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176話 手遅れだった恋

 

「お前おせーぞ!!」


「わー! 久しぶりやねぇ!!!」



 誰かがまたやって来たようだ。

 即座に綾音が反応した。



「私、向こうに行こー」

「私もー!」



「「あ」」



 田端と澪桜の声がシンクロしてしまう。


 田端のお目当てだった左隣の女子は、そそくさと自分の取り皿やグラスと箸を持って、新しく来たメンバーを囲うイケメン達の場所に向かってしまった。


 目の前にいた綾音とゆっきーも向こうに行ってしまった。


 取り残される二人。

 すると途端に酒を煽り始めたスッポン……もとい田端。



「くそう! どうせ女なんて皆、顔が良ければそれでいいんだよ!! 大したトーク力もねえ癖に!!」


「ま、まぁまぁ」



 何故か澪桜は慰める役になってしまった。

 だが思う。



(トーク力って、君さっきからスリーサイズ聞いたり、指勝手に触ったりしてたじゃないか。例えイケメンだとしてもそれはキモイよ。しかも出会いの場でもない同窓会で……)



 だがここまで言うと流石に酷だろうと思って、同級生のよしみで言わないでおいてやろう。



「ぐぅ! 濃いめのレモンハイ2杯追加ね! 濃いめにね!」


「お前飲みすぎんなよ」



 呆れ気味の服部が飲み物を持ってきてくれる。

 忠告を無視するように、田端は一気飲みをし始めた。



「だ、大丈夫かい? そんな空きっ腹で流し込むとすぐ酔いが回るよ? せめてなにか食べなよ」



 そう。話すのに夢中すぎて、田端は割り箸すら割ってなかった。

 すぐに届いたオカワリのレモンハイの2杯目を一気飲みし終わったところで真っ赤な顔の田端が澪桜に管を巻き始める。



「安達さんも……面食いやんな。あんなイケメン捕まえといてさ。俺なんかここ10年彼女おらんのに!」



(10年前は居たんだ!!! 衝撃!)



 心の中で酷い事を思う澪桜。



「私だって彼が人生初彼氏だよ。それまで誰とも付き合ったことは無かった。……君より酷いもんだよ」


「でも婚約までしてんじゃん!!! くっそーーー!! なんだよどいつもこいつも!!」



 酒がどんどん進み、とうとう焼酎の水割りになった。


 真っ赤になる田端。

 管を巻いていた呂律がもう回ってない。

 虚ろな目で澪桜を見つめる。


 澪桜は危険を察知し、慌てて離脱しようと試みる。



「さて、御手洗にでも」


「待っれ、安達さぁん。俺を慰めれぇ」



 溶けるように澪桜の太ももに、勝手にダイブした田端。

 人生初の強制的膝枕だ。


 いや最早江戸時代の拷問だ。



「ぎゃーーーーーーー」



 思わず澪桜は声を出した。

 逃げたいのに逃げられない。



「ふろもも、柔らかいれ〜」



 満足そうに何か言ってる田端。


 この野郎、酔っ払いだから何でも許されると思うなよ!?

 と、一発顔面にかましてやるつもりで拳に力を込めた。



「おい、田端。いい加減にしろよ。嫌がってるだろ」



 田端の首根っこを掴んだ男性が軽々しく退ける。

 そして静かに田端の座っていた席に座り、彼の飲みかけの飲み物を手渡した。


「帰るか向こうに行くか、どっちにする?」


「……悪かっらっれ〜! 冗談やん……ねー? 安達さぁん」


「……」


 イラついた澪桜は無視をした。

 新しく左隣に来た男性に目を向ける。


 すると懐かしい顔つきだった。

 高校の時よく一緒に美化委員で草をむしっていた三村という男性だった。


 さっき最後に来たのは彼だったようだ。


「あ、三村くんやん」


「覚えててくれたんや。久しぶり、安達さん」



 クスッと笑う三村。

 全く顔は似てないのだが、どことなく周を思い出した。

 仕草が似ているのかもしれない。


 そこに明るい橋本の声が響いた。

 


「あー! 三村くん! 久しぶりやね! またイケメガネになったね」


「なんや、イケメガネって。嬉しくないんやけど」



 澪桜の前にまた橋本さんと田中さんそして三村くんが来てくれたことで、沈んでいたこの場所にまた明かりが灯る。


 少しだけ、心が温かくなった。


 澪桜は残しておいた鶏ワサに口をつけた。


 綾音はもういない。

 向こうで手を叩いて笑いながら盛り上がっている。

 私と話していた時より数倍楽しそうに。



(……美味しい)



