#003 登校中
学校に向かう途中。
勉強が嫌でブルーな人も居るだろうし、友達と話しているだけでも楽しい人も居るだろう。中には何も考えず歩いている人もいるし、スマフォのゲームから離れられない迷惑な人もいる。
だが、私こと茶谷アリナは冷や汗ダラダラ。
体はガタガタ。
目はキョロキョロ。
止まらなかった。
登校路。そこを同じクラスメートの武豊武くんが、ほんの少し前を歩いていた。思わず私はジーッと見詰めてしまっている所だった。って言っても、別に少女漫画よろしく、恋愛モード全開のトークをしている訳ではないですよ。
なぜなら、武豊くんの頭には、ぶっとい破魔矢が突き刺さっていたのだ。
はぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ?
正月的な矢というか、あの無駄に豪華そうな棒の先端が確実に武豊くんの黒髪の中に差し込まれていた。それを当の本人は何ごともないかのように歩いており、回りにいる同じ学生も気にした様子はなかった。
いやいやいやいやいやいやいや。
おかしいだろ。なんだ、気にしている私が変なのか? 私だけが、こんなにも悩んでいるというのだろうか? こんな細かい所をウジウジ言ってる私が根暗ヤロウなのか? それほど皆は当たり前という態度で武豊くんを黙視せず、各自が朝の登校という爽やかな空気を味わっていた。
も、もしかして、あれ、ファッションか?
それは有り得ないと否定したい気持ちと、もしかしたら前衛的な人達の中では当たり前なのではないかという気持ちが私の中で渦巻いていた。もし、これがオシャレだとするのなら、「武豊くん、その変な頭何?」という質問は簡単にはできない。
危険だ。
なぜなら、それは女子として負けた気がするからだ。
この話しの相手がオシャレリーダー的な人なら、私も素直に頭を下げて教わる事もできるかもしれない。しかし、武豊くんは幽霊が大好きな少年であり、制服の裾にはご飯粒が張り付いているようなのんびりとした性格をしている。そんな人から「え、知らないの。これ今流行りのファッションなんだよ。最近は朱染めだけじゃないんだよねー」的な事を言われたらショックだ。ショックすぎて、午前の授業は立ち直れないだろう。
ただ、私には破魔矢が頭に刺さっているのを無視する事もできなかった。
いつも武豊くんの回りには幽霊が憑いており、大抵は真っ黒い塊を引き連れて歩いている。しかし、今日の武豊くんには一匹もいなかったのだ。この間、学校裏の幽霊塚を見に行った次の日なんて教室から零れてしまうほど集まっていたのに、今は影も形もなくなってしまっている。
つまり、武豊くんは。
破魔矢でオシャレをしているか。
自ら幽霊に取り憑かれてると気がついて、破魔矢で自衛しているか。
そのどちらかという事になるだろう。何か馬鹿みたいな話しだが、現状を分析するとそうなる。そして、そのどちらかを気がつけていない質問を安易にしてしまうと、今後の高校生活3年間、彼から少し見下されたまま過ごす事になるかもしれないのだ。
これ、大げさと感じる人もいるだろうが、高校で一度付いた優劣のために卒業後も大変な目に合っている先輩を私は何人か知っている。そんな危険はおかせない。
ここは、「おはよう、武豊くん。その頭、キマってるね」、ってコメントがベストじゃないだろうか。破魔矢が突き刺さっている事自体を話題に触れないのは負けた気がするし、これならどっちとも取れる言葉だ。少なくても私のセンスが疑われる事はないのだ。
よし、これしかない。
私は意を決して武豊くんに近づこうとした。
しかし、それよりも早く別のクラスメートの男子が歩み寄っていた。
「オッス、武豊。頭に何か付いてるぞ」
「え。あ、本当だ。こんな所にゴミが付いてたのか。気がつかなかったよ」
武豊くんは破魔矢を髪の隙間から抜いて、ゴミ箱に捨てていた。
「(ゴミなら、もっと早く)ハラってよ、武豊くぅううううううううううううううううううううううん!!」
がーん。
なお、どこで刺さったのかは、不明の模様。




