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僕は弱い2





「無欲なんだね、アッシュ君は」


 ローザの声には、アッシュを馬鹿にして揶揄おうとするような気配は無い。ただ妙に澄んでいて、アッシュとの距離を確かめ直すような響きがある。


 彼女に気取られないよう静かに唾を飲み込んだアッシュは、視線を落としながら「そうでしょうか」とだけ答える。


「うん。私からは、そう見えるかな」


 ローザはゆっくりと、しかし深く頷いた。


「前にカルビも言ってたけどさ、アッシュ君の強さなら、ソロでもかなり稼げるはずだもん。それこそ、前のトロールシャーマンを狩ったときだってそうだったけど」


 記憶を慎重に辿り直すように、視線を落としたローザは少しだけ声音を硬くする。


「あの上位トロールの魔骸石をマテリアルショップに持ち込めば、かなりの大金になったはず……。でも、アッシュ君は自分の依頼を達成することを選んだでしょ?」


 自分の言葉を真剣に扱おうとするその様子は、理知的でありながらも、理屈っぽくない真剣さがある。


「報酬も貢献度もかなり低く抑えられてて、王都への奉仕同然の依頼だったのにさ。それでもアッシュ君は依頼達成を優先してたから」


 でも、お金がどうこうっていうことを言いたいんじゃなくて……、と言葉を繋いだローザは、少し考えこむような間を置いてから、アッシュの方を見た。


 彼女はアッシュが首から下げている5等級の認識プレートを一瞥してから、少し尊敬するような、眩しそうな目つきになった。


「“冒険者”として立派だなぁ、と思ったんだよ。お金とか名誉じゃなくて、あくまで依頼をこなしていくっていう感じでさ」


 上級冒険者であるローザが、最低等級のアッシュに向ける言葉としては、ともすれば皮肉や嫌味にも聞こえかねないものではあった。


 だが、「アッシュ君がその気になれば、報酬も貢献度も稼げるどころか、とっくに私達の等級なんて追い越してるもんね~」と付け足したローザの声音には、そういった暗い響きは一切ない。


「ここからは私の憶測だから、聞き流して欲しんだけどさ」


 そのローザの穏やかな口調は、確かにアッシュの返事を求めているものではなかった


 「アッシュ君は私達の同行依頼を受けてくれているけど、報酬はともかく、それで得られる貢献度は全部、ギルドの窓口で“辞退”するつもりなのかな~って」


 貢献度加算の辞退。

 これは、ある種の冒険者の救済処置でもある。


 等級が上がっていくに連れて、半年ごとにギルドに支払うべき“冒険税”の税額も上がるからだ。この“冒険税”はギルドに所属するための組合費のような側面もあり、冒険者の生活を極端に圧迫するほどの額ではないものの、軽くはない負担となっている。


 冒険者は基本的に、収入や資産に関わる幾つかの税から解き放たれている。その代わりに、この“冒険税”を滞納し続けた者への行政からの対応は、とりわけ容赦がない。


 正規軍に無償従事させられ、未開地開発での魔物との戦闘、強制労働を課せられたりといった厳しい処置を受ける。


 だから、どんなゴロツキの冒険達でも、この“冒険税”だけは滞納しない。ただ、冒険者というものは危険が伴う職業であるため、この支払いが遅れそうになる場合もある。


 何らかの理由で冒険者パーティが解散したり、パーティから冒険者が抜けた場合、そのパーティに所属していた冒険者達の収入は減少することが殆どだ。これが一時的なものであれば、そこまで問題はないかもしれない。


 だが、怪我をして治癒を終えても後遺症が残ったりしている場合や、パーティを離脱した冒険者の素行が悪いことが知られていたりすると、他のパーティに所属できなかったり、儲けの大きい依頼を受けることができなかったりする期間が長引くこともある。


 そうなった場合、冒険税の支払いが滞ってしまいかねない。そこで、この冒険者税の税額を減少させるために、自身が加算してきた貢献度を、ある程度遡って辞退することができるのだ。


 この制度を利用するには、最近の依頼達成状況や収入額、所属しているパーティの状況や、銀行口座の預金の動きなど、ギルドからの審査を受ける必要がある。自白魔法を用いた厳しい審査だが、今までアッシュは引っかかったことはない。


