第二章 屋上の星図
翌日の昼休み。
愛子は屋上の扉の前で立ち止まった。昼間は施錠されているはずなのに、扉がわずかに開いていた。隙間から差し込む光が、床に細い線を引いていた。
押してみると、開いた。
屋上には誰かがいた。昨日の眼鏡の男子だった。彼は柵にもたれ、ノートに何かを書き込んでいた。愛子の足音に気づいて顔を上げたが、驚いた様子はなかった。
「施錠されてるはずなんだけど」と愛子は言った。
「合鍵がある。図書委員は天文部の資料室も管理するから」
「天文部なの?」
「幽霊部員だけど」
愛子は屋上に出た。青空が広がっていた。視界が開けると、なぜか胸がすっとした。
「ねえ」と愛子は言った。「夢に出てくる星座って、実際に存在することある?」
眼鏡の男子が顔を上げた。「どんな形の?」
愛子は手を伸ばし、空中に指でたどった。「こんな感じ。三つ固まってて、一つが飛び出してる。あと、色が違う。中心だけ赤くて」
沈黙。
男子がノートを広げて愛子に見せた。そこには、愛子が今描いたのとほぼ同じ形の星図が書かれていた。
「……これ、なに」
「わからない」と彼は答えた。「でも三日前から毎晩これが気になって、調べてる」
愛子は彼の目を見た。黒縁眼鏡の奥の瞳が、静かにこちらを見返してきた。
「……なまえ、なんていうの」と愛子は聞いた。
「桐島ケンジ」
「私、愛子。藤村愛子」
ケンジはノートを閉じた。「同じ夢を見てるなら、それは偶然じゃない」
「うん」と愛子はうなずいた。「たぶんね」
風が吹いて、愛子の髪が揺れた。彼女は少しだけ笑った。




