第六話:魔王、奴隷商人を退治する
私は瞬間移動した。
どこかの建物の地下室だ。
舞台の上で全裸の女性が恥ずかしそうにうつ向いて、男たちの前に立っている。
地下で行われている奴隷市のようだな。
五、六人くらいの男たちがニヤついて見ている。
競売にかけているようだ。
この、ろくでなしどもが!
私はスッと女性の前に現れる。
「皆さん、奴隷制度は廃止されております。三十秒待ちます。すぐにここから退出しなさい。さもなければ、瞬殺します」
「ネーチャン、何言ってんだよ」と皆ゲラゲラ笑っている。
「どっから来たのか知らんが、お前なら高値で売れそうだ」と奴隷商人が喜んでいる。
二十秒経った。
私は腕を組んで、仁王立ちのまま空中に浮かぶ。
「おお、スゲー、イリュージョンか」と喜んでいるおっさんたち。
なかには、この期に及んで下からスカートの中を覗いているアホがいる。
「後、十秒ですよ!」と呼びかけるが、
「さっさと裸になれ!」とヤジが飛ぶ。
「後、五秒!」
「偉そうにすんな、この奴隷が」と奴隷商人が喚いている。
「後、一秒!」
「うるせーよ」と、ついには全員で私に襲いかかって来た。
片腕をスッと横に大きく振る。
粛清!
全員瞬殺!
男たち全員の首が吹っ飛ぶ。
その光景を見た女性は悲鳴を上げて、失神してしまった。
何とか抱き起し、首と胴体が離れた死体を避けながら、他の女性たちの元へと行く。
牢屋に、首輪や手枷、足枷などをされた数人の女性たちが怯えてうずくまっていた。
全員助けてやる。
その後も、五か所ほど周った。
結局のところ、奴隷商人とその客三十人を粛清。
二十人の女性を助けて、住んでいた村などに戻してやる。
全く、この世界はけしからん奴が多い。
片っ端から、徹底的に粛清してやるぞ!
粛清! 粛清! 粛清!
粛清あるのみ!
私はそう決心して、城に戻った。
魔王の間の椅子に座って考える。
神は何を考えているのか?
全知全能なら、神があのろくでなしの奴隷商人と客どもを改心させればいいのに。
私には改心させる力は無い。
魔王だしね。
首を吹っ飛ばす!
瞬殺あるのみ!
ろくでなしどもを、一気に大粛清したくて、うずうずしている。
そう考えていると、
「マオちゃん、怖い顔してどうしたの」とメイドのアンナちゃんに聞かれた。
アンナちゃんはいつのまにか、私の事を「マオちゃん」と呼ぶようになった。
執事のイフリートや他の部下たちに「魔王様」とお呼びしなさいと叱られても、次の日には忘れて、「マオちゃん」と呼んでくる。
私が、実は「魔王」であることを理解しているのかどうかもわからない。
何も考えていないようだ。
まあ、いいや。
可愛いから許す。
私も「アンナちゃん」と呼ぶようになってしまった。
百合ではないぞ。
「いや、別になんでもないよ、アンナちゃん」
『アホの子』に神について聞いても仕方が無いしね。
おっと、差別は良くない。
それに、もしかしたら意外な答えが返ってくるかもしれん。
「ねえ、アンナちゃん、神についてどう思う」
「へ? なんとも思わないけど」
うーん、やっぱり無駄だったかな。
「何でそんなこと聞くの、マオちゃん」
「あ、いやー、神にちょっと会いたくてね」
だいたい、神はいるのだろうか?
いるとしたら、どこにいるのだろうか?
転移者たちの話では、元の世界でトラックなるものなどに轢かれて死ぬと、神様が、「すまん、間違えて死なせてしまった」と土下座して待ってるみたいなんだが。
神様が土下座するだろうか?
執事のイフリートに聞いてみた。
「神はいます」と自身たっぷりな答えが返ってきた。
「量子力学を極めれば極めるほど、神の存在を認めざるを得ません」とイフリートが言った。
わたしは量子力学とは何だろうと思ったが、話が長くなりそうなので黙っていた。
イフリートは、たまに延々と自分の知っている事を喋り続ける癖がある。
後でウイキペディアで調べておくかな。
「この世界は、明らかに何者かの意志により造られたとしか思えません」
「つまり創造主か。会ってみたいものだな」
会ったら、あのハーレム狂いの転移者たちとか、何とかしろと文句を言ってやる。




