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213話 夜伽の練習とハレンチバイブル

※今回、やや性的な雰囲気・触れ合いの描写があります。苦手な方はご注意ください。

例え今回のお話は飛ばしても、次回からストーリーは問題なく補填出来ますのでご安心ください。



 


 いつになく陽気な鼻歌……いや、熱唱が部屋に響く。

 やけに上手いから腹が立つ。


 周のリサイタルを聴きながら澪桜は震える手で、目の前のハレンチバイブルに視線を落とした。


「よ……予習……」


 ピンクの見出しを捲っていく。


 まずは溺愛のチェック項目が書かれていた。



 〘頻繁に連絡を取り、情報を共有〙


 〘デートなど、常に全力〙


 〘些細なことに気付き、褒める〙


 〘不安にさせることをしない〙


 〘将来を見据えた話をする〙


 〘会話に寄り添い、尽くす〙



 溺愛チェック項目を全て読み終え、今までを思い返す。


「……知らなかった……アレが世の中の彼氏という生き物の通常運転だと思ってた、……周さんこそがまさにその溺愛彼氏だったんだ」


 今更気付いた澪桜。

 努力して手に入れようとしていた溺愛だったが、

 もう既に手にしていたのだから、これ以上どうすることもできない。


 頬杖をついたまま、パラパラと流し読みしていると、ついでに周の独占欲は結構重度だということに気が付いた。

 あれは執着系とか、依存系彼氏というらしい。

 若干の注意喚起がされている。


 酷い場合、愛情が歪んで憎しみになり、ストーカーやモラハラになったりする人もいるらしく、別れる時が厄介なのだという。


 ……周さんは、多分、犯罪スレスレで私を雁字搦めにして逃げられないようにするんだろうな。


 頭が良い分タチの悪い変態。

 あ、間違えた。

 溺愛、依存、執着系彼氏。




「っ!?」


 次のページの見出しに止まる。


 〘初めて過ごす熱い夜を失敗しない! いい女になる為に〜初心者入門編〜〙


「こっ……これは熟読せねば!!」


 震える手でパッションピンクの目が痛いページを開いた。


 すると現れる、澪桜の知らないめくるめく大人の世界。

 澪桜からすると、あまりにも過激な内容。


 心臓が踊り、視線が泳いでしまうのを必死で我慢ながら熟読していく。



 正直、何をどうやって始めるのかも分からなかった澪桜からしたら、とても有難いバイブルだった。

 親切にも、処女の貴女へというように一から十まで事細かに教えが書いてある。


 その中でもすぐに実行できそうだった言葉


 〘思った事、聞かれた事は恥ずかしがらず、甘い声に乗せて伝えてあげよう。営みは二人の心とカラダのコミニュケーションだから、お互いが心地よいものにしよう〙


「……思った事は口にする……なるほど」


 澪桜は、本の教えを胸に刻むように、独り言を呟いて頷く。


「……為になる事書いてあったの?」


「あ、周さん!?」


 うしろから優しく腕がまわる。

 風呂上がりのシャンプーの爽やかな香りと、いつもより高い体温が澪桜を包んだ。



 良い匂いすぎて深呼吸をやめられない。


 澪桜の頬に当たる柔らかい髪がくすぐったい。

 澪桜を包む腕の体温と匂いに集中してしまう。



 今日初めてクレストリンクで見た周はどこか近寄り難くて。

 余計にオフの彼が……特別に思えた。


(これは……優越感?)


