夜風なぎさんとのコラボ作品
この回は、おなじ小説家になろうユーザーである夜風なぎさんとの共同制作です。
夜風なぎさんのアカウントで絶賛連載中の代表作!
先日彼女を寝取られたが、そんなことより飯を食おう ~夜中の台所より愛情をこめて~
の主人公、充君が、深夜食堂しのぶに訪れる回です。
『涙の冷やし中華』
ここは、深夜食堂しのぶ。
ある蒸し暑い夜――
「しのぶ、そろそろあれだろ?」
「ええ、マサさん。そろそろね」
「冷やし中華だな」
今年もその季節がやってきた。
「さて、一番乗りは誰かな」
そう話していると、暖簾が揺れた。
若い青年が、少し遠慮がちに入ってくる。
「あら、学生さんかしら?」
「そんな雰囲気だな」
「いらっしゃい。初めてよね?」
「はい」
「うちはね、メニューにないものも出来るの。食べたいものがあれば言ってちょうだい」
青年は少し迷ってから、言った。
「……冷やし中華、出来ますか?」
しのぶがマサを見る。
「マサさん?」
「あいよ」
包丁の音と、夏の匂い
中華麺を茹で、氷水で締める。
きゅうりは細く、ハムも細く。
錦糸卵はふわりと。
カニカマ、きゅうり、ハム、錦糸卵。
余計なものは乗せない、昔ながらの一皿。
タレを回しかけ、最後にからしを添える。
青年はしばらくそれを見つめていた。
「実は……」
ぽつり、と話し出す。
「元恋人が、冷やし中華苦手で。
付き合ってる間、ずっと食べてなかったんです。
気づいたら、存在すら忘れてて」
しのぶは何も聞かず、温かい湯呑みをそっと置く。
マサは目を閉じ、静かに頷いた。
青年は一口すする。
そして、無言で食べ続ける。
気づけば、目元が少し潤んでいた。
「……旨い」
小さな声。
マサがぼそりと呟く。
「からし、効かせすぎたか?」
しのぶがやわらかく笑う。
「食事は笑顔の源よ。
好きなものを、好きな時に食べられなくなったら――
またここにおいで」
「ごちそうさまでした」
店を出る頃には、青年の顔は晴れていた。
「しのぶ、あの青年……」
「ええ。もう大丈夫」
「旨い料理は、人を前に進ませるからな」
夏の夜風が、少しだけ涼しく感じた。
冷やし中華レシピ(昔ながらの基本)
材料(1人分)
中華麺(生)…1玉
きゅうり…1/2本
ハム…2〜3枚
卵…1個
カニカマ…2〜3本
からし…適量
タレ
醤油…大さじ2
酢…大さじ2
砂糖…大さじ1
ごま油…小さじ1
水…大さじ1
作り方
① 卵を溶き、薄焼きにして細く切る(錦糸卵)。
② きゅうり・ハムは細切り。
③ 麺を表示通り茹で、氷水でしっかり締め、水気をよく切る。
④ 器に麺を盛り、具材を彩りよく並べる。
⑤ よく混ぜたタレを回しかけ、からしを添える。
※麺は“しっかり締める”が命。
マサの一言
「冷やし中華はな、
具材よりも“麺の締め”だ。
氷水で一気に締めて、
水気をきっちり切る。
それだけで、
夏がうまくなる。」




