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21話 準備と本音

 

 結城は朝から上機嫌だった。鼻歌を歌いながら落ち着きなく動き回る。チラリとウォークインクローゼット内の姿見鏡に自分が映った。そこには気持ち悪い笑みを浮かべた男がいる。


(……浮かれてニヤける三十路前の男……物凄くキモいぞ俺)


 頭で自分に何度も言い聞かせた。

 だか……効果は今ひとつのようだ。


 だって今日は人生で初めてのデート(仮)なのだから♪


 朝からシャワーを浴び髪の毛を入念に洗う。体もいつもの倍の時間をかけた。

 これでもかってほど歯を磨き、髪の毛にヘアオイルを馴染ませて乾かす。タオル地のヘアバンを付け顔にパックを付けたまま服を選び始めた。もちろん保湿も万全!


 

 結城は下戸でお酒は飲めない。タバコも吸わない。ギャンブルにも関心はない。

 女性にお金を使う? 興味もない女に使う時間や金なんてあるわけが無い。アホらしい。


 そんな無機質な人生でただ一つの趣味と言えるもの。


 それは自分に似合う服を見つけて買うこと。高身長ということもあり、なかなか似合う物も少ない。そのせいか気付いたらファッションを楽しむ事が趣味になっていた。それ以外にお金の使い道は知らない。


 結城はそんな堅実な男だった。


 ウォークインクローゼットには洗練された服が店のように並ぶ。几帳面な結城の性格が滲み出ていた。


「……うーん、安達さんに少しでも好印象を持って欲しいからなぁ。どんな服がいいだろう。公園デートだしなぁ……」


 ブツブツとクローゼットの中で独り言を言う結城。


(シャツ羽織る? カットソーの下に白いチラ見せタンクで重ね着? ……うーん。緩すぎか)


 クローゼットの前で悩むこと30分、やっと決まる。


 白いカットソーの上から、黒地に紫の細いラインが入った曲線柄のカーディガン。パンツは少し緩めの黒いテーパードパンツ、くるぶし丈で足のラインが綺麗に見える。アンクルソックス、黒のスリッポン。

 ほぼモノトーン。でもカーディガンで少しだけ遊び心をだして、キレイめにまとめたコーデが完成した。


「おれ……変じゃないかな。これ………大丈夫?」


 いつもは自分の為だけにオシャレする。その時の気分でコーデを選ぶ結城。

 だが今日は違う、正解が分からない。


(安達さん……どう思うかなぁ? 休日の安達さんはどんな感じなんだろう)


 澪桜と会う時を想像して、心臓が一気に跳ね上がる。掌が手汗で湿りはじめた。


(ヤバい……き……緊張してきた。どうしよう!? どうしよう!? 何時に出て、スタパ買いに行ったら丁度いいかな!? お昼食べてるよな、飲み物だけの方がいいか)


 色々頭を駆け巡る。


 澪桜の顔が頭に浮かんだ。

 あの日の……彼女。初めて間近で話をした憧れの女性。ほぼ水平の薄めの眉縦幅の大きいアーモンド型の目。小さめの鼻と口。中性的な印象の……美しい人。


 そしてあの透明感のある高めの声。

 頭の中で澪桜が微笑む――


 喉が鳴った。

 思わずスマホで時間を確認する。

 ……まだ12時半。


 時間が経たない。早く……早く安達さんに会いたい。激しい衝動が結城を襲う。

 

(待て、早まるな。落ち着くんだ……)


 深く深呼吸をした。

 ふと澪桜の現状を推理する。


(今頃まだ戦ってるのかな? 換気扇)


 そう思うと少し微笑ましくて口元が緩む。早く会いたいけど、彼女の用事の方が優先だ。たとえいくら遅くなっても構わない。彼女が俺のために時間を割いて会ってくれる。それだけで十分幸せなのだから。


 支度を済ませ静かにソファに座った。今日は朝連絡が来たきり、澪桜からの連絡は無い。


 こっちから連絡するのは迷惑かな。

 そう思いながら眺める、澪桜とのトークページ。


 すると、ピロン。

 澪桜から連絡が来た。


『14時に公園! お忘れなく♫ 私はもう少し換気扇と格闘してお待ちしております!』


 思わず笑ってしまった。


「ぷっ……俺が誘ったんですけど。何言ってんの安達さん」


 ソファに頭を預け目を瞑り、手で目元を抑える。結城の頬が少し緩んだ。


「……ホント、好きだなぁ」


 小さく、微かな声で本音を漏らす。



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