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第164話 『料理人の孤独』



ここは、深夜食堂しのぶ。

夜も更け、店内には静かな時間が流れていた。

忍が湯呑みを拭きながら言う。

「さっきの八恵子さん…少し疲れてるように見えたわね」

マサは頷いた。

「そりゃそうだろうな」

「どうして?」

マサは少し遠くを見るようにして言う。

「料理人ってのはよ…」

「孤独なんだよ」

忍は静かに耳を傾ける。

「どんなに店が流行ってもな」

「最後に責任背負うのは料理人だ」

「味が悪けりゃ全部自分のせい」

「逆に旨くても…それが当たり前」

忍が小さく笑う。

「厳しい世界ね」

マサは肩をすくめた。

「でも嫌いじゃねぇ」

その時だった。

暖簾が静かに揺れる。

「こんばんは」

忍が顔を上げる。

「いらっしゃいませ」

そこに立っていたのは――

八恵子だった。

忍が少し驚く。

「あら、戻ってきたの?」

八恵子は少し照れたように笑った。

「ごめんなさい」

「少しだけ…話してもいい?」

マサが頷く。

「もちろんだ」

八恵子はカウンターに座った。

「マサさん」

「はい」

「おにぎり…美味しかった」

マサは照れたように頭をかく。

「そりゃよかった」

八恵子は少し沈黙してから言った。

「私ね…」

「最近、料理が怖いの」

忍が静かに湯呑みを差し出す。

「どうして?」

八恵子はゆっくり話し始めた。

「おにぎり屋、すごく流行ってるの」

「毎日行列」

「でもね…」

少し笑った。

「誰も“味”の話をしないの」

マサの目が少し鋭くなる。

八恵子は続けた。

「SNSの写真」

「行列」

「話題」

「そればっかり」

忍が小さく頷く。

八恵子は言った。

「私…何作ってるんだろうって」

「たまに分からなくなるの」

店内が少し静かになる。

マサがゆっくり立ち上がった。

「八恵子」

「はい?」

マサは土鍋を取り出した。

「もう一回」

「おにぎり握るか」

八恵子が驚く。

「え?」

「料理人はな」

マサが米をよそいながら言う。

「迷うもんなんだよ」

忍が笑う。

「そうね」

マサが続ける。

「でもな」

「迷った時は一番原点に戻る」

マサは塩をつけて、ゆっくり握る。

「料理ってのはよ」

「腹減ったやつが“旨い”って言えば、それでいい」

おにぎりを差し出す。

八恵子は静かに一口食べた。

しばらく黙っていた。

そして――

ぽろっと涙が落ちた。

忍は何も言わず、温かいお茶を置く。

八恵子は笑いながら言った。

「やっぱり…」

「悔しいけど」

「マサさんの料理、好きだなぁ」

マサが笑う。

「料理人の負けだな」

八恵子が首を振る。

「違うわ」

「料理人の幸せよ」

暖簾の外で夜風が揺れていた。


塩むすび(料理人の原点)


材料

米 2合

水 適量

塩 適量

海苔(お好み)


炊き方

① 米を研ぎ30分浸水

② 土鍋または炊飯器で炊く

③ 炊きたてを10分蒸らす


握り方

① 手に塩をつける

② ご飯を軽く三角に握る

③ 強く握りすぎない


マサの一言

「おにぎりはよ…

料理人の腕より

“心”が出る料理だ。」


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