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184話 星屑の雨



「……ん」




薄暗い部屋で薄手の羽毛布団を捲る音が響く。


両腕を伸ばして目を擦りながら、澪桜は上体を起こしてまわりを見渡した。


すると後ろから長い腕が優しく乱れた髪を梳かす。




「目が覚めた? もう少し寝てても良かったのに」




低く掠れた声の方に目線を向けると、寝そべったままの周が優しく微笑んでいる。


澪桜は傍にあった携帯で時間を確認する。

23時過ぎになっていた。




「いつの間に寝てたんだ私は!? ごめん、周さん!  せっかくの旅行なのにこんなにうたた寝してしまって」



「気にしなくていいよ。朝からいろんな所に連れ回してしまったから疲れたよね。ごめんね、もう少しスケジュール緩くするべきだったな」




眉を下げながらもずっと髪を梳かしている周の指が、心地よいのか、また目を閉じながら澪桜は自然と頭を傾けた。



「優しいねぇ君は」



「そんな事ないよ」



最近よく俺に身を任せて甘えてくれるようになってきた澪桜さん。


家族の話や、悩み、最近は愚痴なんかも話してくれるようになった。


同棲するようになって、より絆を深く感じるようになった俺は、確かに過保護になってる部分があるかもしれない。

その自覚はある。


でももう後悔するくらいなら出し惜しみはしない。

そう心に決めた。


君が喜ぶこと、君の幸せだけを叶えて生きていきたい。

俺の愛で溺れて俺無しで生きていけなくなるくらい。



ハラハラと指の間からすり抜けていく絹のような髪の毛にキスを落としながら甘い声で囁いた。



「まだ眠たい?」



「いや? 珍しくスッキリ爽快な目覚めだよ! 後でまた寝なきゃいけないのに! そうだ、デザート食べる!?」



ゆっくり首を振った周は立ち上がって澪桜の手を取る。



「いや、それより……もし良かったら今から少しだけ、俺とデートしない?」



「……デート?」



「うん。夜の散歩かな」



「いいよ! その後デザートで背徳様しないとね! いひひ」



楽しそうに付いてくる澪桜に振り返った周は、ドアノブに手をかける前に切実に頼んだ。


「少しの間だけ、俺を信じて目を閉じてて欲しいんだけどいいかな?」



「いいよ! 何があるのか楽しみだねぇ」



「出入口に段差があるから、抱きかかえさせてね」



「お、おう」



周は前かがみになって細い腰をしっかりと持った。澪桜は周の首に腕を回した後、言われた通り固く目を閉じる。


何の疑いもなく体を預けてくれる彼女に口元を綻ばせながら、軽々と澪桜を持ち上げドアを開けた。


そのままどんどんと歩いていく。



静寂の中、虫の音色と砂利道を行く足音だけが辺りに響いた。



しばらくして、目的地で降ろした澪桜の手に手すりに掴ませた。



「……そのまま上を見上げて、ゆっくり目を開けてみて」



耳元で甘く囁く声。

その声に従うように澪桜の長いまつ毛が揺れた。



「っ……これは……」



「俺の見せたかったもの。……気に入ってくれた?」




街灯のひとつも高層の建物も何も無い大自然のパノラマが広がる中



澪桜の瞳に映るのは……



夜空に散りばめられた無数の星。


下弦の月の影響はほぼ受ける事なく、様々な恒星と銀河が余すことなく夜空を埋め尽くす。



露天風呂から見た夜空は照明の影響を受けて星があまり見えなかった為、こんなに絶景が広がっていたとは全く気付かなかった澪桜は思わず息を飲んだ。



しばらく何も言わずに見蕩れていた唇が微かに揺れる。



「……すごい」



その言葉を聞き、微笑んだ周は澪桜と同じように暗闇の中、星空を見上げ口を開いた。



「これからが本番だよ。じっと見てて」



「……え?」



周の言葉に疑問を持ちながらも澪桜は空を見つめ続けた。

天の川銀河を視認出来るほどの星空なんて見た事なくて、どちらにしろ視線を外せない。


すると光がひとつ、ふたつと長い弧を描いて強く瞬いては消える。


何度も、何度も。




「な……流れ星だ!!! しかもこんな大量に!! え!? 今日流星群来てるの!?」



「ご名答。今の時間がピークなんだよ」



空を見上げたまま、周は笑って言った。



「すごい! ……すごいよこんなに沢山の流れ星を見たのは生まれて初めてだ!!」




途絶えることなくぽつ、ぽつ、と流れ星は続く。


強烈な光で一瞬にして消える星。

微かな輝きで長くゆっくり弧を描く星。

数個重なるように流れゆく星。



輝いては消える


一瞬の儚い命。



二人は幾度となく起こるその奇跡に目を奪われ、言葉を交わす事も忘れたように、ただただ夜空を見上げる。



見上げ過ぎて体勢を崩した澪桜の小指が微かに周に触れた。



周の視線が澪桜に落ちる。

澪桜は……見上げたまま空を見るのをやめた。



静寂の中、聴こえてくるのは心臓の音だけ。



名もない小さな展望台に

いや、漆黒の大草原に


――たった二人きり。



澪桜に視線を落としたまま、周の長いまつ毛が揺れた。



星空の輝きを受けた二人の影が淡く優しく重なる。



離れていく唇。

微かに残る柔らかい感触。

体温。

……香り。



澪桜は目を潤ませて、思わず周の袖を引っ張った。



その瞬間周は、衝動を抑えきれず澪桜の頭にそっと腕を回しもう一度唇を重ねた。

優しく、甘く。


少し離れてまた……重ねる。



何度も。

何度も。


愛を確かめ合うように。



空に瞬き、流れては消えていく、あの流星群のように――



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