23話 美人とウーパールーパー
今回ちょっと話長めです。
「いっそげぇぇぇぇ!!!」
バタバタ走る澪桜。器用にバブーシュでアスリート走りする様は正直、全く可愛くは無い。
公園が近づいてきた。
キョロキョロと、走りながら見回してみるが……結城らしき人物は見当たらない。
その代わりに入口付近でポージングをする高身長の男性がいた。公園には似つかわしくないオシャレな出で立ち。柔らかめな色味の透けるような茶髪、小さい顔。海外モデルか?
おおかたファッション雑誌の撮影だろう。
そう思いながらモデルの横を通り過ぎるが……撮影班がいない。
まぁそんなことはどうでも───
「あっ……安達さん!?」
聞きなれた声が後ろからした。
ズザザザザザー!!!
反射的に足を止め、大股開きで急ブレーキをかける。モワモワと砂埃を撒き上げながら澪桜は振り返った。何で? 顔が疑問符になりそうなくらい首を傾げて。
声をかけてきたモデルの顔をよく見てみると、なんか見覚えのある幻想的な顔。
……結城だった。
「結城さん!?!?」
結城は慌てて澪桜に近付いてきた。
「通り過ぎるからびっくりしました。違う人かと……」
(てかなんで俺スルーされたの!? 変だったから!?)
内心物凄く混乱している。
「それ私も思いました。何かの撮影なのかと。公園に似つかわしくないモデル立ってたので……まさか結城さんだったとは」
そう言って ははは…… と笑う澪桜。
ポケーっと見つめられ
不思議に思う。
「?」
「一瞬分かりませんでした。お昼に会うのは初めてですので。……身長高かったんですね。俺と頭1つ分しか変わらない」
「そうですか? 一応これでも168cmありますからねぇ。そう言えば結城さんも、こんなに身長高かったんですね! 何cmですか?」
「ひゃっ……185……」
そう言って顔を赤くし始める結城に何故か、目線を逸らされた。
澪桜はハッとする。
「というか、すっ……すみません! 遅刻してしまったのに普通に会話してしまっていました!!!! ごめんなさい!!」
(遅刻の上に普通に話すとか最悪だ私……)
一気に現実に引き戻される澪桜。
謝りもしないで結局公園に到着したのは14:03。
罪悪感でいたたまれなくなる。
「あっ! 全然! ていうか俺が早く来すぎてしまっただけで、時間ピッタリですよ!
ただその……前の時と雰囲気が違うので……その……」
何故か口ごもりながら結城がチラチラとこちらを見てくる。澪桜は不思議そうに首を傾げた。
(……ん? そう言えば今日、なんか顔に皮膜感が無いな)
ゆっくり自分の顔を触る、だが指に何も付かない。
「!? しまったぁぁぁ! 顔描くの忘れてたーーーーー!!!」
痛恨の一撃。
澪桜は1番大事な作業を忘れていた。
それは……メイク。
女子力 -1500だ。
思わず公園の入口付近で突っ立ったまま真っ赤になった顔を隠した。
「安達さん!? あの……嫌な意味ではなくて……可愛いなというか、その方がむしろグッとくると言うかその。俺は何言ってるんでしょうか」
フォローしたつもりが本音が出てしまい思わず結城も顔を隠した。何故か公園の入り口で真っ赤になる二人。
結城の心の中は嵐のように荒れ狂う。
(やばい安達さんのすっぴん可愛すぎるだろっ! どストライク過ぎて、彼女はもしや天使か?)
