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172話 澪桜の価値が古本レベルだった件

 


『久しぶり。元気にしてる? 私も少し顔を出させてもらうよ、会ったらたくさん話そう』



 手早く返信を送る。


 直ぐに既読が付いて、今流行りのゆるキャラ猫がOKサインをしているスタンプが送られてきた。


 画面を眺めながら澪桜が嬉しそうにしている。

 その様子を微笑みながら見つめる周は、食べたものを片付け始めた。使い終わった食器をキッチンまで運ぶ。



「ご馳走様でした。とても美味しかったです」


「あー! お客さんやのに動かしてからごめんね。ありがとう、こっちは大丈夫やけん、周さんも食休みしとき」


「はい。ありがとうございます」



 周の後ろをコソコソと付いてきた亮太が麦茶を入れて、周をダイニングテーブルに促し、小声で話し始めた。



「周さん、良かったんですか? 同窓会……」



 貰った麦茶に口をつけたあと、周は微笑んだまま口を開く。



「どうして?」


「だって俺だったら絶対拒否しますもん! 他所の家で一人になるの嫌やし、飲み会行かれるのも嫌やし! やけ、すげー大人やなって!」


「はは、買いかぶり過ぎ。俺なんて全然だよ」



「いやその包容力のある感じが本当大人やわ。カッケー」


「いや、むしろかっこ悪いと思うよ? 強制的に送り迎えは行くわけだしね」



 冗談ぽく返してみせた。

 亮太は一瞬止まり、少年のように屈指のない顔で笑う。



「あはははは! それは俺でもそうしますって!」



 周はクシャッと表情を崩したまま、澪桜に目を向けた。

 その瞳だけが静かに本音を滲ませる。


 甘く、危うい視線―――



 本当は……俺だって他の男に関わって欲しくない、飲み会なんか行かせたくないし、誰の目にも入れたくない。

 君を閉じ込めて、俺しか見ないで済むようにしたい。



 目を閉じてぐっと飲み込んだ。

 煮えたぎるような熱も不安も何もかも。



(それに同窓会は出会いの場じゃない。それに澪桜さんが会いたいのは親友だ)



 自分に言い聞かせる。


 澪桜が友達の頃からよく話していた地元の唯一の親友。

 ずっと会いたがっていたのは周も知っているから。



「俺はただ……彼女が望む事は出来る限り叶えたいんだ」



 切ない声で呟いた。



「いいのぉ。男やのぉ!!! 俺らの若い頃思い出すなぁ……なぁ恭子!!」


 話を盗み聞きしていた父親が割り込んできた。

 ビクッとする周の隣に肩を組んで豪快に笑いながら座る。


「やめりっちゃ、恥ずかしいけん!!ごめんね、周さん。本当はこのタイミングであんなこと言うべきやないとは思ったんやけど……あの子、綾音ちゃんが結婚してから疎遠になってしまったって悲しがってたんよ。だけ、つい……」



 申し訳なさそうな母親に微笑み、周は首を振った。



「お気遣いありがとうございます。僕も、澪桜さんがお友達に会いたがっていたのは知っていますので。今日タイミングが合って本当に良かった」


「周さん……」



 瞳を揺らす母。父と亮太も優しい表情で周を見つめた。



「皆ここに集まってなんしよん? コーヒーでも入れよると?」


 気付いた澪桜がダイニングの方にやって来た。何故か父親が周の傍に座っているので仕方なく亮太の隣に座る。


 チラッと周に視線を向けた澪桜。


 何を思ったのか、薄く微笑んでいる。

 周は肩を組まれたまま緊張の面持ちで澪桜を見つめた。



「お父さん、周さんっちお父さんにとって何?」



「っ!?!?」


(な、何言ってんの澪桜さん!?!?)



 突拍子も無い澪桜の質問に理解が及ばない周は、挙動不審に口をパクパクさせる。


「んん? ……何っち、もう俺の息子やろ。え? 違うと?」


「!!!!!!」



 周が驚きのあまりたじろいでいると、澪桜の母が父親の肩を叩いた。



「お父さん! 周さんにプレッシャー与えなさんなっちゃ!!」


「おっと! それもそうか、すまん!! ……でもうちの娘貰ってくれるよな!? 親戚にも言うとるし、やっぱ要らんとか無しやぞ!?」


「だけ、やめりっちゃ!!(だから、やめなさい)」


「ぐぬぅ」


「……ね? 余計な心配やったやろ? そして私の言った通り、あのセリフ言うタイミングとか無――」


「義父さん!! お願いがあります!!」



 澪桜の言葉を遮るように、周が急に声を張り上げた。

 真剣な眼差しで肩を組む隣の父親に目を向ける。


 少し驚いた父親が周に視線を向けて背筋を伸ばした。



「何や? 言うてん!?」


「残りの生涯全てを賭けて澪桜さんを守り抜き、一生大切にする事を誓いますので、どうかこの僕に、娘さんをください!!」


「いいよ! 持って帰り!」


「義父さん!!!」


「周!!! 我が息子よ!」



 目の前の男達が視線を交わし、ガシッと力強く手を握り抱擁を交わす。


 うん、とても暑苦しい。



「……うわぁ、想像以上に私の譲り方が雑すぎる。中古の少年チャンプと同じ価値やわ」


「そうね。古本レベルやったね、お母さんもびっくり」



父親がおもむろに肩を組んだまま尋ねる。



「ところで婚姻届は取ってきちょるんか?? 保証人欄今書いちゃろか?」


「もちろんです! 宜しいんですか!? 実は失敗してもいいように5枚取ってきてます」


「流石やな! ついでやし周も澪桜も今書いとくか!! がはははははは!」


 どこからともなくファイルを取り出す周、目の前で書き始める婚姻届。予想を遥かに超えたムードもクソも無い、ドラマ性皆無な結婚の挨拶に澪桜と母は遠い目をした。



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