22話 換気扇と時間配分
結城にLINUを送った澪桜。
「まだまだ余裕だね♪ さてと、最後にこの換気扇の羽を取り外しっ……ぐっ……!? とり……とれぇああおあぁぁぁぁ!! うぉるぁぁぁぁぁ! っぐぅ。このっ!!」
物凄い形相で力を込めるが、ビクともしない。
「そうだ! 温めれば……」
独り言を言いながら洗面所からドライヤーを持ち出す。そして換気扇を熱しに熱しまくった。そして今度は軍手を装着する。
「……ふう。これで良し。これなら簡単……にっ! ぐっっこのぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
何をしても動かない。格闘から1時間と少し。澪桜は仰け反って悶絶している。
「うおおおおお。こっ……腰がああああ」
ドンドンと腰を叩く。ずっと反り返った状態で換気扇と戦っていたせいで多大なダメージを腰に負っていた。
しかしそれでも諦めない。
うおおおお!!という怒号のような気合いと共に、もう一度力を入れるが……やはり何をしても取れない。
よく見ると油で固着して、溝が埋まっている。そりゃこれじゃあ取れるわけがない。
「何でだ……去年は取れたのに! そんな1年間、私は油ばかり使ったとでも言うのか!? フィルターもしていたし!! しょっちゅう交換していたのに!!」
ぬおおおお! と腹を立てる澪桜。
概ね掃除完了したのだがどうしても羽の裏が磨きたい。だがそれは業者に頼まないと無理そうなほど強固な物となっていた。解せん。解せんぞと独り言を言う。……老婆のような体制で。
ピロン
台所のシンクに置いたスマホが鳴った。澪桜は視線だけスマホに向ける。
「ちょっと早いですが着きました。お待ちしていますね」
ヒュっ
一瞬にして冷える肝。
慌てて時計を見ると……2時……15分前!!!
「しまったぁぁぁぁ!! 時間配分、間違えたぁぁぁぁ!!」
慌てて準備する。慌てすぎて服を選ぶ暇もない。とりあえず洗濯物の上から二つを取る。
縺れる足、後ろ前逆に着るパーカー、ボサボサの頭。
(やばいやばいやばい!!! 結城さんを待たせてる!! 自分からお忘れなく♪ とか言って置いて、死ぬほど申し訳ない!!)
ハッと手元を見る。……ふやけてボロボロ。しまった! 面倒くさがって劇薬を素手で触っていたからか!!! と澪桜は後悔した。
※必ず手袋とゴーグル、マスクをしましょう。
とりあえずハンドクリームをネチネチ塗りながらボサボサの髪の毛を手ぐしで整えようとするが……整わない。
パニックで無駄な思考と動きが増えてしまう。
バグのように。
時刻は……13:52。
もう既に到着してから7分も待たせてる。焦れば焦るほど動きが鈍り、非道にも時間だけは刻一刻と過ぎていく。優先順位を見失った澪桜は狼狽え始めた。
そう、澪桜はプライベートの時間配分が苦手。過去に告白されてから友達になった男性と会う時は予定が全く無いフラットな日にしていたから、遅刻などはしなかった。駄目な人間だと自覚があるので気を付けていたのに。
……今日は違った。
(よりによって仲良くなれた結城さんとの待ち合わせにこんな失態。あぁ、換気扇なんか……明日にすれば良かった)
後悔してももう遅い。
ボロボロの状態で慌てて外に出る。……普通の女子なら良しとしないそんな格好。 澪桜はなりふり構わず走り出した。
色が褪せまくった黒いストレッチの効いたスキニーパンツにヨレヨレで毛玉だらけの白いパーカー。柄物の変なバブーシュ。髪の毛はまとまらないのでルーズなお団子のまま。
……コイツは今からコンビニにでも行くのか。
(もう既に結城さんは15分も待ってる。最悪だ!! 私がしつこく換気扇を倒そうとしなければ、もう少しまともな服装で出れたものを……。いや、格好なんか気にしてられない!! 遅刻するよりマシ! 急がねば!!)
がっさがっさと男のような走り方で公園を目指す。
よし! 大丈夫だ!
絶ッ対間に合ったはず!
だってめちゃくちゃ急いで出たもん!!
自分にそう言い聞かせながら、必死で走る澪桜。
久しぶりの全速力だ。
「結城さんっ……ごめん!!」
チラッと走りながらスマホを見る。
……14:02……
(ガッデム!)
無事に2分遅刻した☆




