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幕間 追憶④

長々と続けてすみません。

作品の序盤に考えていたストーリーのまま、統合性を測ったらこんな長編に……。

重いし、恋愛関係ないので、明後日で完結予定です。


本当にすみません。

幕間に変更しタイトルに入れておきますので、スルーで全然大丈夫です!

それでもお読み頂けたら嬉しい限りです(٭°̧̧̧ω°̧̧̧٭)

 


「みっ……澪桜さん!?」



「うおおおおおーん!!! なんでこんな悲しい話をするんだ!!」


 一瞬助手席を見た周は驚く。

 澪桜がボロボロと大粒の涙を零していた。

 慌ててダッシュボードのティッシュを渡し


「ごめん、そんな共感してくれると思ってなくて……あ、楽しい話しようか??」



「いやだ。最後まで聞く」



 鼻をかみながら目を赤くする澪桜に、眉を下げてまた話を再開する。



 ***



 じいちゃんが亡くなって、すぐに家に帰った。さっきまで号泣していたばあちゃん。

 長年連れ添ってたんだ、憔悴して身動きが取れなくなってるだろうと、ばあちゃんを慰めるために部屋に向かうとキビキビと動いていた。


 どこかに電話で連絡したかと思うと、どこからともなく難しそうな書類を出したり。子供の俺にはなにも分からなかったけど、気落ちしたばあちゃんはそこにはもういなかった。



「周、ちょっと悪いけど今日の晩御飯は店屋物でいいかい?」



 忙しそうにしながら俺に聞く。



「なんでもいいよ。俺に手伝える事なにか無い?」



「アンタは担任の先生に連絡しなさい。明日から3日間休むってね」



「分かった」



「それと、カナダって今何時かね? 起きてる時間に司達に電話しないと」



 ばあちゃんは書類を纏め、時間を確認した。



「23時だよ」



「ならまだ起きてるね。電話するか」



 そう言って冷静に両親へ連絡を取り始めた。

 じいちゃんが亡くなって悲しくないのか。


 俺はすぐに自分の疑問に首を振る。


 そんな訳ない。

 崩れ落ちるようにさっき泣いていた。

 あんなばあちゃんは初めて見たんだ。



 きっと……無理してる。


 なにも力になれない自分の非力さに手を握りしめるしか出来なかった。




 じいちゃんに貰った書斎に入り、息を吸う。


 まだ残る、インクの香り。


 俺はまた涙が込み上げてきた。

 じいちゃんとの楽しい思い出がありすぎて受け止めきれなくて。


 その日はそこで眠った。



 両親が帰ってくるのは翌日。


 ただ、どれだけ急いでも到着は22日の昼。

 21日は友引だったこともあり、両親が間に合うようにと通夜は22日に。


 到着した両親と顔を合わせるが、久しぶりに会えて嬉しいはずなのに。

 会話らしい会話も出来ない。


 暗い面持ちの父親。そして居心地の悪そうな母親。


 居場所がなかった俺は、通夜にやってくる人達にお茶を出したりして、初めて見る親戚に挨拶していた。


 だけど皆どこか神経質になってるみたいで、怖い。

 ばあちゃんも親戚に挨拶するけど、親戚は皆素っ気ない態度だった。

 普通悲しむ場所じゃないのか。

 そう俺は思った。


 しばらく滞在して帰っていく親戚。


 ばあちゃんはやっと息ができると言うように、胸を撫で下ろして、また誰かに連絡をする。



「いつもややこしい事頼んで悪いね。助かるよ」


 電話でやり取りしながらばあちゃんと両親は何か難しい会話をしていた。



 俺には全く関係ないというような、険しい顔の三人の間に入る勇気は無くて、一人でじいちゃんの傍で過ごしていた。

 別れを惜しむように。



 翌日、滞りなく葬式が終わり、火葬場まで向かう。

 そこで精進落としを食べることになったんだけど、じいちゃんの親戚が多くてびっくりしたよ。

 じいちゃんの兄弟とその子供達。


 葬式ではすすり泣く声が聞こえてきたけど、親戚たちは昨日と変わらない、少し怖い顔つきだった。


