第十七話:春原ちゃん、恐るべし!
私が生徒会室を飛び出すと、
「江波さん!」
女神、春原さんの声が追いかけてきた。
振り向いた瞬間、私はそのまま春原さんに抱きついた。
「うわぁぁぁん!」
大泣きする私を、春原さんは優しく抱き留めると、ハンカチで涙を拭き、そっと背中を撫でてくれる。
「遼様には、あとで注意しておきますね」
……絶対しないだろうけど。
それでも、慰めの言葉としてはありがたかった。
ひとしきり泣いたあと、春原さんが入れてくれたミルクティーで、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
「取り乱して、ごめんなさい」
寮の部屋で、今さらながら恥ずかしくなる。
「初めてだったのでしょう? 仕方ありませんわ。……遼様は、良い意味でも悪い意味でも、自分が拒否される対象だとは思っていないのですよ」
春原さんは穏やかに言うと、続けた。
「私たちは、狭い世界で生きております。あなた方の生きてきた世界とは違い、家柄や家督を継ぐ嫡男かどうかがすべてです」
そして私を見つめて言った。
「深見家がどのような家柄か、ご存じですか?」
私は首を横に振る。
「この学校の創設者の一族であることはもちろんですが、Fグループの未来の総裁にあたるのが、遼様ですわ」
そう言われ、私は目を丸くした。
「Fグループって……あの?」
「江波さんが知っているFグループが、どこを指しているのかは分かりませんが、日本でもトップクラスのグループ企業です。その未来の総裁になられる方なのです」
説明を聞きながら、私は口をぽかんと開けたまま固まっていた。
「だからといって、やって良いことと悪いことがあると思います。私から佐和子様には、今日のことをお伝えしておきますわね」
と言われ、
「サワコさま?」
と聞き返す。
「えぇ。深見兄弟のお母様ですわ」
にっこり微笑んで言われた。
……いやいや、ちょっと待て。
子供の喧嘩に、親が出てくるの?
唖然としている私に、春原さんは続ける。
「今回のことは、遼様の暴走だけで終わらせるには、あまりにも……」
「春原ちゃん! ちょっと待て!」
「はい?」
「お母様に言うのは……」
「佐和子様で不服ですか? では、現総裁に……」
「待って、待って! そっちはもっと待って!」
慌てる私に、春原さんは首を傾げた。
「なぜです?」
「いや……子供の喧嘩に親が出てくるとか……」
私がそう呟いた瞬間。
春原さんの目が、すっと据わった。
「はぁ? 何を仰ってますの?」
普段温厚な彼女とは思えない声だった。
「私は、深見家のお父様とお母様から、遼様が暴走した際には報告するように言われております。今日のあの行動は、どう見ても遼様の暴走ですわ!」
その怒気に、私は心の中で固く誓った。
春原ちゃんだけは、絶対に怒らせない。




