第三話:異世界街道
魔王城から、あまり遠くない山道に若い男が立っていた。
どうやら転移者だな。
この道を、私は『異世界街道』と呼んでいる。
なぜかはわからないが、やたらこの場所に異世界から転移やら転生してくる。
私に気がつくと、その男は走って近づいて来た。
おとなしそうな顔をしている。
「すいません、僕、佐藤一郎と言います。ところで、奴隷市場はどこですか」といきなりダイレクトに聞いてきた。
私には、人が何を考えているのかわかる能力がある。
こいつの頭の中を読む。
女性を囲って、ハーレムを作るのが目的のようだ。
最近、こういう奴ばかりで頭が痛い。
「この世界では奴隷制度は廃止されてますよ」とうんざりしながらも教えてやった。
実際のところ、陰でやっている不届き者もいるようだが。
「えー! そんなー! 奴隷を買ってハーレム作りたかったのに。ハーレム! ハーレム!」と佐藤一郎と名乗った男が嘆いている。
「普通に恋人を作ったらどうですか」と私が提案すると、男の顔が急に険しくなる。
「それが出来れば世話ねーんだよ!」とそいつの顔が凶暴になった。
「お前のその恰好、どうやら転移者だな」と男がいやらしい顔で言った。
「違います」
「そんな事言うなら、お前が俺の恋人になれよ」
「お断りします。それ以上、近づくと瞬殺しますよ」
「うるせー! お前が俺のハーレム要員第一号だ!」
男がいきなり襲いかかって来た。
瞬殺!
男の首が吹っ飛ぶ。
男の魂の記録を読む。
どうやら、前の世界ではつらい人生を送っていたようだ。
小学中学高校時代はずっと虐められ、大学でもひとりぼっち。
ブラック企業に就職して、三日後にあっさり過労死。
人生、全く良いことなく死んでいった。
しかし、その世界では何一つ悪い事はしていない。
頭の中ではかなり酷い事を考えていたようだが、妄想しても誰も傷つかない。
こういう人は、天国に送ってやればいいのに。
実際のところ、異世界転移しても、すぐにモンスターに殺される者もいれば、蚊に転生して一瞬で叩き潰される者もいる。
神は何を考えているのか。
私の父親のようにうつ病になって、やる気を失くしたのだろうか。
この男が私を乱暴しようとしたことは、目を瞑ってやろう。
異世界転移したばかりで、結局、何も悪い事はしていない。
この人は天国へ行けると思う。
しかし、さすがの私にも魂を天国に送ってやる力は無い。
魂の記録から私に襲いかかった事は削除し、かわりにメモ書きをしてやった。
「神様へ、この方を天国へ送ってやって下さい」と。
魂が空へ向かって昇っていく。
それを見ていると、また転移者が出現した。
小柄な男が道に立っている。
ニヤニヤしながら、私にゆっくりと近づいて来た。
「ここは異世界か」
「ええ、そうですが」
「よっしゃー! ハーレム! ハーレム!」と男がはしゃいでいる。
またハーレムですか。
「奴隷制度は廃止されてますが」と男に忠告する。
「あっそ、ふーん、どうでもいいや。他に方法を考えればいい、ウヒヒ!」
男は依然として、ニヤニヤ笑っている。
「なんせ異世界だもんな、やりたい放題だ。まあ、お前はハーレム要員対象外だけどな」
何を言ってるんだ、こいつは。
気になって、頭の中を覗く。
さっきの奴より、全然酷い。
幼女を誘拐して、ハーレムを作るのが目的だ。
元の世界でも、五十人以上の幼女を乱暴している。
酷い奴だ。
捕まった後、刑務所の風呂場で転倒して、頭を打って死んだらしい。
「けどまあ、だいぶ溜まってるんで、とりあえずお前でもいいかな、イヒヒ!」と言って、その男が襲ってきた。
瞬殺!
全身バラバラにしてやった。
こいつは地獄行きにすべきだろうが。
神は何をやってんだ。
昼寝でもしてるのか。
魂の記録にメモをする。
「神様へ、こいつは集熱地獄行きが相当です」
突然、奇声が上がる。
全裸の男が出現した。
転移者だな。
いきなり、私に向かって突進してくる。
「女! 女! 女!」と叫びながら。
随分と即物的な奴だな。
瞬殺!
