幕間 追憶⑤
すみません!1時間遅れましたm(*_ _)m
引き続き周の過去のお話。
もう少しだけお付き合い頂けると助かります。
中学はあんま記憶が無いからササッと話すね。
中学校に入ると小学校の時のような、表立ったいじめは無くなった。
じいちゃんの葬式以降、仲良くなった田村弁護士が一度文化祭に来てくれたことがあって。
その時田村さん、堂々と弁護士バッチ付けてたもんだから。中学生はビビるよね。
「結城の身内の弁護士に訴えられるかもしれない」
なんてウワサが流れる程には。
それで、いじめられなくなったってわけ。
ざまあみろ! と思う反面、虎の威を借る狐的な気分でなんか俺としては複雑だった。
そこまで話すと澪桜が笑って言った。
「それは複雑だけど、いじめが無くなって良かったよ!! 私的にはもっとこてんぱんにやっつけて欲しかったがね!」
「そんなことしたら暴行罪で俺が少年院だよ」
「ああ、それは周さんファンが悲しむね」
「ファンなんかいないよ。……一人を除いては」
周はまた静かに話し始める。
当時俺は身長が低くて。
155cmしかなかったんだ。中学卒業の頃は165くらいまでは伸びてたけど、それでもうちの学校の男子の中では小さい方だったよ。
髪色も相変わらずで。
たまに学校の先生に指摘される度に、証明書を見せる必要があった。
この髪の毛、かなり面倒臭かったんだよ本当に。
で、中学の卒業式の日。
あのトラウマ。小学三年生の時に女装させられたあの女が話しかけてきたんだ。
「小学校の時はごめんね」
俺は冷たい視線を向けたまま、謝るだけマシかと思って何も言葉を返さずに、ただ頷いた。
……それで終われば良かったのに。
そいつの言い分はそれだけじゃなかった。
「でも私、当時からずっと結城君が好きで。一緒に遊びたくて、それであんな事を。……今でも好きなの、お願い、結城くん。私と付き合って欲しい」
俺は流石にその女の自己中心的な考えと、加害を美談に変えようとする浅ましさにブチ切れてね。
怒鳴り上げそうになる気持ちを堪えて、静かに言ってやった。
「へぇ。君は謝れば何もかも無かったことになるとでも思ってるわけだ。浅ましいというか、図々しいというか。俺を好き? ……気持ち悪いから冗談でもそう言うこと言うのやめて貰える?」
人生で初めて受けた、告白に対して言い放った言葉。
きっと、あの時助けてくれただけだったら。
付き合ったりは無理でも、もっと優しく思いやりを持って返事が出来たかも知れない。
確か、俺の余りに辛辣な言葉に彼女はびっくりして泣いていた気がする。
それでも俺は良心が傷むことは無かったし、……その子の顔すら覚えてないけどね。
今となってはガキだったなって、もう少し対応の仕方があったんじゃないかなとは思うけどね。
……そういえば進路を選ぶ時、両親からかなりヘイトを買ったよ。
両親には当然のように、自分達と同じ早稲田を目指すと思われてたから。
でも俺はそんな親に敷かれたレールしか生きない人間にはなりたくない。
俺の将来はもう中学の時に決めてたから。
澪桜は不思議そうにまた口を開いた。
「何になりたかったんだい?」
「システムエンジニア」
「中学生で!?」
周は照れたように笑って、ウインカーを上げた。
そしてまた話し出す。
……俺のネットのチェス仲間だった、イギリス人のノア。彼は俺が中学2年当時22歳で、システムエンジニアだった。
俺が学生だって知ってるから、休みの前の日なんかは、日本時間に合わせて夜更かししてくれるような優しい人だったよ。
仕事の内容はシステムバグの対処したり、新しいプロジェクトに使うシステムをプログラミングしたりしてるって言ってた。すごくカッコイイって思ったんだ。そんなノアが働いてた会社が……
澪桜はハッとした。
「……クレストリンク」
「ご名答」
高校に入ってからも彼との交流は続いた。
ビデオ通話したりしてたよ。
ちゃんとクレストリンク、イギリス支部のオフィシャルサイトにデカデカと載ってたから嘘もない。
互いの文化の話をしたり、たまにしてくれる仕事の話が興味深くて。
憧れはいつしか、目標になっていった。
俺はどうやったらクレストリンクに入れるのか、自分なりに調べたりしたんだ、ずっと。
それで高校に入学してすぐに進路相談室に通いつめて先生から教えてもらった。
留学先で希望の職場でインターンとして働ける、クレストリンクにツテのある、そんな大学。
該当するのはたったの一校だけだった。偏差値62のマイナーな私立大学。
ただ、そこに行くとなるとかなり金がかかる。
だからばあちゃんと話し合って、書斎でバイトを始めることにした。
前からちょっとずつ手をつけていたサーバーセキュリティのバイト。
