第三章 夜の図書室
三日後の夜。
愛子とケンジは、閉館後の図書室に忍び込んでいた。ケンジの合鍵が、またしても役に立った。
「本当にいいの?」愛子が囁いた。
「よくはない」ケンジが電灯をつけた。「でも必要だから」
奥の書庫に、学校の創立時から保管されているという古い文書があった。ケンジはその存在を図書室の記録簿で見つけていた。
段ボール箱を開けると、黄ばんだ紙の束が出てきた。愛子はそっと手に取った。
文字が読めなかった。でも——
「愛子」ケンジが静かに言った。「その紙、光ってる」
見ると、愛子の指が触れているところだけ、うっすらと青白く光っていた。驚いて手を離すと、光も消えた。
「……なんで私が触ると」
「星詠み、って知ってる?」
愛子は首を振った。
「星の言葉を読める人間のこと。昔の文献に出てくる。この町には昔、そういう力を持った家系がいたって」
愛子は自分の手のひらを見た。何も変わったところはなかった。セーラー服の袖がひとつ、よれていた。
「私が、その……?」
「知らない」ケンジは眼鏡を押し上げた。「ただ、事実を並べると、そう仮定するのが一番説明がつく」
愛子は笑った。「なんか、ロマンのない言い方」
「事実はロマンじゃないから」
「でも、ロマンから始まることもあるでしょ」
ケンジは少し黙った。それから、かすかに口の端を動かした。笑ったのかもしれなかった。
愛子はもう一度、紙の束に触れた。光が戻った。今度は逃げなかった。
指の先が温かくなって、文字が浮かび上がってきた。星の名前だった。知らないのに、読めた。
*——この星は、出会いの星。ふたりが同じ夢を見るとき、扉が開く。*
愛子は顔を上げた。ケンジがこちらを見ていた。
「なんて書いてあった?」
愛子は少し考えてから、「秘密」と言った。
ケンジは眉をひそめた。「それは困る。研究の妨げになる」
「じゃあ一緒に調べてくれる? 全部わかったら、教えてあげる」
「……条件をつける必要はない」
「条件じゃなくて、お願い」
また沈黙。
「……わかった」
愛子は笑った。今度は、昼間の屋上よりもう少し大きく。
図書室の窓の外に、夜空が広がっていた。あの星座が、はっきりと輝いていた。
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*つづく*




