24話 海の中のドライブ
変人と言われ、ショックを受けつつカフェラテを飲む結城。
(変な人、それっていいの? 悪いの? 安達さん……)
悩む結城の横顔がとても絵になると、澪桜はまじまじと見つめた。
(にしても)
澪桜はつい、思った言葉が声に出た
「……しゃれおつなぁ」
「んん? しゃれおつ? ……えっ俺?」
「うん。モデルかと本気で思いましたよ」
「いやいや、それは褒めすぎですよ」
テレテレと頬を赤くして照れ隠しをする結城。
結城さんは謙虚だねぇと思いながら、澪桜は何気なく自分の服装を見た。
なんじゃこら!? 思わず二度見する。
隣の洗練されたしゃれおつ男子の隣には、似つかわしくない……コンビニ帰りの女。あまりに焦っていた為、何も考えず畳んだばかりの服を適当に着てきたせいだ。あまりに酷い現実に肩を落としながら澪桜は呟く。
「……それに比べあたしは、とんだ芋野郎ですな。こんな芋と待ち合わせさせてしまって申し訳ない結城さん」
遅刻し、メイクを忘れ、服は芋。全くもって良いとこ無しだ。澪桜の言葉に驚き過ぎて、飲み物を気管に入れそうになった結城。
「んぐっ!? 芋野郎って誰が!? 安達さんはそのままで十分すぎるほど、す、素敵だと……おもい……ます」
(何言ってんだ俺!? どうしよう好意がバレてしまう)
どんどん声が小さくなる。
顔が見れない。
「そんなお世辞まで言ってくれる。しゃれおつで穏やかで気配りも出来て、優しいときたもんだ。結城さんがモテる理由わかる気がします! 山本さんが言ってましたよ!」
そよそよと髪を揺らし、澪桜は申し訳なさそうに結城を見て頭を下げた。
(モテっ!? いらんこと言うなっ山本!!)
誤解されたくない結城。後で覚えとけよ!! と山本に悪態をつく。
「俺なんてそんな。誰に対しても優しい訳じゃないですよ」
暗に、澪桜だけだという意味で答えた。伝わらなくていい。ただ、言いたいだけだ。
その言葉に澪桜は微笑んで頷く。
「そうですね。選別は必要だと思います。そうでないとただの八方美人になってしまう」
サッパリと肯定してくれる、凛とする姿。やっぱり好きだなと結城は思った。
感慨に耽っていると、澪桜が結城を指差した。
「にしても、そのカーディガン、素敵ですね。結城さんにとても似合ってます。珍しい柄ですね……しかも起毛なんですね!へぇぇ〜」
結城の服に興味を持ったのか、まじまじとカーディガンに目を向ける。一生懸命選んだ服を褒めて貰えて一気にテンションが上がった結城は弾けるように笑って話し始めた。
「ホントですか!? 嬉しい! この服SHARIEFってブランドので、高身長の俺でも着れる物がまぁまぁあるんですっ! 今日初めてこれ着たんですが……よかった。変だったらどうしよってちょっと不安でした」
へへっと少年のように綻ばせながら、饒舌になった。
くしゃっと深める表情がとても柔らかく、本当に楽しそうで。澪桜もなんだか嬉しくなった。
「……結城さんは、服好きなんですね?」
「はい! 唯一の趣味です」
そう言って澪桜に満面の笑みを向けた。初めて見る心からの笑顔。澪桜は思わず見入ってしまった。
(初めは落ち着いた大人な印象だったけど、だいぶイメージ違うなぁ。より話しやすいというか、親近感が湧くというか。一緒にいると落ち着く感じ。不思議だなぁまだ会って3回目なのに)
「とても素敵な趣味だと思います。結城さん、スタイル良いからなんでも似合いそうだし」
うんうんと、笑顔で頷いた
「いえ、そんな事ないですよ。でも嬉しい! 基本はネットショッピングですが、ウインドーショッピングするのも結構好きなんですよ? ……ぼっちですけどね!」
結城は、にししっとイタズラに笑う。澪桜は結城の返しに爆笑した。
穏やかな昼下がり。新緑に包まれた二人は和やかに会話を楽しんだ。
***
「昨日の海外の話は面白かった! コンビニ事情が特に。日本と違うんだなって。それぞれの良さがある感じがまたいいですね」
「最近はだいぶ変わってるみたいですよ。部下が言ってました。俺が出張で行ったのも何年か前ですからね……まあ古い情報だと思ってください」
そう言って楽しそうに笑った。
「……海外かぁ……いいなぁ」
空を見上げ澪桜は異国の地に思いを馳せる。
「……行ってみたいですか?」
……連れて行ってあげたい。結城はつい、そう思ってしまう。
うん! と結城の言葉に何度も頷きながら澪桜は言った。
「徒歩で行けるなら!!!」
思わずむせてしまう
「っ!? それは無理!! そう言えば電話でも仰ってましたもんね。どうして苦手になられたんですか? 耳が痛くなるとか、頭痛とか?」
よく人から聞く嫌いな理由。安達さんもそんな感じかな? と聞いてみる。すると澪桜は神妙な面持ちで話し始めた。
「高校の修学旅行の時に初めて飛行機に乗りました。その時に限って天候が急に悪化し不安定になりました。乱気流も凄くて……。視界不良。『間もなく着陸します』と案内が入ってから上昇と下降を続け、流石に周りの乗客たちも騒ぎ始めました。その間なんと2時間半。それでもCAは平然としていました。だから私も大丈夫だと思っていた」
何とも不穏な話の内容に結城は固唾を飲んだ。更に澪桜は続ける。
「無事着陸した後、最後尾の席だった私は一番後に飛行機を降りました。その時、見送りが終わったと思って気が緩んだCAさん達の会話を聞いてしまいました。『今回は本当に……死ぬと覚悟した』と。『燃料があと15分ほどしか持たなかったらしい』と。
チラッと顔を見ると顔面蒼白になっていて……嘘では無いと確信しました。それから飛行機苦手です。あ、修学旅行自体は楽しかったです! 料理も凄く美味しかった!!」
衝撃的な回想すぎて、楽しかった感想が霞む……。
思っていた200倍はホラーな内容だった。もっと可愛い内容だと思っていた結城は、想像のはるか上な状況をリアルに想像し、自分もちょっと飛行機乗るの怖くなってしまった。
「それは……怖い。俺でもトラウマになるかも」
「ねー!? 怖いですよね!!ああ、ハワイにも行ってみたい。徒歩で!本場のガーリックシュリンプ食べたいなぁ」
座ったまま隣でハワイアンを踊っている。南国気分なのが手に取るように分かった。
その横顔が可愛くて――堪らなく愛おしい。
結城は澪桜に気持ちを合わせてみたくなる。無理だと分かっていても、気持ちだけでも共有したい。
「徒歩かぁ。さすがにちょっと遠すぎますね」
「……そうなんだよねぇ距離的に。一生無理かぁ!」
残念そうにする澪桜に、深く微笑みながら呟いた。
「……もし海に高速道路が出来たら俺がいくらでも連れて行ってあげますよ。安達さんが行きたい所、何処だって。海の中のドライブ、きっと楽しいですよ」
君の為なら世界の法則だって書き換えてあげたい。
もし俺にそんな力があったなら、君の望むもの全て叶えてあげられたのに。
だから……せめて、二人で同じ夢を見よう。