 アッシュが今まで達成した依頼についても、難度はともかく、得られる貢献度と報酬額が低いものばかりを選んできた。わざわざ税を逃れるほどの活躍ではなかったはずだ。


 いや、或いは……、アッシュの来歴を鑑みれば、いずれにせよ最低等級に固定されるのかもしれないが――。


「意図的に5等級を維持するには、貢献度の加算を辞退しないと無理だろうし……。エルンの町を守った依頼も含めて、アッシュ君は今までの貢献度を全部受け取ってこなかったのかな、って思ってさ」


「いえ、僕は……」


 アッシュも何かを言わねばならないと思うが、後が続かない。黙ってしまう。その沈黙は、彼女の推測を肯定するのと、ほとんど同義だった。


「アッシュ君が5等級を維持しているのも、ソロ冒険者を続けようとしてるのも、何か理由があるんだよね? それは、私達も理解してるつもりだから」


 ただローザは、本当に話したいことは別なのだというふうに、黙ったままのアッシュを横目に見て、と優しく言葉を進めてくれた。


「私が言いたいのはさ、もっと私達のことを頼ってくれていいからね、ってこと」


 少し力を籠めたローザの言い方は、アッシュとローザ達との関係の結び目を確かめて、慎重に結び直すような響きがあった。


「私はもう、アッシュ君のことを本当の仲間だと思ってるし。何か相談したいこととか、悩んでることがあったりしたら、遠慮なく甘えてきてよ」


 少し照れ臭そうに「にひひ」っと笑ってくれるローザに、アッシュは胸を強く押された気がした。心の中で何かが軋むような苦しさがあった。その痛みに耐えている間に、またローザに応えるべき言葉を見失ってしまう。


「なんか、色々と尋ねちゃってごめんね。……何て言うか、私も知りたくてさ。アッシュ君のこと」


 口許に微笑みを灯したローザの言葉には、アッシュの内部へと踏み込もうとするような強引さはない。あくまで、よりアッシュと親しくなりたいという、控えめな意思表示のように思えたときだった。


「……おいおい。アタシら抜きで随分と楽しそうにしてんじゃねぇか」


 潤いのあるそよ風を乱暴に押しやるようにして、ちょっと不機嫌そうな声が届いてくる。


「おっと。3人とも戻ってきたね」


 声がした方へとローザが振り返った。今までの会話が中断されたことに少しホッとしつつ、アッシュもそれに倣う。


 トロールダンプの入り口の方から、カルビとネージュ、エミリアが歩いてきていた。3人は装甲服姿で手ぶらだ。買い物で手に入れた品や武器類は、既にアイテムボックスに仕舞ったのだろう。


「何の話をしてんだよ。ネージュとエミリアはともかく、アタシは混ぜろよ」


 妙な真剣さでカルビが訴えてくる。


「……何で私をハブろうとしてんのよ。凍らせるわよ?」


 ネージュが眉間に皺を刻み、並みの冒険者ならそれだけで凍りつかせてしまうような冷酷な声で言う。


「私《わたくし》を除け者にしようなど、許されぬ行為ですわ。特にィ?アッシュさんと共有される話題に於いてはァァ? 万死に値しますわよォォォォン?」


 青筋を額に浮かべたエミリアも、カルビに噛みつきそうな表情だ。


 だがカルビの方は、ヒートアップする2人を視線で一瞥しただけで、「はいはい」と軽く手を振ってあしらって見せる。


 そんなカルビを横目で睨んだネージュが恐ろしい舌打ちをして、「おいテメェ……!」と怖い声になったエミリアが肩をいからせた。すかさずローザが「まぁまぁ」と宥めに入る。