ノアから紹介された、クレストリンクの子会社のもの。
最初のバイト代は日本円でたったの数十円だったよ。
それでも収益が出た事が嬉しかった。
聞いた事ないような難しい単語だらけで、実践向けのち英語の勉強にも、自分の将来の仕事の勉強もできる上に、努力次第で評価もあがる。
自分向きな仕事だと思って、俺は休みの前の日になるとほぼ徹夜で打ち込んでいったよ。
両親からすると理解出来なかったみたいでね。
かなり幻滅されたし、会話も減っていった。
俺が
「いい加減日本語で話せよ。会話に入れないばあちゃんが可哀想だと思わないのか?」
よしやき
って反抗したのも原因かもしれないけどね。
反抗してまで入った高校だけど。
入学してから何ヶ月経っても、お察しの通り相変わらず友達は出来なかった。
そして身長もチビのまま。
四肢の関節は眠れない程痛いのにね。
同級生からは影でバカにされてたよ。
「俺、結城ならワンチャンイケるかも!?」
「剥いたら実は女なんじゃね?」
とかね。
かなり屈辱的な事も言われたなぁ。
あと女子からはキモいとか、陰キャすぎて生理的に無理とか言われてたけどいつもの事だから、全く気にしてなかった。
でもそれも高校2年になるとピタッと止まる。
1年間で20cm伸びてね。
ばあちゃんに慌てて制服買い直してもらったよ。
クラス替えの後、同級生の態度が一変した。
筋肉質で自分よりデカいし、成績も学年10位以内の俺に物申せるやつは居なくなった。
特に酷かったのは……女子の態度の変化。
あれだけキモいだの、陰キャだの影で笑いまくってた1年の頃の同じクラスの奴や、面識もないのに通り過ぎ際に暴言を吐いてきてたチャラチャラした女共が、クラスを跨いで擦り寄ってくるようになった。
前かがみになって谷間見せてきたり、勝手に指を絡めてきたり。
「結城くん、彼女いる?」
しょっちゅうそんな質問をされるようになった。
その度に不快感が俺を襲う。
ある日、隣のクラスのAという女子が休み時間に俺の所に話しかけに来てね。
バカっぽい、どーでもいい話だったと思う。
Aが自分のクラスに帰った後、後ろの席のBから肩をたたかれた。
「さっき話して3組のA、あいつ嘘つきで金盗むらしいから関わるのやめた方がいいよ」
「へえ?そう」
すると次の休み時間に、俺の所にCがやってくる
「さっき話してたB、援〇してるし、男たらしだから関わらない方がいいよ!絶対病気持ってるし!結城くんが汚れちゃう!」
「ご心配どうも」
放課後、泣きながらAが廊下に出た俺に擦り寄ってきた。
「さっきのC、いたでしょ?Bと結託して、私いつも虐められてるの。結城くん、助けて。そばにいてほしい」
(よく言うな。お前、あいつらとつるんでこないだ渋谷を爆笑しながら歩いてただろうが)
俺は適当にあしらって関わらないようにした。
中学の頃に告白してきた、あの女と同レベルのクズさ。
同じ空気を吸うのすら気持ち悪い。
自分の欲の為に人を陥れ、誹謗中傷しようとする。
あんな女共が学校でモテてる事実。
共感すら出来なかった。
もちろん、中には普通の人もいたよ?
告白もされたりした。
でも、だからと言ってピンと来ない。
普通そうだからって、好きになるのは別なんだよね。
ただ、友達になるとかで良くない? そう思ってたよ。
だって知らない人だもん。
この頃からかな。
俺と面識もない、もしくは何の関わりもない人に好意を持たれる事が鬱陶しく感じ始めたのは。
せめて一目惚れした後でも、趣味で繋がったりして仲良くなってから告白……とかなら話はわかるけどね。
***
「なるほどねぇ。君の女性嫌い?の根源が何となく分かった気がする。ようは気が難しいんだね。君って」
「分かってるよ……俺も澪桜さんに一目惚れの癖にって思うでしょ? 自覚してる。今更ながら、告白して下さった方々に申し訳なく思ってるし、心の中で謝罪してる。人を好きになるってこういう事なんですね! 今分かりました。大変失礼致しましたって!!」
深呼吸しながら周は両手を伸ばした。
澪桜は思わず眉を下げて笑ってしまう。
「あ、そうそう!」
海岸沿いの駐車場に着いた周は手を叩き、宝物の自動巻きの時計を澪桜に向けた。
「この時計、ばあちゃんからもらったのはその頃だよ。入学祝いだとか言ってたけど、実際貰ったのは高校二年だったけどね」
周は軽く手首を振って嬉しそうに秒針の音を聴く。
澪桜はシートベルトを外しながら首を傾げた。
「……それはなんでだろう? おばあちゃんなりに意味があったのかな?」
「いや、テキトーだよ。ばあちゃん案外しっかりしてるようで雑だったからね」
周は眼前に広がる防波堤越しの海を眺めながら頬を緩めた。




