19話 スターゲイジーパイ
仕事が終わった結城は、会社の駐車場の車の中でずっとスマホと睨み合う。澪桜に聞きたい事があり過ぎて、文字を入力しては消してをかれこれ20分ほど続けていた。
(自然な会話の入り方で……)
やっとの思いでできた文書を確認する。
『お疲れ様です。今仕事終わりました。安達さんは今日はどんな風にお過ごしでしたか?』
よし、これでいいかな。と納得して送信した。
(予定は無いと言っていたが、急遽入る予定もあるかもしれないから、聞いておきたい。……把握しておけるような間柄ではないのは自覚してるけど、我慢できない、気になる)
澪桜に万が一異性との約束ができたらと思うと気が気じゃないし、空いているならあわよくば会いたい。結城の心を不安と期待が埋め尽くす。
すぐ……返事くれますように。祈るようにスマホを眺めた。「何時でも返せる時でいいですよ」なんてカッコつけた自分が今更憎い。
既読。
(やった!! 既読付いた)
ぶわっと血流が一気に流れる。画面を見ながら待ち構えた。傍から見たら動画でも見てるのかと思うほどに真剣に……
『お疲れ様です。GWが無いのはキツイですね。飛び石だと集中力も途切れてしまいますよね。私は連休はずっと大掃除しています。今日はお風呂場のカビと戦っていました』
(カビと戦う安達さん。なんか可愛い)
思わずキュンとしてしまう結城。
すぐに返信をした。
『そうなんですよ。飛び石ってキツイですよね、精神的に。
まぁ連休だとしても会う友達も、異性も全くいませんから問題ありませんが。俺の人生なんて寂しいもんです』
聞かれてもいないのに、「俺フリーですよ」アピールまでしてしまう。結城にとっては、どうしても伝えたい文章だった。恋する男に個人情報なんてものは無い、自己開示一択だ。
『そういえば安達さんはどこ出身ですか? 訛りがないから東京とか? 俺は東京出身です』
堪らず続けて送信した。
(しまった。打ちすぎた)
後悔しても後の祭り。傍から見れば、ガッツきまくる片思いダダ漏れLINUだが、澪桜は普通に返す。
『私は九州出身です。訛りが少ないのは土地柄かもしれません。方言はあったけどイントネーションは標準語と同じだったので。結城さんは東京出身なんですね! なんかイメージ通りです。もしくは海外かな? なんて思いました。ドイツとか』
(ドイツ!?)
なんで!? と思いながらも褒められてる気がして結城は頬が緩む。
それに澪桜の事を少しずつ知る事が出来て何よりの幸せだ。照れ隠しにツッコミを入れながら返した。
『ドイツて! 俺、行ったこともないですよ! 海外はアメリカとイギリスだけです。アメリカは留学、イギリスは出張で。スターゲイジーパイ……あれはやばいです! インパクト凄すぎでした、見た目が特にね。結局滞在中はずっと中華食べてましたね』
聞きたい事はあるのに、なかなか本題が質問できないまま、しょうもない話をしてしまう。
今澪桜は暇なのか、即既読で返してくれた。
『スターゲイジーパイって魚の頭飾ってあるやつ? どうヤバいんですか!? とても興味があります! 海外のお話もっと聞きたいです! 私は海外は行ったことがありません。
飛行機も1度しか乗ったことがありません。実家も飛行機だと早いのですが怖くて乗れないのでいつも新幹線で帰っています。だから実家にはお正月しか帰りません。
GWも大型連休ではありますが、毎年一年に一度の大掃除に潰れちゃいます。ようは暇つぶしですな』
偶然、澪桜の方から本題を打ち明けてくれる。聞きやすくなったタイミングで、更に聞いた。
「良い暇つぶしですね、理にかなってる。じゃあ残りの連休、予定は入ってない感じですか?」
『でしょ? 部屋も綺麗になって、気持ちも清々しくて一石二鳥! そうですね。予定は何も無しです。大掃除が終わったらまったり動画鑑賞でもして残りの休日は惰眠を貪ります』
(やったぁ! 予定ないって! 嬉しい! GW中に、デ、デートとか……誘ってもいいのかな)
予想以上の澪桜の返答に浮かれてしまう結城。
せっかく海外の話を聞きたいと澪桜に言われたのに、完全に抜け落ちていた。
今の結城にそんな心の余裕は無い。
明日以降の連休中、確実に予定が無いという事を確認できた事で、悩みや不安が消え去り、期待に胸を膨らませた結城を乗せて、黒いセダンは颯爽と駐車場を後にする。
(あとは、どうやって公園に誘うか。たまたま公園に行く自然な口実がほしい)
そんなものあるわけないのに、やたらそうゆう所を気にするのが結城。さっきの流れで普通に誘えばよかったのだろうが、チキンハートな彼には到底無理な相談だった。
澪桜から海外について催促のメッセージが3件も来てたので、帰ってから慌ててスターゲイジーパイの話をLINUしてあげたという。
スターゲイジーパイ……憧れます。頭突き刺したやつ。