「アッシュ君のことについて、色々と話をしてたんだよ」


 気軽い感じでローザが言うと、「マジかよ。どんな話だよ」とカルビが面白がった。


「僕の趣味や暮らしぶりなど、そういった話です」


 意識的に笑みを作ったアッシュは曖昧に答える。


「それは興味深いわね。じっくり聴きたいわ」


 ネージュは微笑みを浮かべてアッシュを見つめてきたが、その瞳の奥はやけに真剣だった。


「寧ろ、これ以上に有意義な話題が地上に存在するでしょうか」


 どこか陶然とした様子のエミリアも、やけに力の籠った声で言いながら嫣然と微笑み、アッシュに顔を向けて来る。


「おい、ネージュ。それにエミリアもよぉ。そんな迫真の目力でアッシュを睨むんじゃねぇよ。変な空気になるだろうが」


「睨んでないわよ!」


「睨んでませんわよ!」


「はいはいそこまで」


 ムキになるネージュとエミリアを宥めつつ、草むらに座っていたローザがゆっくりと立ち上がって、お尻についた草や埃を払った。


「それにしても3人共、買い物にしては長かったね。他の冒険者達から絡まれたりでもしてた?」


「まぁな」とカルビが唇の端を狂暴そうに歪めた。


「逆。逆ですわ」顔を顰めたエミリアは溜息交じりだ。「カルビが絡みに行ったのよ」と続いたネージュも、疲れたような息を吐いてみせる。


「違ぇよ。アレは絡みに行ったんじゃねぇ。世間話に混ぜてもらっただけだ」


 明らかに惚《とぼ》けた口調でカルビは両手を広げてから、「アタシがそんなガラの悪いことをするように見えるか?」と、アッシュを見下ろしてくる。


 過去の決闘劇での経緯をローザから聞いていたアッシュは一瞬、反射的に頷きそうになったが、「い、いえ」と何とか愛想笑いを浮かべた。


「アッシュ君の前ですっとぼけるのは止めなさい」


 不味そうに顔を歪めたネージュは、横目でカルビを睨んだ。


「私も見てましたわよ。カルビさん貴女、世間話をするよりも先に、わざわざ装備用のアイテムボックスから大戦斧を召び出していたじゃありませんの」


 腰に手を当てたエミリアも、糾弾するように指を向ける。カルビが肩を竦めた。


「アタシは別にな、絡もうとかそういう意図は全く無かったんだよ。アイツらがアタシの方を見ながらヒソヒソと何か言ってやがってたからよ。だからアタシの方から、“何か用か?”ってな具合で、フレンドリーに話しかけに行ってやっただけだぜ?」


「あんな威圧的な大戦斧を担いでおいて、フレンドリーだなんてよく言うわね……」呆れたように言うネージュの後で、「傍から見てたら、ほとんど恐喝でしたわよ」と、半目になったエミリアが付け足す。


「ちょっとさー……」ローザも眉を顰めてカルビを見た。


「正規軍の見回り兵だって一杯いるんだから、セーブエリアでの揉め事は駄目だって。また貢献度をマイナスされちゃうよ?」


「分かってるっつーの。流石にな? ぶちのめしたり、金目のモノを受け取ったりはしてねぇっつーの」


 カルビの方はうるさそうに溜息をつき、後頭部をガシガシと掻いた。それから、「あぁ、そうだ。話が逸れて忘れるところだってぜ」と、何かを思い出したように不敵な笑みをつくり、アッシュ達を順に見た。


「それでだ。さっきアタシがフレンドリーに、そう、飽くまでフレンドリーに話をした奴らから、面白い話がきけた」


 フレンドリーという部分を殊更に強調するカルビは、「吐かせるのに苦労したんだぜ」などと、手柄を自慢するように付け加える。


「フレンドリーに脅しつけて、情報を吐かせたんだね」


 軽くツッコんだローザが半笑いになって、ネージュとエミリアが不味そうな半目になっている。「まぁな」と、何故か得意げになったカルビはもう一度全員の顔を見まわしてから、僅かに声を潜めた。


「アタシ達も数日前にギルドで聞いただろ? 廃都のダルムボーグに潜んでいるとかいう、ネクロマンサーの噂だ。アレ、結構マジっぽいぜ? ……『鋼血の戦乙女』と、『ゴブリンナイツ』が動き出してるってよ」


 言いながらカルビが唇の端を持ちあげ、ニヤリと笑う。


 その2つクランの名前はアッシュも知っている。『正義の刃』と同じく、どちらも有名なクランだ。


『鋼血の戦乙女』は、機械術士組合のアードベル支部が抱えたクランで、機械術士達が開発した特殊な装備を扱う戦闘集団だ。先鋭化された魔法機術武具に適応できるのが殆ど女性であるという理由から、クラン名に“戦乙女”の名を冠しているのが特徴的だ。


