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第35話:労働の義務に直面したカエルwww 〜汗水垂らす筋骨隆々な男たちと、彼らを熱い眼差しで見つめる愛弟子(令嬢)との最悪の再会〜

 ラーグ法国の地下大競売場をレスバ一本で完全に崩壊させ、「商品価値マイナス無限大の不良在庫」として叩き売られた黄色いカエル――ことなんJ民。

 彼がガタゴトと揺れる奴隷馬車に揺られて連れてこられたのは、中央諸国連合の最東端に位置する、鉄鋼の国ヴァトンの黒鉄くろがね魔鉱山であった。


 この国は、大陸全土に供給される魔導武器や防具の原材料となる魔鉱石の採掘によって成り立っている。

 四方を切り立った黒い岩肌に囲まれた広大な採掘場。そこはもうもうと立ち込める硫黄の煙と、岩を砕くツルハシの金属音、そして奴隷たちの荒い息遣いが支配する、文字通りのディストピアであった。


「おい、そこを歩くトカゲもどきの新入り!! 手ぇ動かせや!! 」


 なんJ民は自らの体長の二倍はある巨大な鉄製のツルハシ(奴隷商人が嫌がらせで持たせた特注品)の柄にしがみつきながら、現場監督のドワーフに向かって叫んでいた。


「無茶言うなやおっちゃん!! www ワイの手を見てみろ、吸盤やぞ!! www 吸盤でどうやってこの重量10キロはありそうな鉄の塊を振り下ろすんや!! www 労働基準監督署に通報(実質営業停止)したるからな!! www」


「うるさい喋るカエルめ! ヴァトンの魔鉱山には労働基準法などというぬるい法は存在せん! 掘って掘って、掘りまくるのがここでの唯一の生存戦略だ!!」


 バチンッ!! と、現場監督の鞭が地面を叩き、激しい火花が散る。

 だが、なんJ民はこれしきのことで怯むタマではなかった。何せ、ドラシール竜王国の女王の軟禁すらレスバで突破してきた世界のバグである。


「おいおいおい、現場監督ぅ!! ww お前のその鞭の振り方、効率悪すぎやろ!! www 腕の筋肉だけで振っとるから、背筋の連動が全くできてへんぞ!! そんなんじゃ三日で四十肩になって整骨院通い(原価損)や!! www もっとこう、体幹意識して、期待値上げていけや!! www」


「何だと、この家畜風情がァ!!」


「家畜ちゃうわ、ワイは現場のコンサルタントや!! www おい、そこの上半身裸で汗ダラダラ流しながら岩運んどる筋肉モリモリの竜人の兄ちゃん!! お前、そんな重いカゴを無駄に力任せに持つから腰痛めるんや!! www 『男同士、お互いの腰を支え合って』運んだ方が、圧倒的にシナジー効果生まれるやろがい!! 」


 なんJ民がいつもの調子で周囲の奴隷(特に筋骨隆々とした大男たち)に余計なお節介レスバを撒き散らしていた、その時である。

 彼の「男同士、お互いの腰を支え合って」というフレーズが、採掘場に響き渡った瞬間――。


ドサササササササササッ!!!


 採掘場の高台、崖の上に設置されていた見学用の特設テントから、凄まじい勢いで何かが崩れ落ちる音がした。

 いや、それはテントの崩壊ではない。

 そこに設置されていた最高級の画材や網掛けトーンのロールが、凄まじい地滑りのように崖下へと転がり落ちてきた音だった。


「ひえっ!? www 上からゴミが降ってきたぞ!! ww ヴァトンの産業廃棄物処理、ガバガバすぎやろ!! 」


 土煙が晴れた崖の上。

 そこには、現場のお偉いさんたちを平伏させ、一段高い豪華な椅子に腰掛けていた、一人の美しい令嬢の姿があった。


 シルフィ・エドワード。

 北の大地から師匠(なんJ民)を追って南下してきた彼女は、持ち前の圧倒的な資金力(辺境伯の公金及び印税)と、「よりリアルな筋肉の躍動、男たちの汗、そして過酷な環境での絆を観察したい」という狂気的な創作意欲エゴにより、ヴァトン政府に巨額の寄付金を投入。この魔鉱山の『最高名誉視察官スポンサー』の地位を手に入れていたのである。


 現在、彼女の手には、男たちの筋肉のデッサンを描き留めるための黄金の羽ペンが握られていた。

 だが、そのペンは完全に静止している。

 シルフィの瞳は、採掘場の最底辺で、ツルハシにしがみつきながら衛兵に毒舌を吐いている「黄色い澱み」に、完全にロックオンされていた。


「……あの、ぬめり気」


 シルフィの口から、お嬢様としての気品を保ちつつも、どこか狂気を孕んだ丁寧な呟きが漏れた。


「あの、知性を致命的に欠いているにもかかわらず、男たちの関係性に的確な『解釈の燃料』を投下する、バグのような語彙の羅列……。間違ありません……」


 彼女はガタッと椅子を蹴立てて立ち上がった。その瞳には、一ヶ月間の孤独な執筆活動(地獄の合宿)によって研ぎ澄まされた、本物の「腐の求道者」の光が宿っている。


「……師匠。ついに、見つけました」


 そんなシルフィの視線に気づく由もない現場監督のドワーフは、なんJ民の度重なる煽りに、ついに堪忍袋の緒が完全にブチ切れていた。


「ええい、五月蝿い! このカエルめ、労働をしないばかりか、他の奴隷たちの規律まで乱しおって! 掟に基づき、今すぐお前を不良廃材として、魔導溶鉱炉に叩き込んでドロドロの液体にしてやる!!」


