第四十二話:裏切り者
夜中、ひとりの人物が城の外に出ようとしている。
私は声をかけた。
「こんな時間にどこに行くの、アンナちゃん」
アンナはビクッと体を震わせる。
「魔王様、お許しください、お許しください」
魔王の間に引きずり出されたアンナは、這いつくばって、泣きながら震えている。
「魔王様、私は死にたくありません」
その姿を見て、私は悲しくなった。
私がアンナを疑い始めたのは、ナイアルラトホテプが寝室に来た時からだ。
私は「変な奴が現れた」とは言ったが胸や太股を触られたとは言っていない。
しかし、翌朝、アンナは、
「かわいそう。あたしが変態に触られたところを慰めてあげる」と私の胸や太股を触ってきた。
偶然かなとも思ったが。
しかし、思い返してみれば、おかしなことが多すぎる。
初めて出会った時、アンナを追っていた男は、私が現れると、あっさりと逃げて行った。
その時、アンナは「助けてくれてありがとうございます、マオさん」と私の名前を言った。
まるで、最初から知っていたみたいに。
アンナは初めて見る巨大な魔王城を見ても驚かなかった。
頭の中を覗いてみたら、真っ白だったが、その後、そんな人間はアンナしかいなかった。
『異世界街道』の洞窟で襲われたときも、もとはと言えばアンナが誘い込んだとしか思えない。
私の調子が悪い時に限って、トラブルが起きている。
私が月一回ほど、調子が悪くなることを知っているのは、アンナだけだ。
今回、調子の悪いふりをして、アンナの手を握った。
波動がナイアルラトホテプにつながった。
今までのアンナの行動は、全て演技だった。
アンナは元劇団員。
チェスが強いのは、ナイアルラトホテプが操っていたからだ。
正直、私はショックだ。
「魔王様、私はナイアルラトホテプに脅されていたんです、逆らったら殺すって言われていたんです、どうか命だけはお助けください」
アンナが泣きながら言い訳をしている。
しかし、今の私にはアンナの頭の中が全て読める。
今までは、ナイアルラトホテプが邪魔して、真っ白にしていたようだ。
どうやら、アンナは積極的に関わっていた。
金のため。
しかも、ナイアルラトホテプと同様に、私が混乱しているのを見て、心の中で楽しんでいた。
私は椅子から立ち上がった。
アンナに声をかける。
「アンナちゃんは、もう私の事をマオちゃんとは呼んでくれないんだ……」
アンナがハッとした表情を見せる。
私はアンナの肩にそっと手を置いた。