『ゴブリンナイツ』はその名の通り、ゴブリン種だけで結成されたクランだが、その集団戦闘能力は非常に高いというのが評判だった。


 魔王戦争時代の地下迷宮などの危険なダンジョンに向かい、魔物の討伐と地図の作成を行うクランで知られている。


「剣聖サマも言ってただろ? 『戦乙女』も、ギルドから別件の調査依頼を受けてるってよ。あれが、賞金首のネクロマンサーだったってワケだ」


 そこでカルビが、少しだけ真面目な表情を作ってみせる。


「ダルムボーグ周辺のダンジョンとか狩場でも、ゾンビが見つかってるってのは確からしい。その御蔭で、ネクロマンサーの賞金を目当てに動いてた冒険者共も、あちこちに振り回されてたみてぇだぜ」


「賞金首のネクロマンサーの噂自体は少し前から流れていましたけど、まだ見つかっていないんですね……」


 アッシュはエルンの町でのことを思い出し、ネクロマンサーという言葉に忌避感を覚えつつ口にした。


 「ネクロマンサーっていう言葉自体、今はあんまり聞きたくないかな……」


 げっそりとした顔になるローザの横で、ネージュが無表情のままで鋭い眼差しになる。


「賞金首のネクロマンサーと、エルンの町を襲ったネクロマンサーは、また別なのかしら……?」


「あぁ。そのことなんだが」カルビが頷く。


「別のネクロマンサーだろうな。エルンの町の騒ぎがデカくなるのと並行して、王国各地でもゾンビの目撃情報も増えてたらしい」

 

「……つまり」思案顔のローザが顎を撫でた。「最低でも二人以上のネクロマンサーが、別々の場所で暗躍してるってことね」


「……エルンの町が無視されてしまうほどの、魅力的な賞金額なのでしょうね。そのネクロマンサーとやらは」


 珍しくエミリアが冷ややかな口調で言うと、カルビが鼻を鳴らした。


「ネクロマンサー探しが過熱し過ぎて、ギルドが手を打つ程度にはな。……ついでにここ最近は、そのネクロマンサーを狙った冒険者共が、もう何人も行方不明になってるそうだぜ」


 真面目な表情を維持しているカルビの言葉を聞いて、アッシュの脳裏にはリーナ達の後ろ姿が過っていた。


 彼女達も賞金首のネクロマンサーを捜索すべく、確か、他のパーティと一時的なクランを結成するという話をしていたはずだ。


 ――その行方不明者の中に、リーナ達が含まれているのではないか。その当然の可能性と不安を、咄嗟にアッシュが飲み込んだときだった。


「つーワケで、アタシらも行くか」


 声に獰猛さを灯したカルビが、その美貌に不敵な笑みを刻んだ。


「いや、どういうワケですの?」と珍しくエミリアが軽くツッコみ、「行くか……って、ダルムボーグに?」不審そうな顔になったネージュが、カルビに目線を向けた。


「そこ以外に何処があんだよ」


 カルビは当然のように言う。


「アタシ達なら、ダルムボーグの魔物どもに後れを取ることもねぇ。それに賞金首のネクロマンサーを捕らえたとなれば、アタシもネージュもエミリアも、『2等級』に戻れる程度には貢献度も加算されるだろ。ローザだって、『1等級』入りは間違いねぇ」


「まぁ、それはそうだけど……」


 ネージュは迷うように視線を落としたが、カルビの発言を拒否する気配は無かった。


「ネクロマンサーの被害が広がっているというのであれば、野放しにするのも気が引けますわね……ッ!」


 その豊かな胸の内で、正義感をメラメラと燃やすようにエミリアが続く。


「エルンの町のように、悪しきネクロマンサーが何かを企てているのでしょう。それを未然に防ぐのも、私《わたくし》のようなパァァァァァフェクトな“淑女”冒険者の務めですわ!」


