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第33話:期待値底割れからのドナドナwww 〜奴隷商人の檻でレスバの準備をするカエル〜

「おい、ローズさん……。ワイ、もう一歩も動けへんぞ……。生命維持の期待値が完全にゼロや……。実質、ワイは今死んどるのと一緒やで……」


 宿場町の端にある薄暗い路地裏。黄色い小汚いカエル――なんJ民は、地面にへたり込んだまま、干からびた声で鳴いていた。

 ドラシール竜王国の女王フジョーシ=ヤオイの魔の手(独占軟禁)から命からがら脱出し、中央諸国連合へと転がり込んできたまでは良かった。だが、逃亡生活というのは恐ろしく過酷なものである。道端に落ちているフライドポテトを拾って「原価ゼロやから実質利益率無限大やぞ!! www」と叫んでいたのも束の間、そんなラッキー(期待値)が毎日続くはずもなかった。

 今のなんJ民は、胃袋が完全に背中とくっつく一歩手前。文字通りの極限状態に陥っていた。


「うるさい、このカエル。あんたがドラシールで無駄に大暴れして王都を燃やすから、こっちまで指名手配犯みたいな強行軍に付き合わされてるんじゃないの。私の社畜精神も、もう限界。始末書どころの話じゃない」


 傍らに立つ茨の魔女ローズは、三週間の強行軍による疲労のせいか、トレードマークの巨大ハサミを杖代わりにしながら、酷く不機嫌そうに溜息をついていた。

 その時、ローズの懐にある魔導通信機――黒い水晶の表面が、禍々しい紫色の光を放って明滅し始めた。


「……ん? www ローズさん、お前の防犯ブザー鳴っとるぞwww 新手の嫌がらせか?」


「違う、これは……予知の魔女からの直接招集の紋章!? 嘘、どうしてこのタイミングで……」


 ローズの顔が、一瞬で引きつった。六魔女において、予知の魔女からの呼び出しは絶対である。彼女は大陸の因果の行く末を見通す最高幹部である。


「……マズい。よりによって、こんな世界のバグを抱えてる時に限って……」


「ローズさん、ワイを置いていく気か!? www 孤立無援のワイがここで野垂れ死んだら、この小説のタイトル回収できんくなるやろ!! www」


「あんたはここで大人しくじっとしてなさい! 拾ったポテトでも何でも齧って、絶対に目立つことを起こさないこと。いい? 私が戻るまで、その薄汚い口を閉じておきなさい!」


 ローズはそれだけ言い残すと、どこか足早に走っていった。

 路地裏に一人(一匹)取り残される、黄色いカエル。


「……あ。本当に行きやがった。www 圧倒的放置プレイwww 労働基準法違反やろこれ!! www」


 なんJ民は天を仰いだ。だが、腹の虫は非情にも「ギュルルルル」と悲鳴を上げ続ける。ローズという唯一のまともなブレーキ(兼財布)を失った世界のバグは、ついに次なる騒動の引き金を引くために、ぬめぬめと動き出すのだった。


 這う失意のままに、なんJ民が辿り着いたのは中央諸国連合の「ラーグ法国」の国境付近にそびえ立つ、巨大な白亜の教会であった。

 ラーグ法国。それは、人間至上主義を掲げ、神の教えを絶対とする宗教国家である。当然、その息がかかったこの教会もまた、清廉潔白を絵に描いたような美しさを見せていた。


「おっ、見ろや。貧民救済の炊き出しやっとるやんけ!! www 期待値、天井突破アアア!! www」


 教会の前広場ではシスターたちが大きな鍋を囲み、貧しい難民たちに温かいスープと純白のパンを配っていた。湯気と共に漂ってくる香ばしい匂いに、なんJ民の脳内麻薬がドバドバと分泌される。


「よっしゃ!! www 乞食活動(実質タダ飯)の時間だあああ!! www すいませーん、ワイにもその美味そうな特級スープ一杯クレーメンス!! 」


 なんJ民は、スープを求めて列を作っている人間の難民たちの足元をすいすいとすり抜けて最前線へと踊り出た。

 そして、お玉を持ったシスターの前に躍り出て、黄色い両手を広げてアピールした。


「ほら、ワイやで!! www 絶滅危惧種の超絶イケメンカエルや!! www 腹減りすぎて腹と背中がフュージョンしそうやから、大盛りで頼むわ!! www」


 だが、その瞬間。

 スープを配っていたシスターの顔から、一切の慈悲の笑みが消え失せた。彼女の目は、まるでドブネズミか何かを見るかのような、圧倒的な嫌悪と蔑みに染まっていた。


「……な、何ですか、この汚らわしい生き物は……! 衛兵! 衛兵を呼びなさい! 聖なる教会の敷地に、亜人の害獣が紛れ込んでいます!!」


「は? www 害獣って誰のことやねん!! www ワイはれっきとした『なんJの王』やぞ!! www 差別か? これが噂の宗教的差別なんか!?」


 周囲の難民たちも、一斉になんJ民から距離を取り、ヒソヒソと蔑みの声を上げ始めた。


「見ろよ、トカゲかカエルの化け物だぞ……」

「ラーグの神の教えでは、亜人には魂がないとされているからな。施しを受けようなどと、不遜極まる……」


 なんJ民は、その言葉を聞いて完全に「レスバモード」のスイッチが入った。腹が減っていることも忘れ、そのぬめった皮膚をピクピクと震わせる。


「おいおいおい!! www ちょっと待てや!! 魂がないとか、お前らの神様は顕微鏡で魂の有無でも観測したんか!? w宗教の基本は『汝の隣人を愛せ』やろがい!! www ワイという名の美しい隣人を目の前にして、スープ一杯ケチるとか、お前らの神の度量狭すぎやろ!! www 資本主義の dog(犬)か!?」


