227話 デモンストレーション
長い!!
会議のお話はどうしても長くなりがち……すみません。
お付き合い頂けると本当に嬉しいです!!
ザワザワ……
上層部達が資料を軽く捲りながら、話し合っている姿を黙って見ているしか出来なくなってしまった神崎チーム。
「……今回は残念だったね」
「確かに。カンファレンスに挑むには時期尚早だったのかもしれない。もう少し練りこめば良かったな」
力ない男性たちの言葉に対して余計にイラつく。
所詮は平社員だ。
ある程度利用出来ればいいと思っていたが、思った以上に使えなかったと、神崎はこの場で罵倒したい気持ちを必死で抑える。
爪を握りしめすぎて痛みが走った。
こいつら……
カンファレンス前は自信満々に言ってたくせにこんな簡単に手のひらを返すような真似して恥ずかしくないの?
この案なら秒殺で結城マネージャーを唸らせると宣っていたのはどこのどいつよ!
私がせっかく、あのムカつくパートのクソババアから盗んだ企画を。この私をバカにしたあのババアが悔しがって辞表を出すところが見られると思っていたのに。
あのオタク女のバカみたいな企画そのものなんかより、私の洗練された都会的なアレンジの方が断然ウケるはずなのに。
この良さをしっかり生かせないなんて、なんて無能な男共なの。
結城マネージャーも悪いヒトね。
私に何度か探りを入れていたし、これもどうせ最初から決まっていたシナリオなんでしょう?
じゃないとこんな簡単に棄却だなんておかしいもの。
まだ大丈夫よ。
たとえどれだけ糾弾されても、盗用した証拠なんて残してないから。
現実が受け入れられず
プライドからか、神崎は男達に苛立ちを募らせる。
自身の犯した罪から逃れるために何度も大丈夫だと自分に言い聞かせた。
糾弾された際の言い訳を考えながら。
すると、上層部の席から会話が聞こえてくる。
「にしても結城、お前は本当にキツいな。毎回カンファレンスの度に思うが」
「……冴木さん、やめてくださいよ。岡本さんの前で人聞きの悪い。僕だって叩き落としたい訳ではありませんよ? 事前に再三聞きましたし。『カンファレンスは本当に木曜日でいいのか?期間が短過ぎないか?』って。そうしたら自信満々に『ご期待ください!』て言っていたから……そりゃあ僕だって期待しちゃうじゃないですか」
「そりゃあまぁな。俺も期待してたし」
「でしょう?」
周が冴木に同意を得ていると、冴木の隣に座っていた岡本が笑う。
「いやでも、冴木の言う通りだな。相変わらずキツいよお前は」
「あ、酷いですね。岡本さんまで!」
岡本に視線を向けて、周は眉を下げおどけて見せた。
軽く笑い声が上がっている。
先程までピリついていた会議室に、穏やかなムードが広がる。
だが不思議なことに誰一人、会議室を出ていく様子がない。
神崎チームは不思議に思った。
何故なら自分達の渾身の企画が、たった今棄却されて会議が終わったはずなのに。
するとその空気を察したように、岡本が少し声を張り上げ神崎チームに話しかけた。
「君たち、お疲れ様だったな。完全に棄却という訳では無い。続けるならもう一度、一から立て直しなさい。元のアイデアは良いのだから。では、業務にもどっていいぞ」
寛大な言葉にチームを代表して、先程司会進行をしていた男性社員があたまを下げる。
「ありがとうございます。もう一度チームで話し合い、立て直して挑ませて頂きたいと思います。……業務にはもちろん戻らさせて頂きますが……その。自分達がこの会場の片付けを致しますので」
男性社員の言葉でチーム達が立ち上がり、片付けようとし始めた。
すると周が優しく声をかける。
「皆さん、それには及びませんよ。まだこのカンファレンスは続きますので。片付けは僕に任せて、業務に戻って頂いて結構ですよ?」
周の言葉の意味が分からなくて、思わず聞き返す。
「えっと……それってどういう?」
「次は結城のプレゼンの番だという事だ。君たちと同じアプリ開発だよ。二つともが採用になれば大きなプロジェクトになると踏んでいたんだがなぁ」
冴木が笑って言う。
「……え?」
神崎が目を丸くする。
固まる神崎チームに岡本が良いアイデアだと言うように、口を開いた。
「そうだ、君たちも結城のプレゼンを見学していくといい。次回のアプリ開発のヒントが貰えるかも知れないぞ?」
「……あまりプレッシャーを与えないで頂きたいな」
周は困ったように微笑んだ。
(アプリ開発……?)
結城マネージャーが?
一体……いつ?