 昨日ばあちゃんと電話していた田村っていう、若い男性も精進落としに参加することになったみたいで、俺の隣に座ってた。


 他愛ない話で泣きはらす俺をリラックスさせようとしてくれる。優しい人だった。



 精進落としが終わる頃。

 事件が起こる。



「祐子さん。遺産の件ですがあなたが全て相続することを俺たちは納得いかない!! あの土地は元々結城家のものだ。兄貴が独占していいものじゃない。ここできっちりと公正に決めていただきたい! うちの俊文は行政書士を目指してるから、こういう話に詳しいんだ。……ほら俊文! この厚かましい女に言ってやれ!!」



「俺の親父の言ってる事は、民法上正当な権利だと思いますよ? 一人で50億近く手に入れる? そんなことはまかり通らない。叔父さんは遺言状でも残していたんですか? そこにしっかりと明記されているんですか?」



 勝ち誇ったように、その親子はばあちゃんに物申した。

 ばあちゃんは悲しみすらしない薄情な親戚達を睨みつけて黙っていた。



 沈黙を破るようにスっと手を挙げ発言する周の隣にいた男性。



「あの、少し宜しいですか?」


 柔らかな物腰の声が響く。


 全員の視線を集めた後に口を開いた。



「……そちらの方、行政書士を目指してらっしゃると仰っていましたが……。もう少ししっかり勉強し直された方がいい。第一相続権は配偶者と直系卑属にありますからね。残念ながらあなた方には権利はありません。……それに証書を確認したところ、その土地は元々祐子さん名義です」



「なっ!!! そんな馬鹿な!? お前は誰だ!」



「申し遅れました。青山法律事務所から来ました、田村康二と申します」



「べっ弁護士!?」



 ものすごい形相でばあちゃんを睨みつける親族たち。

 俺は震えながらばあちゃんの前に立ってかばう。


 親父もばあちゃんを庇ってなにか難しい事を言っていた。



 昨日、必死でばあちゃんが探していたのは。

 この時の為のものだった。

 辛いはずなのに。

 悲しいはずなのに。

 血が繋がってる兄弟でもこんなに冷たくいられるのかって、一人っ子の俺には理解できなくて。

 人は金が絡むとここまで汚くなるんだって人生で初めて知った。



 納得できず、罵詈雑言をばあちゃんに浴びせ続ける親戚達を黙らせるように書類のコピーを見せて、田村弁護士は淡々と難しい説明をしていた。ぐうの音も出なくなった親戚たちは葬儀場の人から催促されて半ば強制的に解散したよ。



 辛そうなばあちゃんを見ていられなくて俺はもっと大切にしようって心に決めた。



 そしてやっと家に戻ってきたのは夕方。


 リビングで一息ついてた時に、父親が俺にやっと話しかけてきた。


 帰国してからほぼ初めての会話。

 母親はとは普通に会話していたが、俺はじいちゃんを亡くしたばかりの父親になんて声を掛けたらいいか分からなくて、そっとしておいたんだ。


 でもその内容は驚くべきものだった。



「お前、勉強サボってるな。発音もまるで上達してないし、妙な癖がついているぞ? Sが濁ってて耳に触る。……そんなんじゃ無能なまま大人になって終わりだぞ」


 その言動をきいてばあちゃんと父親は口論になった。

 でも、母親は父親の考えに賛同していた。



 この言動で俺の中の何かが切れた。


 じいちゃんを失ったばかりの日に

 じいちゃんが教えてくれたことを

 じいちゃんが俺に託してくれた物を

 じいちゃんとの思い出を。



 何もかも踏みにじられた。


 それが何よりも許せなくて。

 悔しくて。

 言い返す言葉の一つすら出てこない、


 何の成果も出せてない、自分にも歯痒くて。




 この日から俺は少しずつ親への気持ちが変化していった、


 いつも会いたくて、大好きで。

 愛して欲しくて。

 そんな両親を慕う気持ちは日に日に薄れ、



 ただ不信感だけを募らせていった。



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