25話
「――……あ」
一瞬、ハロルド陛下の顔が誰かと重なる。銀髪に深青の瞳の優しい人。
――困っていたら飛んでいくし、困ってなくても飛んでいく。ほら、だって、私は竜の血を引くからね。
ミルフィアがかつて愛した人の言葉が、浮かんできた。
「――はい、ありがとうございます」
小さく頷く。そして今、目の前にいるハロルド陛下に向かって、微笑んだ。
「お守りとして持っておきます」
この石を使わずに済むなら、それに越したことはない。石をローブのポケットにしまう。
「ああ、そうしてくれると助かる」
「!」
……ハロルド陛下のこんなに柔らかい笑みを初めて見た。
「どうした?」
一瞬でいつもの表情に戻ったハロルド陛下に、小さく首を横に振る。
「……いえ。それでは、失礼いたします」
ノクト殿にすぐに追いつくと言った手前、長居するわけにもいかない。
「ああ」
ハロルド陛下に退出の礼をして、今度こそ執務室を出た。
◇
小走りに見えない程度に急いでいると、ノクト殿の背中が見えてきた。
「ノ……」
名前を最後まで呼ぶ前に、ノクト殿が振り返る。
「よく分かりましたね」
「足音が聞こえたので」
待たせないように急いで隣に並ぶ。
……優しい視線は、ずっと8年前と同じまま。
そして……。
「手が……届く」
あの日、何もつかめず宙を掻いた指先は、今なら容易にローブを掴める。
そうだ、私はいつもこの距離にいた。それだけの近い距離を許されないことはなかったのに。
許された距離を当たり前だと思っていた。与えられたものに気が付きもせず、ただ、自分の目的に囚われるばかりで。
果たして、本当に拒絶をしたのは、酷かったのはどちらなのだろう。
「……ロイゼ団長?」
ノクト殿が不思議そうに首を傾げた。
「ノクト殿……いえ、ノクト様」
何よりも輝くその瞳を見つめ返す。
「少し私的な時間をいただけますか? お時間は取らせないので」
明日から忙しくなる。3日という期間でエルマから情報を得なければならないノクト殿は特に。
本来なら、このまま解散するべきだとわかっている。
……でも、どうしてもノクト様と話しておきたかった。
「もちろん」
ノクト様は微笑んだ。
「……付け込んでいますね」
かつての私は、その優しさに甘えて、付け込んで、でもそのことに気づきもしなかった。気づいていてなおそうするのだから、今の方がよりタチが悪い。
「え?」
それでも、この罪の償いは、私自身で考えていくより他はない。
「いえ、なんでもありません」
「そう? それなら……」
ノクト様が手を差し出した。その手に触れると、一瞬で周囲の景色が変わる。
――目の前に広がるのは、学生時代にノクト様に魔法の特訓をつけてもらった公園だった。
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