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タイトル未定2026/04/06 12:23

第177話

ベーグルと、はじまりの香り


夜も更けた頃。


ここは——

深夜食堂「しのぶ」。


店の中には、いつもとは少し違う香りが漂っていた。


小麦が焼ける、香ばしい匂い。


マサが久しぶりにパンを焼いているのだ。


その時——


カラン。


暖簾をくぐる音。


忍が顔を上げる。


「あらっ、お客さんね」


入ってきたのは、少し緊張した様子の少女だった。


店内を見渡し——

そして、ぽつりと。


「あのっ……ここ、パン屋さんですか?」


一瞬、間が空く。


マサが苦笑する。


「食堂だよ」


少し間を置いて続ける。


「……今はパン焼いてるけどな」


八恵子がくすっと笑う。


「タイミングが良すぎるわね」


少女はほっとしたように笑う。


「すみません……すごくいい匂いで……つい」


忍が優しく席を案内する。


「いいのよ、座って」


少女はカウンターに腰を下ろす。


「ありがとうございます」


少し落ち着いた様子で話し始めた。


「実は……近々、ベーグル専門店を開こうと思ってて……」


マサの手が少し止まる。


「ベーグルか」


少女が頷く。


「はい。今、あいさつ回りをしていて……」


八恵子が興味を示す。


「いいじゃない」


少女は少し困った顔になる。


「でも……」


忍が優しく聞く。


「どうしたの?」


少女は小さく息をついた。


「メニューに悩んでて……」


マサがパンをオーブンから取り出す。


焼きたての香りが広がる。


「どんなの考えてる?」


少女はノートを取り出す。


「プレーン、チーズ、チョコ……」


少し自信なさげに。


「定番はあるんですけど……」


八恵子が笑う。


「悩むわよね」


マサはパンを並べながら言う。


「ベーグルってのはな——」


少女が顔を上げる。


「はい」


マサは少し考えてから言った。


「シンプルな分、誤魔化しが効かねぇ」


静かに続ける。


「だから——」


一つパンをちぎる。


「**“これ食いたい”って思うやつを出せばいい**」


少女がじっと聞いている。


忍が補足する。


「お客さんはね」


微笑みながら。


「その人の“好き”を食べに来るのよ」


八恵子も頷く。


「流行りより、自分の味ね」


少女の表情が少し変わる。


「自分の……味……」


マサが焼きたてのパンを差し出す。


「食ってみな」


「えっ……いいんですか?」


「ああ」


少女は一口食べる。


もぐもぐと噛みしめる。


「……おいしい」


少し驚いたように言う。


「シンプルなのに……」


マサが笑う。


「シンプルだからだ」


少女はノートを見つめる。


そして、ゆっくりと書き足した。


「……決めました」


三人が見る。


少女が顔を上げる。


「まずは——」


少し照れながら。


「**自分が一番好きなベーグルから出します**」


忍が微笑む。


「いいと思うわ」


八恵子も頷く。


「絶対、伝わる」


マサは短く。


「それでいい」


少女は立ち上がる。


「ありがとうございました!」


深く頭を下げる。


「また来ます!」


カラン。


暖簾が揺れる。


静けさが戻る。


八恵子がぽつりと。


「いい顔してたわね」


忍が頷く。


「ええ」


マサはパンを見ながら呟く。


「はじまりってのはな——」


少しだけ笑う。


「だいたい、こんなもんだ」


深夜食堂には今日も、


誰かの“はじまり”の香りが


静かに残っていた。



――――――――――


マサのひと言


「流行りじゃねぇ。

“自分が食いたいか”だ」



――――――――――


深夜食堂 しのぶ

お約束のレシピ


マサ流 ベーグル(基本のプレーン)


ベーグルってのはな——

見た目は地味だが、奥が深い。


外はむっちり、中はもっちり。

それが基本だ。


---


【材料(4個分)】


・強力粉 250g

・砂糖 15g

・塩 4g

・ドライイースト 3g

・ぬるま湯 140ml


(ケトリング用)

・水 1リットル

・砂糖またははちみつ 大さじ1


---


【作り方】


①こねる


ボウルに材料を全部入れ、よく混ぜる。


まとまってきたら台に出し、

**10分ほどしっかりこねる。**


ポイントは——

表面がなめらかになるまで。


---


②一次発酵(短め)


ベーグルは発酵しすぎない。


軽く丸めてボウルに入れ、

**30分ほど休ませるだけ。**


---


③成形


生地を4等分にする。


細長く伸ばして、

片方をもう片方に巻きつけて輪にする。


しっかり閉じるのがコツ。


---


④二次発酵


軽く膨らむ程度でOK。


**20分ほど休ませる。**


---


⑤ケトリング(ここが重要)


お湯に砂糖またははちみつを入れ、

沸騰直前の温度にする。


ベーグルを入れ、


**片面30秒ずつゆでる。**


これであの独特の食感になる。


---


⑥焼く


オーブンを200℃に予熱。


**15分ほど焼く。**


こんがり色づいたら完成。


---


【仕上げアレンジ】


・クリームチーズ

・スモークサーモン

・はちみつバター


何でも合う。


---


マサのひと言


「ベーグルはな——」


生地を見ながら言う。


「**ゆでるか焼くかで、別の食いもんになる**」


「手間はかかるが、その分ちゃんと返ってくる」


---


深夜食堂では、


今日もまた


誰かの“はじまり”を


応援する味が並んでいる。

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