顔を隠したままだが澪桜は律儀に御礼を言い始めた。
「ありがとう……優しいね結城さん。化粧しないとウーパールーパーな私なのに、慰めてくれるんだね。遅刻の上にすっぴんなんて失礼にも程がある。うぅ……」
自分の失態にフォローまでさせてしまったことに罪悪感を感じ始め、結城さんごめんよと何度も呟く。
「もー! そんなこと本当に無いですってば! ……確かに遠くから走ってくる姿は一瞬、アスリートのランニングかなとは思いました。走り方がカッコよくて」
なるべく平静を装い澪桜を慰める。実際は、走ってきた澪桜の横顔の綺麗さにまた一目惚れして心臓ズタボロになっていただけだが。幼さと色気を感じるすっぴんに慣れなくて、今も直視はできない。正直ガン見したいけど。
「陸上していたからね……」
恥ずかしすぎて無駄な情報に逃げたくなる澪桜。
「なるほど! ……て、ほら、ベンチに行きましょう? ねっ!」
結城は優しく話しかけ、なるべく触れないように気をつけてエスコートした。
「ああああ。ごめんよぉ……」
ベンチにゆっくり腰を落とし、今もまだ顔を隠したままの澪桜。ずっと謝り続けている。よっぽどすっぴんと遅刻の2連コンボが効いたらしい。
「もう! 遅刻してないですって! 気にし過ぎ! それに俺は安達さんのすっぴん好きですよ。自然で」
目線を外し少し頬を紅潮させて言う結城。素の澪桜を垣間みることが出来た事が嬉しくて、思わず口から出てしまう。
気付かれ無い程度の───本音。
口元は緩んでいた。
「……自然……? このままで良い?」
少し顔を上げ結城を指の隙間から見つめた。目が合った結城は心臓が跳ね上がる。でも、安心させるため……視線は逸らさずに首を振った。
「もちろん! むしろそのままがいい。ね? あ、そうそう。これ良かったら……もう冷めちゃったかな」
結城は手に持つ紙袋から、スタパのコーヒーを取り出した。
「あっスタパ!」
隠していた顔をパッとさらけ出し、緩めのお団子がふわふわと揺れる。その揺れと連動して周の心も揺れた。
(っ……可愛すぎるぅ)
「か、カフェラテとチャイティーラテ、どちらがいいですか? こないだアーモンドミルク大好きって言ってたので両方カスタムしてみました」
それを聞いて澪桜は一気にテンションが上がる。自らの顔は……結城さんが良いと言うならもう気にするまい!と早々に諦めた。切り替えの早い女だ。
「嬉しい!! 頂いて良いんですか?」
「もちろん! どちらにされますか?」
「……私チャイティーラテがいいなぁっ! その組み合わせ美味しそうっ! 結城さんナイスセンス!」
嬉しそうにはにかんで言った。
「……かな? と思いました。スパイス好きって言ってたし。良かったこれ買ってきて。はい、どうぞ」
「わざわざありがとうございます。頂きます」
そう言って一度口に近づけたが止めて、膝の上に置いた澪桜。結城は自分の分を持ち、不思議そうに聞く。
「あれ? どうされましたか?」
「あ、すみません気にしないで先に飲んでてください。待ってるだけなので」
「え?」
そう言いながらカフェラテを口にする。
「熱気がまだ危険そうだったので多分まだ飲めそうも無いから……私、猫舌なんですよ」
へへへ……と照れ笑いをした澪桜。
ズギューーーーーーン!!!
