だって毎日……不安でその。聞いちゃってるしね、根掘り葉掘り」
自覚していたのか、周は申し訳なさそうに笑った。
「……今の、周さんの抱えてる開発チームにさ、その……女の人っている?」
「いるよ。二人ね……ケホッ」
「そっか……」
眉を下げる澪桜。周の顔に気付く……笑ってる。
「……おい。なぜニヤける」
「いや、だって。澪桜がヤキモチ妬いてくれてるから、嬉しくてつい」
「やめろぉ!! 生暖かい笑顔を向けるなぁぁ」
急に恥ずかしくなった澪桜は両手で顔を隠す。周はドS、面白がって恥ずかしいことをすぐ揶揄ってくる。
だが今日は違った。
直ぐに大きな手に掴まれて、隠していた顔を穏やかな瞳が覗き込む。
「澪桜、こっちにおいで?」
「え?……ちょっ」
半ば強引に引っ張られる腕。
早足でついて行くとそこは書斎だった。
パソコンを開き、マウスで操作しながらDOOMを見せる。
「極秘の企画なんだろう!? 情報漏洩――」
「企画内容教える訳じゃないよ。ただ、DOOMのアカウント見せるだけなのに、問題ないでしょ。スマホの連絡先見せてるのと同じ」
そこには本名がズラっと並んだアカウント名。
いろんな国の人の名前が書かれている。
その中のグループ。
アプリ開発チームというファイルを開く。
そこには九名の名前が。
画面の中の名前を指さして微笑んだ。
「この、田辺百花さんがアプリのベータ版を作った人。そしてこの桐島美玲さんはその同期、同じアプリ開発に長けてる人。そしてここのチーム全ての人が既婚者で俺より5~20歳年上。ケホッ」
(……名前違う。あの人は20代っぽかったし……)
少しずつ表情が柔らかくなる澪桜を抱き寄せて、キスを落とす。
「……ね? このチームの総責任者俺なんだよ? 酷いと思わない? 俺なんか一番年下なのにさ、やりにくいったらないよ」
安心させるように笑う。
周の穏やかな笑顔が澪桜の心を溶かす。
「……ごめんね。ありがとう教えてくれて」
「全然いいよ〜! 不安になったらいつでも言って? なんでも答えるから。俺の心は常に開示状態ですから!」
「開示状態? なんだいそれは。 ……でも安心した。チームにはいないんだね。あの人」
澪桜の髪を優しく手ぐしで整えていた手が……
ピタッと止まる。
「……あの人って誰のこと?」
「今朝、神崎さんという人にぶつかったんだよ、道端で偶然ね。女優のように綺麗で、ナイスバディだったし、チラッと見えた書類が君の部署、君と似たような企画だったからもしかしたらって……あんな綺麗な人には足元にも及ばないから不安でねぇ」
「……澪桜さんが? 神崎さんが澪桜の足元にも及ばないの間違いでしょ。俺の女神と比べるなんて恐れ多いよ」
「あはは。大袈裟だなぁ相変わらず君は! ……ん! 何をする」
書斎の椅子に座った周は
細く折れそうな腰を引き寄せ膝に座らせた。
逃げられないようにそっと小さな頭に手を回す。
「馬鹿なこと言うからお仕置き」
より深く、澪桜の唇を奪う。
何度も、優しく。
周の甘い口付けに蕩ける澪桜。
更に奪う。
熱を帯びて何も考えられなくなるほど。
澪桜の不安を溶かす為に、周は愛を注ぎ続けた。
(……偶然? ……それは本当か……?)
心に芽生えた微かな違和感をかき消すように。




