第178話 蕎麦屋のカツカレーと、レトルトな件
夜も更けた頃。
ここは——
深夜食堂「しのぶ」。
暖簾の向こうから、少し勢いよく入ってくる常連客。
「しのぶさん、マサさん、八恵子さん、聞いてくださいよ……」
席に着くなり、ため息まじり。
忍が湯呑みを置く。
「どうしたの?」
「先日、老舗の蕎麦屋でカツカレー食べたんですよ……」
マサがふと手を止める。
「ほぉ」
常連客は肩を落とす。
「そしたら……カレーがレトルトだったんです……」
一瞬、沈黙。
「……がっかりしちゃいましたよ」
八恵子が少し考えるように言う。
「老舗なのに?」
「そうなんですよ!」
常連客は続ける。
「蕎麦屋のカレーといえば——」
力を込めて。
「**かえしで味を整えたカレー**じゃないですか!」
忍が静かに頷く。
「出汁が効いた、あの感じね」
マサは腕を組む。
「まぁ……気持ちはわかる」
少し間を置いて言う。
「でもな——」
常連客が顔を上げる。
「レトルトだからダメってわけでもねぇ」
「えっ?」
マサはフライパンを火にかける。
「いいか、よく見てろ」
レトルトのカレーを一袋、取り出す。
鍋ではなく、フライパンに開ける。
「袋のまま温めるより——」
木べらで混ぜる。
「**空気に触れさせた方が香りが立つ**」
弱火でゆっくり温める。
そこに——
「かえし、ちょい足しだ」
ほんの少し加える。
さらに一振り。
「あと、醤油でもいい」
八恵子が興味深そうに覗く。
「それだけ?」
マサが笑う。
「それだけだ」
忍が横で呟く。
「シンプルね」
マサは頷く。
「やりすぎると、別物になるからな」
その間にカツを揚げる。
衣が黄金色に変わる。
ザクッという音。
皿にご飯を盛り、カツをのせる。
そこにカレーをかける。
「ほらよ」
常連客が恐る恐る一口。
サクッ。
もぐもぐ……。
そして——
「……あれ?」
もう一口。
「……これ……」
顔が変わる。
「うまい……」
マサがニヤリとする。
「だろ?」
常連客が驚く。
「なんか……蕎麦屋っぽい」
忍が微笑む。
「ほんの少しで変わるのね」
八恵子も頷く。
「ベースがあれば、味は作れる」
マサが腕を組む。
「老舗だってな——」
少し遠くを見るように。
「効率を考えることもある」
そして一言。
「大事なのは、どう仕上げるかだ」
常連客は苦笑する。
「レトルトでも……」
少し納得したように。
「ここまで変わるんですね」
マサが短く言う。
「道具じゃねぇ」
「使い方だ」
暖簾が揺れる。
今日もまた、
少しの工夫で変わる味が
深夜食堂に広がっていた。
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深夜食堂 しのぶ
お約束のレシピ
マサ流 蕎麦屋風カツカレー(簡単版)
①レトルトカレーをフライパンで温める
②かえし(または醤油少々)を加える
③弱火で軽く煮詰める
④揚げたカツにかけて完成
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マサのひと言
「レトルトはな——
手抜きじゃねぇ、“土台”だ」