「黙れ、不浄なる亜人め!!」


 背後から、ガシャガシャと重々しい金属音が響いた。

 振り返ると、そこには白銀の甲冑に身を包んだ、ラーグ法国の国境守備衛生兵――もとい、屈強な衛兵たちが三人、槍を構えて立っていた。


「聖なる広場において、神を冒涜する不届きなカエルめ。……捕らえよ! この場で即座に処分する!」


「おっと、暴力反対!! www 言論の自由を弾圧する独裁国家乙!! www ワイを殴ったら、ネットで炎上させてお前らの教会のレビュー星1にしてやるからな!! www」


 なんJ民は得意のぬめりダッシュで逃走を図ろうとした。だが、極限の空腹のせいで、足元(吸盤)に全く力が入らない。

 ズサーッ!!

 自らが放ったわけでもない、ただの教会の綺麗な床で滑って転び、無様にひっくり返った。


「ぶふっ!? 床、磨きすぎやろこの教会!! www ワックスの原価教えろや!! 」


「観念しろ、害獣め」


 上から、巨大な金属製の網が振り下ろされた。

 なんJ民のバグが、物理的な網に捕らえられるという、最高に情けない瞬間であった。






 教会の地下にある、暗く湿った臨時の監禁室。

 なんJ民は、頑丈な鉄格子の向こう側で、吊るされた檻の中に閉じ込められていた。


「おい!! www 監禁罪やぞこれ!! ww w 人権侵害で訴えてやるからな!! www あ、ワイはカエルやからカエル権か!? www カエル権の確立を求めて国連に提訴したるわ!! www」


 鉄格子の向こうでは、先ほど彼を捕らえた衛兵たちが肉の詰まったスープを美味そうに啜りながら、なんJ民を鼻で笑っていた。


「騒ぐな、不浄の化け物が。お前たち亜人には、ラーグの法は適用されん。ただの動く器物だ」


「動く器物とか、お前の母ちゃんもお前を産んだ時そう思ったんちゃうか!? www 言葉のドッジボールしようや!! ww 投げっぱなしジャーマンはNG!! www」


「……チッ、本当に生意気な鳴き声を発するカエルだ。殺して皮を剥ぐのも面倒だな。おい、例の業者を呼べ。こんなものでも、物好きな魔術師の実験体か、見世物小屋の肥やしにはなるだろう」


「業者……?」


 なんJ民が小首を傾げたその時、監獄の重い扉がギギギと開き、一人の男が入ってきた。

 仕立ての良い、しかしどこか悪臭のする毛皮のコートを着た、太った男。その指には成金趣味の指輪がいくつも嵌められている。

 男の背後には、いかにも裏社会の住人といった風貌の、目の 理性的ではない男たちが数人控えていた。


「いやあ、衛兵殿。今回はどのような掘り出し物で? ……おや、これは……ただの、黄色い雨蛙アマガエルですな?」


 男の名はガラム。この周辺の国境地帯で、非合法な亜人の売買を取り仕切る、大物奴隷商人であった。

 ガラムは檻の中にいるなんJ民を、値踏みするようなドブネズミの目で睨みつけた。


「ガラム、ただのカエルではない。人間の言葉を話し、神を平然と侮辱する、極めて質の悪い新種の亜人だ。見世物としては一級品だろう?」


「なるほど、喋るカエルですか。それは面白い。……ですが、いかんせんサイズが小さすぎる。肉としての価値は皆無、労働力としてもゴミ以下だ。……銀貨3枚、これが限界ですな」


「おいおいおい!! www 勝手にワイの値段決めるなや成金豚ァ!! www」


 なんJ民は檻の鉄格子を掴み、ガラムに向かって激しいレスバを仕掛けた。


「銀貨3枚って何やねん!! www ワイの知名度はドラシール竜王国を灰(実質)にして、レイネシアの焔竜ンゴンゴを消滅させた、世界最高峰の天災やぞ!! 最低でも国家予算3年分、いや、ポテト無限おかわり権付きで金貨1億枚からオークション開始やろがい!! www」


 ガラムはその言葉を聞いて、フッと冷酷な笑みを浮かべた。


「喋るだけでなく、虚言癖まであるか。……まあいい、買い取ろう。我が奴隷商会の檻に入れ、大都市の富豪どもに見世物として売り飛ばしてやる。……おい、連れて行け」


「あっ、おい待て!! ww 契約書は!? ww サインしてへんぞ!! クーリングオフ適用しろやアアア!! 」


 なんJ民は檻ごと担ぎ上げられ、教会の地下から引きずり出された。

 外には、鉄格子で覆われた、ドナドナ用の巨大な馬車が待っていた。その中には、すでに他の場所で捕らえられた、薄汚れた衣服を着た亜人の生き残りや、獣人の子供たちが、絶望に満ちた目でうずくまっている。


「よっしゃ、新天地(馬車の檻)移動完了!! www 同業者(奴隷)の皆さん、こんちはー!! ww ワイが今日からこの檻のボスになるなんJ民や!! www 期待値、ここから上げていくからよろしくニキ〜!! www」


 檻の中の難民たちは、突如として放り込まれた「最高にうるさくてポジティブなカエル」を見て、絶望とはまた違う、恐怖に満ちた目で引きつるのだった。

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