同じ部署にいるはずなのに、寝耳に水な神崎チームのメンバーは動揺する。
だが、岡本の提案だ。半ば強制的に席に着いたまま、周の動向を目で追った。
落ち着いた様子で周はモニターの傍に立つ。
『では我々の考案したアプリ企画のプレゼンを始めさせて頂きます。神崎さん達の分の資料は準備しておりませんので、すみませんがモニターでご確認くださいね』
主役から一気にイレギュラーな存在となってしまった神崎チームは、気まずそうに周へ会釈を返す。
『偶然にも"MIRA CARE/ミラケア”に似たコンセプトのサポートAIアプリなんですが、こちらです』
パッとモニターに映し出された文字。
“Oshi Mate/オシメイト”
ゾクッ
神崎の背中に何か冷たいものが走る。
(ま……まさか)
見覚えのある文字。
あのババアの……
無意識に周へ視線を向けてしまった。
何もかも見透かされたような瞳でこちらに微笑みかけている。
美しいその表情からは何も読み取れない。
だからこそ、神崎は不安に駆られる。
膝の上に重ねられた手には汗が滲み、気付くと小刻みに足が揺れていた。
『“Oshi Mate/オシメイト”とは最近のメディアやSNSなどでよく聞く”推し”と”相棒をそのまま足しただけの、海外でも発音しやすい、その一点に特化したネーミングを採用致しました』
モニターを切り替える周。
『このアプリの利用方法は無限大です。使い方はユーザーに完全に依存する為、全世界対応となります。恋愛シミュレーションゲームの課金をしてキャラクターのモーションを楽しむというものでも、健康管理だけをしてもらうAIとも違う。全く新しいAIです』
「……これ、僕らの盗用じゃないのか?」
「結城マネージャー、まさか俺たちの企画をそのままパクったのか!?」
神崎チームが小声でどよめいている。
神崎が盗用した側だなんて知る由もない男性達は苛立ちを隠せない。
だが周は気にすることもなく、進行を続ける。
モニターを切り替えようとしていると上層部から手が上がった。
周は視線を向け微笑む。
『どうぞ』
『無限大……の意味がイマイチよく分からないのですが。流石にそれは誇張しすぎた表現な気がします。今の段階では申し訳ないが先程のアプリと大差ないように思えるのですが……現存するサポートAIとどう違うのか、分かりやすくご説明頂けませんか?』
その言葉に周の口角が妖しく上がる。
『では……ここでデモンストレーションを行いましょう。今あるのはベータ版。我社の3世代前の生成AIを移植したものなので出来ることは限られますが……田辺さん、準備はいいですか?』
「で……デモンストレーション!?」
「既にアプリがあるということか!?」
「盗用……ではないのか!?」
チームの男性達が小声で困惑している。
(田辺……!? この場に呼ぶつもりなの!?)
神崎は爪を噛みながら思わず周に視線を向けた。
周はいつの間にかイヤホンマイクのようなものを耳に付けている。
まさか……
神崎の嫌な予感があたる。
画面から少し低めの女性の声が響いた。
ショートカットに眼鏡を掛けた女性が画面越しに頭を下げた。
『お疲れ様です。私だけこのようなリモートの形での参加で失礼いたします。田辺です』
周は上層部に経緯を説明する。
『このベータ版は元々、彼女がたった1人でプライベートな時間を使い、5年という年月を掛けてコツコツと作り上げたものです。過去に彼女が作り上げた3世代前の生成AIを組み込んで』
『正確には生成AIも私が個人で立ち上げた3世代前のものをヒントに作り上げたものです。世にある我が社の商品を使用すると色々引っかかるかな? と思って使っておりませんので悪しからず』
『あ、そうなんですね。失礼、皆さん。ベータ版の著作権は彼女に帰属するそうです』
周が軽いジョークを挟んだ。
ははは。と笑い声が上がる。
『このベータ版をお見せする前に少しだけお話を。当時、私は妊活をしており主人との価値観の違いから独りで悩み、焦りを感じる日々をすごしていました。主人との問題なのに、会話ができない。そのせいで塞ぎ込む日々……男性方にはご経験がお有りでは?』
田辺の言葉に咳払いする上層部の男性達。
『そんな時に出会った恋愛シミュレーションゲーム。下弦の月と運命の恋人略してカゲコイ。その中のヴィンセントというキャラクター。彼のスチルが唯一の癒しとなっていた私は、ファンアートならぬ、ファンアプリを作ることにしたんです。制作を初めて2年目で妊娠し、4ヶ月目で軽い妊娠糖尿病に。そこでただ頷くスチルのモーションAIから、自分の役に立たせるため、サポートAIアプリとしても使えるように生成AIを移植しました』
(ふん。結局ただのオタクババアの自語りじゃない。だからなんだって言うのよ)
興味無さげに神崎がつ目を見ていると……
『なるほど、では今回、そのベータ版を拝見する事が出来るのでしょうか?』
上層部からの急かすような問に周は優しく頷く。
『はい。早速、彼女のアイデアと努力の結晶を、皆さんにみていただきましょう。田辺さん、よろしくお願いいたします』
画面の中の田辺が画面を切り替える。
無機質なパソコンのトップ画面が現れた。
『……では画面にご注目ください。これは私のパソコン画面です』
会議室の中が静まり返り、固唾を飲んで見守る。
『……ヴィンセント、いる?』
田辺が優しく、パソコンに向けて話しかけた。
するとデスクトップ画面の中に歩いてくる長髪の美しい男性。
パチン
と彼が指を鳴らすとトップ画面にモダンなデザインの部屋が現れた。
部屋の中心に置いてある猫足のテーブルに向かい、そっと椅子に座った。
滑らかな動きで紅茶を嗜んでいる。
その美しい男性が画面に視線を向けて柔らかく微笑んだ。
〘 ああ。モモカ、どうしたのかな? 今日は仕事なんだね〙
低く穏やかな艶のある声で優しく話しかける。
「なっ!?!?」
「「おおおお!!!」」
神崎の口から漏れ出た声とほぼ同時に上がる歓声。
先程とは比べ物にならない程の熱量が空気で伝わってくる。
神崎と男性社員達は
目の前の奇跡に目を奪われたまま動けなくなった。




