第三十六話:魔王、『アホの子』に負ける
今日はちょっと調子が悪い。
まあ、ゆっくりと仕事をする。
私が、魔王の間で執務を行っていると、アンナちゃんがやって来た。
「マオちゃん、変な板を見つけたんだけど、何これ」
アンナちゃんが持っていたのはチェス盤だった。
「ただのゲームに使う盤よ」
「ゲーム! ねえねえ、遊びましょうよ、マオちゃん」
やれやれ。
まあ、ちょっと書類を見るのも疲れたから、気分転換にやるかな。
私はこの世に誕生して以来、チェスで負けたことが無い。
もちろん、相手の頭の中を覗くようなインチキはしない。
私は卑怯な手口が大嫌いである。
「アンナちゃん、やり方知ってるの?」
「知らない」
仕方が無いので、駒の動かし方を書いた紙を横に置いて、さあ勝負。
瞬殺!
されてしまった、私が。
「キャッホー! 勝ったあー!」とアンナちゃんが喜んでいる。
まさか、『アホの子』に負けるとは。
いや、差別は良くないけど。
けど、魔王が負けるなんて。
悔しいー!
私は負けず嫌いでもある。
いや、これはビギナーズラックよ。
「アンナちゃん、もう一回!」
「いいですよ、マオちゃん」とアンナちゃんはニコニコ顔。
瞬殺!
また負ける。
そんなバカな。
あたしがバカなのか。
「も、もう一回」
「いいですよ」
結局、十連敗。
ピョンピョン飛び上がって喜ぶ、アンナちゃん。
あたしは放心状態。
ちょっと、アンナちゃんの頭を除く。
真っ白。
どうなってんの。
「アンナちゃん、どうやって駒を動かしたの」
「その表見て、適当に動かした」
無垢の勝利か。
しかし、ショックだ。
アンナちゃんは大喜びで、チェス盤を頭の上でクルクル回しながら、ヒラヒラと踊っている。
「まだ、やりますか、マオちゃん」
「あ、いや、もういいです……」
ぐったりする私。
私は執事のイフリートに聞いてみた。
ちなみに、私はイフリートにもチェスで負けた事は無いのだが。
「うーん、サヴァン症候群ですかね」
「なにそれ」
「ごく特定の分野に限って優れた能力を発揮する者の症状を示す言葉です」
「ふーん、アンナちゃんの場合はチェスの分野ってこと」
「そうだと思います」
とにかくチェスの猛勉強をして、アンナちゃんに勝つぞ!
私はチェス盤を寝室に持って行くことにした。