「おっと、即死イベント発生www 運営さん、このゲームの難易度設定バグってますよ!! www 待て待て、ワイを溶かしても大した鉄成分は抽出できんぞ!! ww カエル成分100%のただの汚いぬめり汁(原価ゼロ)が出来上がるだけや!! www」


 屈強な衛兵たちが、四方から槍を構えてなんJ民を取り囲む。

 万事休す。さすがのなんJ民も、物理的な溶鉱炉(摂氏1500度)にはレスバを仕掛けることができない。


「死ね、害獣が!」


 現場監督が容赦なく鞭を振り下ろし、衛兵の槍がなんJ民の黄色い皮膚に突き刺さろうとした、その瞬間――。


「――そこまでにしてください。皆さん」


 採掘場全体に、凛とした、しかし恐ろしく重圧のある声が響き渡った。

 衛兵たちの動きがピタリと止まる。


 砂煙を割って歩いてきたのは、背後にヴァトンの鉱山長やお偉いたちを従えたシルフィであった。彼女は旅用の高級な法衣を身に纏い、手には扇子ではなく、この一ヶ月の血と涙の結晶である「分厚い原稿の束(全1500ページ)」を大切そうに抱えていた。


「し、シルフィ様!? どうしてこのような最底辺の採掘場に……!?」


 現場監督が慌てて膝をつき、揉み手をしながら頭を下げた。


「このカエルは、ただの不良在庫にございます! 今すぐ処分いたしますので、お手を汚さぬよう……」


「その方に、指一本でも触れることは、この私が許しません」


 シルフィは丁寧な敬語を崩さないまま、現場監督を冷徹な目で見下ろした。その凄まじいプレッシャーに、ドワーフの身体がガタガタと震え出す。


「え……?」


 なんJ民は、群衆の中からその光景を呆然と見上げていた。


「あれ……? お前、エドワードさんのところのシルフィちゃんか!? www なんでこんなブラック企業(魔鉱山)の役員みたいなポジションにおんねん!! www 期待値、急上昇して草ァ!! www」


 シルフィはなんJ民の方をゆっくりと振り返ると、一ヶ月ぶりに、その美しい顔に満面の、しかしどこか歪んだ「救済の笑み」を浮かべた。


「お久しぶりです、師匠。……随分と、薄汚れてしまわれましたね」


「し、師匠……!? シルフィ様、今、この不浄なカエルを何と……!?」


 鉱山長が目を丸くして尋ねる。


「この方は、私の魂の導き手。そして、世界の『尊さ』の基準を書き換える偉大なるマスターです。……鉱山長、このカエルを、私が買い取らせていただきます」


「は、はい!? しかし、これはラーグ法国から不良在庫として処分を委託されたものでして、手続きが……」


「これ(・・)で、いかがでしょうか?」


 シルフィがパチンと指を鳴らすと、背後に控えていた彼女の私設メイドたちが、ズッシリと重い革袋をいくつも現場監督の前にドサドサと投げ置いた。

 袋の口が弾け、中から溢れ出たのは、最高純度のヴァトン金貨の山であった。その輝きに、採掘場にいた全員の目が眩む。


「こ、これは……!? 当鉱山の、半年分の総利益に匹敵する額では……!?」


「その方の身代金、および、先ほどその方が仰った『男同士、腰を支え合って岩を運ぶ』という、至高のシチュエーションを今後この鉱山で義務付けるための『コンセプト料』です。……これで、文句はありませんね?」


「は、はい!! 喜んで!! 今日からこの鉱山の奴隷は全員、二人一組で腰を密着させて岩を運びます!!」


「よろしい」


 シルフィは満足そうに頷くと、自らの手でなんJ民を囲んでいた鉄格子の扉を開けた。


「さあ、行きましょう、師匠。……お待たせいたしました」


「お、おぉ……。シルフィ、お前、めちゃくちゃ頼もしくなっとるやんけ。www さすがワイの愛弟子や!! www 圧倒的お買い上げ、サンキューガッツ!! www」


 なんJ民は泥まみれになりながらシルフィの肩に捕まった。一ヶ月ぶりの、あの馴染み深い「ぬめり」が、彼女の高級な法衣にべっとりと付着する。

 しかし、シルフィはその汚れを嫌がるどころか、うっとりとした表情でそれを受け入れていた。


「……ああ、このぬめり気。この不快感こそが、私のインスピレーションを極限まで刺激する劇薬です……」


「おい、シルフィ、なんかお前の目が血走っとる気がするんやが、気のせいか? www」


「気のせいではありませんよ、師匠。……この一ヶ月、貴方がいらっしゃらない間、私はどれほどの孤独と戦い、どれほどの『薄い本』を量産してきたか……。さあ、宿に戻りましょう。……朝まで、みっちりと『ネームの添削』をしていただきますからね?」


「ヒエッ!? www ワイ、奴隷鉱山から解放されたと思ったら、次なるブラック職場(同人スタジオ)に直行か!? www 労働基準法ォォォ!! www」


 魔鉱山に響き渡る、カエルの悲鳴。

 しかし、その背後では、買い戻された師匠を連れて、さらなる創作の深淵へと進む令嬢の、美しくも恐ろしい足音が静かに響いていた。


 期待値、もはや宇宙を突き抜けて次元崩壊www

 なんJ民とシルフィの、制御不能な「芸術の旅」が、中央諸国連合を舞台に再び幕を開けるのだった。

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