「実際、このネクロマンサーの話は、悪くねぇチャンスだと思うがな」


 エミリアのあとに言いながら、カルビはぐいっとアッシュの肩を組んできた。瞬時にネージュが眉間に皺を寄せて、エミリアが目を吊り上げる。


 だが、そんなことには全く気付かないカルビは、「首尾よくいけば、アッシュも一気に『2等級』ぐらいまで上がるんじゃねぇか、なぁ?」などと意気揚々とした様子だ。


「僕の場合は等級が低すぎて、ネクロマンサーを捕らえるのに貢献したのかどうかさえ、疑われそうですけど」


 アッシュが眉を下げて答えたところで、何かを考えこむように視線の動きを止めていたローザが緩く息を吐き、ちらりと視線を上げてカルビを見た。


「……まぁ、ダルムボーグに行くこと自体は反対じゃないよ。今日もアッシュ君にも手伝って貰って、かなり利益も出てるし。準備を整えるぐらいなら問題無いとして……」


 慎重そうに言葉を続けるローザは、また視線を下げてブツブツと言い始める。


「まぁ、賞金首を無理に探して出さなくても、ダルムボーグ周辺の魔物を狩れば、まぁまぁ優良な素材も回収できるだろうし……」


 ネクロマンサーを捕らえて一攫千金を狙うのではなく、地道な実利重視の冒険活動を視野に計画を練っている様子だ。


 そんなローザを尻目に、「決まりだな!」とカルビが溌剌と笑う。


「でも」と、すかさずローザが声音を硬くした。


「この件に関しては、まだアッシュ君に同行依頼をしてないからね。私達だけで勝手に話を進めるべきじゃないわ」


 その真面目な口振りは上級冒険者としてものであり、アッシュのことを対等な仕事相手として扱ってくれているのが分かる。


「あぁ、そりゃそうだな」


 カルビも素直に納得して、アッシュと組んでいた肩を解いた。真面目な顔のネージュ、エミリアが頷きあっている。


「ある意味、この場で一番大事な話がまだだったわね」


「アッシュさんが同行して下さるかどうかで、私達の冒険活動は随分と変わりますから」


 この3人の反応を確かめたローザが、ちょっとだけ表情を緩めてアッシュを見た。


「今の話の通り、次の目的地はダルムボーグで、ネクロマンサー探しに出遅れて参加するわけだけど……。私達の同行依頼、受けてくれるかな?」


 ローザの口振りは軽快ではあったが、同じ冒険者として、アッシュに対する敬意が籠められているのは十分に伝わってきた。


 ここでアッシュが断れば、きっとローザは「そっか。うん。分かった」と言って、潔く引きさがってくれるだろう。


「ネクロマンサーの賞金を山分けすることになるかもしれねぇから、流石に今回は、微に入り細を穿った契約書でも用意するか?」


「そういう話は、アッシュ君が同行してくれると決まってからにしなさい」


「そうですわよ。アッシュさんが同行して下されば、まさに天にも昇る歓びであり、もう雄叫びを上げて歓喜と祝福の舞踏を披露したくなる程ではありますが……、そうやってせっつくような真似は感心しませんわ」


「……エミリア、貴女もちょっと落ち着きなさいよ。そんなものをこの場で披露し始めたら、警邏中の兵士たち不審人物認定されるわ」


「そうだぜ、エミリア。アタシの冗談なんかより、鼻息の荒いお前の浮かれポンチ仕種《しぐさ》の方が、よっぽど洒落になってねぇし感心できねぇンだよ」


 カルビとネージュ、エミリアが交わす冗談めかした遣り取りの雰囲気にも、アッシュの選択を尊重してくれる意思が窺えた。あの騒がしさにも意味があるのだ。


 今になって、ひどく胸が軋む。

 

 愚かにも僕は、彼女達に求められている喜びを手放したくないと思っている。その欲望を振り払えない僕は、どこまで弱いままだ。


 頭の中に、あの悪夢の声が這い上がってくる。

 象牙色のローブを被った男の声が、背後で言う。


 ――まだだ。

 ――もっと殺せ。

 ――お前の価値を証明しろ。

 ――お前の意味を立証しろ。

 ――殺戮という機能によって。


 だが、こんな僕を、彼女達は仲間だと言ってくれた。


 その温かさに報いたいという希望を、必要としてくれた恩を返したいという願いを捨てるのは、もう難しかった。


 これほど心の深みにまで浸透した喜びを、汲み尽くし、洗い流して、無かったことにするのは――。


 だが、このままではいけないという思いも、僕のなかにあった。同行を喜んでくれる彼女達の存在に慰められている自分が、とても醜い存在に感じた。


 ――これで最後にしよう。

 彼女達との同行は、この冒険で終わりにしようと思った。


「僕で良ければ……、同行させていただきます」


 せめて僕は、“一人の冒険者”として応じる。

 個人的な何者でもない、最低等級の冒険者として。

 

 今の僕は、上手く笑えているだろうか。



 




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