 柔らかく口の中で溶けていく鶏ワサ。


 澪桜の中の期待と共に消えていった。


 こんなことなら同窓会なんか参加しないで

 周さんを連れて、明日二人で来れば良かった。

 彼と幼少期の話をした方がきっと数倍楽しかっただろう。


 鶏ワサを食べて大喜びする周を想像しながら、もうひと口食べた。



(さっきまで一緒にいたはずなのに、もう君に会いたいよ)



 綾音への違和感も、同窓会自体への落胆も。

 澪桜にとって耐え難い現実だった。


 同級生とも上滑りの社交辞令ばかりじゃなくて、もっと昔を懐かしむ会話になるのだと。

 親友と爆笑してあっという間に時間が過ぎていくのだと思っていたのに。


「安達さん?」


 ハッとする。


 そういえば、助けて貰ったのにお礼も言っていなかった。

 澪桜は三村に頭を下げた。



「さっきは助けてくれてありがとう。あと3秒遅かったら田端くんは今頃鼻血ブーになっていただろう」


「あはは! そんな物騒なお礼の言われ方、初めてなんやけど!」



 三村は楽しそうに笑った。

 前を見ると、また橋本さんと田中さんがワイワイと話し込み始めている。


 とても仲が良くて羨ましい。



「今なんしようと? 俺は輸入会社の営業。そのせいで出張多くて嫌になるよ」


「それは大変やねぇ。私は東京でIT系の中小企業に勤めてるよ」


「そっか。向こうの生活楽しい?」


「まぁまぁだね。人がゴミのようだよ」


「……はは」



 笑って流されてしまった。


 周なら『うん。それ映画の悪役が言うセリフだからね!?』てツッコんでくれるところ。

 誰とも会話が上手く噛み合わない。



「あ、安達さん、結婚したと? その指輪」


「ああ、これね。これはただのファッションリング。今は婚約してる」


「……そうなんや」



 少し俯く三村に何か嫌なことを言ったのかと首を傾げた。



「……?」


「プロポーズ、感動した? ……泣いた?」


「いや?一緒に指輪買いに行って、婚姻届も書いたのにプロポーズはまた改めてするんだと。……アホなんだよ」


「……そっか」




 三村は俯いたままハイボールを飲んだ。




「安達さん、覚えとる? 高校の2年からずっと同じクラスやったよね」


「ふふ、そうだね。それでずっと一緒に美化委員してたねぇ。私はなぜか毎回悪ノリの綾音に推薦されてやらされてたんだけど。三村くんは自主的にやってて偉いなって思ってたよ」



「……そんなんやないよ。でもあれ、炎天下の草むしり地獄やったよね。ミミズ出るし、草負けするし。安達さん、鎌の使い方めっちゃ上手かったな」



「あはは!三村くん、よく痒がってたよねぇ。あの鎌は好きだったなぁ切れ味サイコーで。というかよく覚えてたねぇ」



「……そりゃ鮮明に覚えとるよ。俺にとって特別な思い出やけ」


  「安達さんと三村くん、うちら飲み物頼むけど何かいるー?」



 三村の口が開いた瞬間、言葉をかき消すように橋本が大きめな声で話しかけてきた。


 そのせいで最後何を言ったか澪桜は聞き取れなくて、聞こえなかったとジェスチャーしたが、三村は無視するように澪桜との会話を中断して橋本に笑顔で答える。



「俺はまたハイボールにしようかな。安達さんは?」


「……じゃあ、コーラで」


「了解! 服部くーん! 飲み物追加いい??」



 澪桜は面倒見の良い橋本に感心した後、左側を視線を戻した。


 センター分けの長めの黒髪。黒縁メガネに黒の半袖シャツ。シンプルで大人しげな印象は高校の時のまま何も変わらない。



「三村くん、ごめん。さっき話の途中やったけど、なんて言ったと?」


「はは、何やったっけ? 俺も忘れた」


「そっか〜、私もよくあるよ。ソレ」


 まぁ、草むしりの話しかしてないから聞き返す程でもなかったなと、ひとり納得した澪桜は立ち上がった。



「三村くん、ちょいとごめんなさいよ〜」



 変な口調とオッサンみたいなジェスチャーで三村の後ろを通って座敷から降りてスリッパで外に向かった。


 澪桜の流れるような黒髪に吸い寄せられる視線。


 酒が入り、盛り上がる周りの喧騒にかき消され誰にも届かない程の声で三村が静かに呟いた。



「安達さん。俺は君に会いたくて今日きたんだよ。告白する気だった……それなのに……」



 澪桜の幸せそうな顔と指輪を思い出して膝の上に置いた手を爪が食い込むほど強く握りしめていた。


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