第五話:メイドのアンナ
どこかの草原を、奴隷服を着た小柄な女の子が悲鳴を上げて走っている。
それを冒険服を着た男が追いかけていた。
私は、女の子と男の間に現れて、仁王立ちになる。
ところが私の姿を見ると、
「やばい、悪魔の魔法使いマオだ!」と叫んで、その男は反転して、一目散に逃げて行った。
どうやら、悪質な異世界転移者、転生者を退治していたら、『魔法使いのマオ』として、有名になってしまったらしい。
女の子に聞く。
「あなたのお名前は」
「アンナです。助けてくれてありがとうございます、マオさん」と丁寧に頭を下げた。
はて、私の名前をなぜ知っているのか?
「今、悪魔の魔法使いマオって呼ばれていたような気がしたんですが、違いますか」とアンナが言った。
うーん、悪魔は余計だな。
イメージが悪い。
まあ、魔王ですけどね。
アンナに聞くと、どうやら身寄りの無い孤児のようだ。
「アンナさん、私の城で働きませんか」
「はい、マオさん」とアンナはニコニコしている。
城へ連れて行くことにした。
瞬間移動!
アンナは巨大な城を見ても驚かない。
珍しいな。
ほとんどの人はびっくりし、中には私の部下のモンスターがウロウロしているのを見て、逃げ出す人もいるのに。
私の部下には、スライム、ゴブリン、コボルト、オーガ、オーク、サイクロプスからドラゴンまで多種多様なモンスターが居る。
不思議に思い、頭の中を覗いてみる。
真っ白。
あれ?
もしかして、いわゆる『アホの子』かな。
まいったなあ。
いや、差別は良くないぞ。
とりあえず、アンナに何かやらしてみることにした。
箒を持たせたら、ゴミを集めているのか、まき散らしているのかわからない。
雑巾がけさせたら、綺麗にしているのか、汚しているのか。
おまけに、水の入ったバケツに首突っ込んで溺れている。
先日雇った、清掃員の女性、イリアさんに助けられた。
魔王の間の内側の窓ふきをさせると、なぜか外側に出て、百階から転落。
危うく私が魔法で助けた。
皿洗いさせると、全部割ってしまう。
ゴミ捨て場にゴミを捨てに行くと、ゴミを捨てないで自分を捨ててしまう。
お使いに行かせたら、いつまで経っても戻ってこない。
迷子になったようだが、魔王の間のすぐ近くにある空き部屋の中を、ただグルグルと歩き回っていた。
本人に言わせると、熱中してたらいつの間にかそうなっていたとのこと。
困ったなあ。
まあ、善人ではあるんだろうけど。
無能な善人ほど、厄介な者はいないとも言うが。
しかし、もう雇うと言ってしまった。
私は一度口にした以上、前言をひるがえさない主義だ。
執事のイフリートに相談する。
「宮廷道化師という仕事がありますよ、ピエロですね」
「サーカスのか」
「いえ、宮廷道化師の仕事は、王様や周囲の人物達を楽しませるのが仕事ですね。また、王様に向かって、失礼なことでも自由に言うことができます」
「王様に悪口言っても、罰せれられないの?」
「まあ、要するに王様本人が自分を客観視できるために置いたんですね」
「うーん、けど、それって相当頭がいい人じゃないと出来ないんじゃない」
「まあ、そうですがね」とイフリートはちょっと笑った。
アンナの頭の中は真っ白じゃないか。
仕方が無い。
私の専属メイドにすることにした。
なぜかニーハイミニスカ姿。色もピンク。
私は地味なロングスカートのメイド服を用意したのだが、例の「萌えー!」発言の部下に騙されて、そんな恰好にさせられてしまったようだ。
部下を瞬殺しようとしたが、思いとどまった。
アンナ本人がその恰好を気に入っているみたい。
可愛いから許す。
百合ではないよ。
メイドと言っても、実際は、ただ私の横に立ってるだけ。
気がつくと大の字になって、床で寝ている時もある。
まあ、可愛いから許す。
たまに、お喋りなどをする。
アンナは明るくて可愛い。
癒されるなあ。
友達ができたみたいだ。
正直に言うと嬉しい。
また迷子になるとまずいので、頭の髪飾りに追跡装置を付けた。
本人は理解していないようだけど。
髪飾りは百合の花の形をしている。
本人が百合の花が好きなので、そうした。
おっと、再度言っておくが、私は百合ではない。
百合ハーレムとか作る気は無いぞ。
そう言えば、裏社会で活躍している奴隷商人たちのことを忘れていた。
クズどもが!
成敗してやる!
瞬間移動!




