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社会不適合者の恋愛論~変人に恋は難しい~  作者: 澄泉
女郎蜘蛛編 〜企画盗用〜
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225話 始まる偽物の会議

 


「神崎さん! セッティング完璧だよ。今日のプレゼン頑張ろうね」


「皆さんごめんなさぁい。私の代わりにセッティングまで」


「いいんだよ! このくらい。神崎さんはここの席に座って!」


「すみませぇん。……でも伊藤さんって、相変わらず優しい」


「いや、そんな……」


「俺たちもやってたよ? ほら、神崎さんこっちにおいで!」



 先に会場入りをしてセッティングをしていた社員3人が、神崎に近づいてエスコートを始めた。

 まるで学祭のマドンナに群がる学生のようだ。


 周はその異様な光景に片眉をピクリと動かす。



(何を考えている? 公の場で……それに、これは神崎の企画だろう? 何故そこに座らせようとしている)



 その席は企画に加わったチームが座ってサポートする為に控える席。


 男性社員達は何故かそこに神崎を座らせた。

 とても大切そうに。



「ほう。あれではまるで姫を取り巻く家臣のようだなぁ。早く会議を始めて欲しいものなんだが。はははは」



 左から岡本の失笑が聞こえ、他の上層部の人間達も声を押し殺して笑っている。

 時計を見ると……神崎達が入ってきて既に5分は経っていた。



「……申し訳ございません」



 静かに周が頭を下げる。



 “TPOを弁えさせろ”


 “人を待たせておいて、プレゼン側が後から来た挙句、何を悠長に雑談している?”


 “結城の社員教育不足だ”



 暗にそう注意されたのだから弁明のしようがない。


 だがこのような事態はこの部署に入って初めての事だった。

 異様な光景、団結とは違う……どこか狂気にも似た社員達の動き……



(……なんだ? あの空気は)



 主任(リーダー)達とのウェブ会議を思い出す。


 “下僕”


 その言葉がピッタリだと思った。


 周は静かに神崎へと視線を向ける。

 女性らしく、いや寧ろ過剰とも思える仕草。

 甲斐甲斐しく世話をし続ける男性社員達。


 会議中(カンファレンス)だというのに……。


 周は少しだけこめかみに流れる血流が早くなるのを感じた。


(たった3週間程度でこんなに内部から腐り始めていたとは……確かに彼女が要注意人物だという事は認めよう。ただ、頭が良いとは到底思えないが)


 忙しさにかまけて、社内の秩序に目を向けていなかった自分を悔いた。


 ハタ……


 神崎が周の視線に気付き、目を丸くする。

 頬を紅潮させて淑やかに会釈してきた。


 不快に感じた周は目を細め、微かにまつ毛を揺らして会釈は返さなかった。


 カメラをセッティングして、モニターの前に男性社員が立つ。

 やはり神崎がプレゼンをする訳ではないようだ。


 マイクを持った男性が意気揚々と、司会を始めた。


『大変お待たせ致しました。我々が考案したアプリ”MIRA CARE/ミラケア”のプレゼンテーションを始めさせて頂きたいと思います。皆様、どうぞよろしくお願いいたします。……まずは3ページ目をご参照ください』



 切り替わるモニター、そして紙がめくれる音が響く。



『MIRA CARE/ミラケアとはあなたの未来を共にケアしていこう。という意味が込められています。AIがユーザーと同じ目線で、傍に寄り添う事を前提とした次世代型の健康管理アプリです。現代社会の人間は圧倒的に運動不足です。ここに我々は着目しました』



 いよいよ始まったプレゼン。

 今マイクを持っている男性社員は周より年上の先輩。

 流石というほど、進行慣れしている。


 だが―――



『具体的に、健康管理はフィットネスを中心としたものと、健康レシピニュースを定期的に配信。フィットネスに関しては無料の動画から、CMを視聴する事で各部位に特化したものまで、AIがポーズの取り方を教えてくれます。このCM視聴でスポンサーを獲得することが可能です』


 周はモニターをじっと眺め、唇に指を這わせた。

 思考を集中させ収益や利益率を予測する。


 司会の男性はさらに続ける。



『AIのモデリングは現段階でデフォルトの男性モデル3パターン、女性モデル3パターンとなっておりそれぞれ性格に個性があります。モーションもアップデートにより増やしていく方向です。ただの恋愛シミュレーションAIなどは既に出回っていますが、健康管理として寄り添う型は世界初となります!』


「おお!」


 小さな声が上がり、微かに拍手が上がる。

 神崎は背後から聞こえてくる感嘆の声にほくそ笑んだ。


 男性社員は神崎と少し目配せをした後、更に続ける。



『運営方法としては、無料利用者をターゲットにそこから市場を増やし、物足りなさを感じたユーザーにカスタムをさせる。有料版は更にパターンを増やしていき、着せ替えと共にランダム(ガチャ)要素で購買意欲を向上させ、これによる収益をと考えております』



「……なるほど。だが、最初に上がってきていた企画内容とだいぶ違うな」



 岡本の冷たい声が響いた。

 マイクを通してない独り言の為、前の男性社員には聞こえない。


 だが、これは周にとって追い風となる評価。

 つまり……神崎達にとってはマイナスということ。

 皆が静かに聴いている事に手応えを感じた男性社員はノリに乗って饒舌になっていく。



『更に、アップデートで始まるユーザーのアバターを使ったSNS機能。健康管理が辛くなったり、自分だけでは?と弱った気持ちを呟くことが出来る。同じ気持ちを抱えたユーザー同士が繋がり、励まし合えるコミュニティ。これにより、類似する他社の健康管理アプリと比較しても、ユーザー離脱率、30%減という市場予測データも取れています』


 ここで、上層部側から質問が来た。

 経理部のマネージャーだ。

 手を挙げた上層部に視線を向けて、司会をしていた社員が一礼する。



『経理部の高橋です。企画の内容に矛盾を感じました。これだとAIは必要ないように思えます。それにこの企画内容だと、ただのSNSアプリになってしまうのでは? 今後DMなどの機能もつくる予定なのでしょうか?』


『もちろんです! 質問の返答ですが、AIは必須です。彼らが専属のインストラクターとなって食事の管理から、運動のメニューまでサポートしてくれるわけですから。あくまでユーザー同士の繋がりは、励まし合ったり友達になったり。その程度と仮定しております』



『……ですが―――』



(……違う。論点はそこではない)



 周はその経理部マネージャーの質問が終わるまで静かに待っていた。


 岡本と冴木の視線が周の方へ向く。


 面白いモノを見るように。


 15分ほどSNSに関する質疑応答が続いた後、タイミングを見計らったように、スっと長い腕が挙がる。


 皆の視線が……その色素の薄い儚げな男性に集中した。



『ど……どうぞ』


 その独特な雰囲気に、直属の部下である司会の男性も若干たじろいだ。

 何度も見てきたであろう、その厳しく冷たい視線に晒されて。


 静かに立ち上がった周は社員からマイクを受け取る。


 少しだけ手元の書類に視線を向けて長いまつ毛に影を落とした後、低く穏やかな声がスピーカーを通して室内に広がった。


『ありがとうございます。新規事業開発部の結城です。では質問を幾つかさせて頂きますね』



 ここから一気に空気が変わる―――


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