スナイパーで狙われる結城。
「うっぐふぅ!!」
思わず胸を掻きむしった。
「えっ!? どうしました!? むせた!? むせたんですか!? 美人なのに!?」
なのにの意味がわからない。
美人て何。
「だっ……大丈夫です。今飲みましたけどそんなもう熱くないですよ?」
そう言って、チャイを持ったままずっと待ってる目の前の可愛い生き物を、目に焼き付けようとする結城。
だが破壊力が凄すぎて、まだ会ってから10分も経ってないのに、早々にクリティカルを受けてしまった。
(心臓、もつかな俺)
「そうですか? ……じゃあ信じます」
澪桜は結城を信じて、恐る恐る口を近づける。
「!?」
ビクッ! 跳ねる肩、思わず口を離す。
慌てて結城は澪桜にハンカチを差し出した。
「だっ大丈夫!? 熱かったですか!?」
ハンカチを受け取り唇を押さえて澪桜は恨めしそうに結城に言う。
「……嘘つき、上唇と舌を火傷した。なぜ結城さんはこんな熱いの平気で飲めるんだ。原理がわからない」
首を傾げながらまたチャイを見つめる。
「ごめんなさい!! あれ? おかしいな……うん。やっぱそんな熱くない」
確認するがやっぱり適温。むしろ温かめで美味しい温度。
それを見て悔しそうに澪桜は言う。
「……何故だ、なぜ飲み物のサイズやミルクはカスタム出来るのに温度はカスタムしてくれないんだ。“ぬるい”があってもいいだろうに!」
ぬるい!? いるそれ!? すぐ常温じゃん!! と思わず結城は笑い、そのまま会話を続けた。
「なんか……あれらしいですね。猫舌ってようは飲み方の問題。舌の動かし方のせいとか言ってましたよ、テレビで」
「舌の動かし方? ……なるほど」
納得したように、結城が飲むのを凝視する。澪桜の真剣過ぎる視線に当てられ、思わず吹き出しそうになる。
「がっガン見はやめてくださいっ! 緊張しすぎて飲めない」
「そりゃ申し訳ない。ちょっと動きを観察しようと思ったんですよ」
「舌の動き透ける体してませんよ」
笑って眉を下げた。それはそうだと澪桜は更に思考する。
(安達さん、また何か考えてる?)
何をしていても可愛くて見ていて飽きないな、と思う結城を他所に、澪桜は口を開いた。
「そのテレビ、ちゃんと舌の動きを分かりやすくレクチャーしてくれたら良かったのに。そしたら結城さんに口頭で教えてもらえたのに」
「……俺にはそんな口頭で伝える技術はないですよ」
普通にツッコんだ。
「だって! 生まれた時からこの体しか使った事ない! この舌の動かし方しか知らない! テレビめっ。分かったような事を宣いよって! 猫舌になってからものを言え!!」
恨みの矛先がテレビに向かう。飲みたすぎるチャイを天に掲げプルプル震えている。
「もう絶対大丈夫ですよそれ。だって俺のめっちゃぬるいもん」
天に掲げたチャイに向けて結城は指を指した。澪桜にちょっとそれ貸してと言い、一応触ってみるが、……やっぱぬるい。
「今度は絶対大丈夫だから」
結城は笑って澪桜に返した。澪桜はブツブツ言いながら、恐る恐る口をつける。
「この飲み口がね、狭いのがまた意味がわからんのですよ。
これじゃ熱気が逃げないし、外すと付けるの難しい、ゴクッ……あ!!! 本当だ適温!」
「ね? 今度こそ大丈夫だったでしょ」
何故か得意げな結城。うんうんと、何故か結城を称賛し、澪桜もテンションが上がる。
「さすが結城さん! そして何これ!? もの凄く美味しい! 結城さんも飲んでみませんか? ……て、すみません、口付けちゃったからだめだ。ははは、失敬失敬」
オッサンのような動きで澪桜は会心の一撃を結城に喰らわせた。
ズギューーーーーーン!!!!!
本日2度目のスナイパーライフルで狙撃される。
「うごふぉっ……」
また胸を掻きむしった。
(自然にかっ、間接キスしようとするとはっっっ! あわよくば飲みたい、飲みたいけどっ! 言うと変態……)
こんな時、慣れた男なら軽くスマートに“俺そんなの気にしませんよ、1口もらっても?”て言えるんだろうな。
ああ、もう言える雰囲気じゃない……。
一世一代の好機を逃す結城。人生初の間接キスは見送りとなった。
「……あはははは!!そんなこっち飲みたかったですか?? じゃあ次は私がご馳走しますよ!! にしても、結城さんて思ってたより変な人ですね! ものすごく変!!! 美人だけど!!」
ニコニコ笑いながら言う澪桜。悪意の無い直球の暴言に、結城は瀕死の重症を負った。
「ぐふっ! だけどの意味がわからない」
次こそはっ絶対に言ってやる! 間接キスしてやる! と変な決意を心に決めた。