この男も元の世界で女性を五十人乱暴して殺害し、挙句の果てに死刑。
最低な奴だ。
こんな奴は、即行で地獄に叩きこんでやればいいのに。
神は何をやってんだ。
呆けたのか。
魂の記録にメモをする。
「神様へ、こいつは無間地獄行きが相当です」
さらに、異世界街道を歩いていると、途中に洞窟がある。
そこから、人間の男が歩いて出てきた。
冒険服を着ているが、どうやら転移者らしい。
眼鏡をかけて、随分と太っている。
「こんにちは」と私に話しかけてきた。
「ちょっと冒険したくてねえ。この洞窟に入ったんだけど、モンスターとかはいなかったよ。何にも無し。つまらん」
「はあ、そうですか」
その男は何やらポケットから、小型の薄っぺらい機械を取り出していじくっている。
「ステータスオープン!」と叫んだ。
私の方を見ている。
ニヤリと下卑た笑いを見せた。
「お前のレベルは最低だな」
「何のことですかね」
「俺は特別に神様からレベルを最高まで上げてもらったんだよ。お前は俺のハーレムに入れてやるよ」
そのデブが襲いかかって来た。
瞬殺!
首が吹っ飛んで、崖から落ちて行った。
ステータスオープンとは、相手の体力や知力などを細かく数値化して見るようだ。
下らない。
私は魔法で、全て最低に表示化されるようにしている。
こいつの魂の記録を見る。
今までの中で最悪だ。
老若男女乱暴した後、拷問を繰り返し、百人殺害。
挙句に死刑。
ムカついたんで魂の記録を踏みつぶす。
なんで、神はこんな奴を最高レベルにするんだ。
けしからん。
神はインフルエンザにでも罹って、寝込んでいるのか。
今度は、男性の悲鳴が聞こえて来た。
眼鏡をかけた男が、あたふたとこちらに逃げてくる。
黒いカバンを手に持って、背広姿。
この人は『サラリーマン』という存在だな。
後ろからスライムが、ピョンピョン飛びながら追ってきた。
助けてやろうとスライムを退治しようとしたが、ちょっとおかしいな。
私はその男性を道の脇に誘導する。
スライムはそのまま通り過ぎていった。
どうやらスライムが進んでいた方向に、たまたま転移してきたらしい。
神は転移させる場所をもっと注意してほしい。
それとも神は方向音痴か。
「助けてくれて、ありがとうございました。ところで、ここはどこでしょうか」とそのサラリーマンは額の汗をハンカチで拭きながら聞いてきた。
「あなたがいた世界とは別の世界です。いわゆる異世界です」
「異世界?」
どうやら状況を把握しきれていないようだ。
「細かい説明は省きますが、元の世界、と言うか元の生活に戻りたいですか」
「もちろんですよ、妻と幼い娘二人の事が心配だし、おまけに私の母親がいま要介護四なんです」
要介護四というのがよくわからないが、とにかく元の世界に戻りたいことはわかった。
それが普通の感覚だと思うんだけどなあ。
「申し遅れました。私は成労株式会社の山田太郎と申します」とその人が紙片を差し出す。
この人は『営業担当』という者だろうなと私は思った。
この名刺という紙片を、そこら中にばらまくのが仕事らしい。
変な世界だなあ。
まあ、こういう場合、仕方が無く受け取ることにしている。
多少なりとも実績に協力してやろう。
私は指をパチンと鳴らす。
目の前にいた『サラリーマン』は消えた。
そう、私には転移者や転生者を元の世界に戻す能力がある。
私に出来るんだから、神にも簡単に出来るはずだ。
戻りたい人は戻せばいいのに。
神は何を考えているのか。
不思議だ。
またまた、転移者が現れた。
青色の作業服を着た、小太りで禿げの中年男性が立っている。
私に気づくと、ニコニコしながら走り寄って来た。
「ここは、もしかして異世界ですか」
「はあ、そうですが」
「やったー! ついに異世界転移したぞ。さあ、農業だあ! 農業だあ!」
飛び跳ねて喜んでいる。
こういう人も珍しくはない。
こっちの世界にやってきて、スローライフ。
元の世界でも出来ると思うんだけど。
一応、頭の中を覗いてみる。
農業だらけ。
どうやら本気らしい。
まあ、こういう人畜無害な転移者は受け入れるしかないな。
「どっかに農業できる村ありませんか」とその中年男性に聞かれた。
仕方が無いので、近くにある適当な村に案内する。
後は本人しだいだね。
村人と話をしていると、またもや女性の悲鳴が頭に聞こえてきた。
また、転移者が悪さをしているのか?
ったく。
私は瞬間移動した。