 そんなふうに澪桜が自分の気持ちを分析していると、いきなり身体が浮くような感覚に包まれた。


「うわぁっ」


「……ベッドにお連れ致しましょう。俺の女神様」


 軽々と澪桜をお姫様抱っこのまま運ぶ周の腕は硬く、逞しくて……またそんな所に男を感じてしまう。


 至近距離で彼は微笑み、低く優しい声が澪桜を甘やかす。

 シャンプーと共に香るアンバー……

 澪桜は心臓がまた早くなっていくのを感じた。


 ゆっくりと、少しの違和感と与える事なくベッドの上に降ろされる。

 澪桜の傍に寄り添って寝そべる彼女の髪を大切そうに撫でた。


「……どうする? 電気消して、布団かぶる? 見えないように」


 いよいよ始まる、その時。

 だが澪桜は頬を染めながら胸を張って言った。


「今日は自信あるからいいよ」


「……ん?自信……?」


 澪桜は何故か寝たまま自慢げに語り始める。



「偶然にも、今日はおNEWの下着なんだ!! レースとか付いてないチクチクしないやつ!! いつもはヨレヨレだけど、3セット買い替えた!」


「……知ってる。俺が洗濯してるから。普段ゴムが伸びてるやつつけてるもんね。新しいやつの中では俺は青いやつが好―――」


「馬鹿野郎! いちいち見てんじゃねぇよ!!!」


「ぐはあっ!」


「はっ! しまった! 間違えた!」


 澪桜のしなる蹴りがクリーンヒットした周は脇腹を押さえ、プルプルと震えながら悶絶する。


「そうだね。ものすごく間違えて……る」


「ご、ごめん。ワザとだけど、ワザとじゃな……キャッ!」


 長い指がが澪桜の腕を片手で抑え込んだ。

 優しく、だけど決して逃がさない強さで。


「ダメ。もう怒った。……無理させたくないからもう一度聞いて、今日は少し深めのキスとふれあいだけにしようと思ってたけど。……もう俺の好きにする」



 周はリモコンで電気を消し、パジャマのままの澪桜の上に跨った。

 ゆっくりと片手だけ使い、少し乱暴にTシャツを脱ぐ。


 パサッ


 ベッドの下に布が落ちる音がした。


「……澪桜さん。脱がせて欲しい? それとも自分で脱ぐ?」


 軽く挑発するように周が舌で唇を濡らす。


 ドッ!!

 その妖艶な表情に心臓が跳ねた。


 そして初めてまともに見る周の筋肉質な身体。

 白くきめ細やかで、月の光を浴びてしなやかに鍛え上げられた筋肉の波が陰影を付ける。


 思わず息をするのを忘れて、魅入ってしまった。


 彼の顔は見たこともない程……甘く、本能を剥き出しにした男の顔をしていた。


「じ……自分で脱ぐ」


 いそいそと服を脱ぎ、服を畳んでまた寝そべる。

 落ち着かない様子で恥ずかしそうに手で隠した。


「隠さないで……見せて」


 澪桜の手を優しく握り、身体から離す。


 夢にまで見た、彼女の滑らかな曲線を描く肢体。呼吸に合わせて(たお)やかに膨らむ胸。

 折れそうな程細い腰は、より庇護欲を掻き立る。

 長い手足が青白く浮かび上がり、周はその目に映る、この世の物とは思えない程の美しさに見蕩れて、恍惚とした表情を浮かべた。


「……こんなに綺麗なんて。想像以上だ。……ヤバい」


 握ったままの手を自分の胸にそっと触れさせる。


 驚くほど心臓が脈打っていて、体も熱い。

 思わず目を見開くと、周が微笑んだ。


「緊張してるの、澪桜さんだけだと思ってた? ……俺も初めてなんだよ? ……俺の手も震えてる、かっこ悪いね」


 照れくさそうにはにかむ周。

 澪桜は震える手で自分の方に手を引き寄せる。



「……触れて。わ……私を」


 周はそっと人差し指で柔らかな唇の動きを封じる。


「分かってる。俺に溺れるほどたっぷり愛してあげる。だから俺も澪桜さんに溺れさせて」



 そう囁いて、長く美しい指先で澪桜の腰をなぞる。


「んぅ!」


 初めての感覚に思わず身体が仰け反った。


 ぞくり


 澪桜の声と、反応に周の中に長らく眠っていた激情が剥き出しになる。


「……もっと感じて。俺を見て。俺がいないと生きられないくらい。今日はもう、寝かせないから」



 ゆっくりと降りてくる周の身体。

 触れ合う肌と肌、微かに感じる筋肉の重み。


 息がかかる程の距離まで近付く、切れ長の透き通る瞳が澪桜を捕える。


 微かに触れる唇。

 少しずつ、深くなる。


「っ……はぁ」


 澪桜が息ができるようにゆっくりと深く、甘く、それでも止まることなく。


 周はゆっくり手を絡め更に唇を吸う。


「周……さん」


「周って言って。……死ぬほど愛してる、澪桜」



 周の視線がより甘く、熱を帯びる。


 私しか知らない顔。

 私しか知らない声。


 それを独占してる。


 ゾクゾクとした、感じたことも無い優越感に駆られた。



 誰にも触れられたことのないところに触れる指先。

 思わず身体が跳ねる。



「んっ……周……」


「澪桜……可愛い」



 自分から聞いた事も無い甘い声が漏れて、触れられる所が全て熱くて。


 息が荒くなる。

 涙が滲み、蕩ける視線。



 思わず恥ずかしくなった澪桜は、バイブルに言われた通りに口を開いた。


「周さんの指先、気持ちいい。それに周さんの肌もスベスベで気持ちいい。あと触った時に気付いたけど脇腹に水疱瘡の跡が。痒くても掻きむしったらダメだよ」



「……それ、今言わないとダメ?」



 激情が一瞬、チワワになった。



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