第160話 ###『レトルトカレーの夜』
「こんばんわー」
少し疲れた声と一緒に、暖簾が揺れた。
「お久しぶりです」
「いらっしゃい、鈴木さん」
忍が笑顔で迎える。
「久しぶりだね」
マサさんも顔を上げた。
「営業、忙しくて……」
「ちゃんと食べてます?」
「ぼちぼちですかねぇ……」
そう言いながら、鈴木は鼻をひくひくさせる。
「……何か、いい香りしますね。
カレーライスって、メニューにありましたっけ?」
「いや、あれは賄い」
「……あぁ」
鈴木は少し照れたように笑った。
「カレーって言えば、
最近はレトルトしか食べてないなぁ……」
賄いカレー、あります
「賄いでよければ、
多めに作ったから出せますよ」
「えっ? いいんです?」
「女将、大丈夫だよね?」
「大丈夫よ(笑)」
運ばれてきたのは、
湯気を立てる、どこか懐かしいカレー。
「実は……」
鈴木は足元の手提げ袋を持ち上げた。
「カレー食べたくて、
レトルト、いっぱい買っちゃって……」
袋いっぱいのレトルトに、
忍とマサは目を丸くする。
「すごい量ね……」
「あるあるだなぁ」
レトルトの立ち位置
「レトルトもな、
一味加えると、かなり化けるんだけどなぁ」
マサさんが鍋を見ながら呟く。
「でもさ、それやると
“レトルト買った意味ない”
って話にもなるんだよな」
鈴木が苦笑いする。
「わかります、それ」
「よし」
マサさんが手を叩いた。
「じゃあ、一袋だけやってみよう。
隠し味だけで」
「おぉ……」
「それとな」
マサは続ける。
「レトルトは、
袋のまま湯煎より、フライパンで温める。
ちょい面倒だけど、
香りとコクが全然ちがう」
賄いカレー(マサ仕立て)
材料
玉ねぎ
人参
牛すじ or 豚バラ
市販カレールウ
水
サラダ油
作り方
玉ねぎをしっかり炒める(飴色まで)
肉・人参を加えてさらに炒める
水を入れて煮込み
火を止めてルウ投入
一晩置く(←ここ重要)
レトルトカレー・隠し味アレンジ
やることはこれだけ
フライパンに出す
弱火で温めながら
下記を少しだけ加える
隠し味(どれか1つでOK)
バター 小さじ1
インスタントコーヒー ひとつまみ
醤油 数滴
ウスターソース 少々
※入れすぎ厳禁。
食べ比べの夜
「……全然ちがいますね」
鈴木はスプーンを止めた。
「賄いは“帰ってきた味”。
レトルトは……
ちゃんと“進化した味”だ」
忍が微笑む。
「どっちも、いいじゃない」
マサの一言
「レトルトは手抜きじゃねぇ。
使い方を知ってるかどうかだ」
鈴木は、
袋いっぱいのレトルトを見つめて笑った。
「……明日から、
ちょっとだけ手間かけてみます」




