**第157話 『揚げ玉と、貧乏学生の夜』**
深夜食堂しのぶ。
夜も更け、客足がひと段落した頃。
暖簾が、控えめに揺れた。
「……こんばんは。」
入ってきたのは、細身の青年だった。
背中のリュックはくたびれていて、
目の下には、寝不足の影がある。
忍が声をかける。
「いらっしゃい。学生さん?」
青年は少し照れたように笑う。
「はい。
あの……夜遅くまで開いてるって聞いて。」
マサは一目見て分かった。
――腹、減ってる目だ。
■ 揚げ玉という救い
青年はメニューを見つめながら、
小さな声で言った。
「……できれば、
安いので……。」
忍は、何も言わずマサを見る。
マサは、頷いた。
「揚げ玉、あるけど……
それでいいか?」
青年の目が、少しだけ輝いた。
「……揚げ玉、ですか?」
「腹、満たすには十分だ。」
マサは鍋に湯を張り、
白飯をどんぶりに盛る。
揚げ玉をひとつかみ。
刻み葱。
めんつゆを、静かにひと回し。
最後に――
卵黄を、そっと落とす。
「……はいよ。
揚げ玉丼だ。」
■ 10円の味、100点の夜
青年は、箸を持つ手を一瞬止め、
それから、がっつくように食べ始めた。
「……うまい。」
一口、また一口。
「揚げ玉って、
昔、蕎麦屋でタダでもらってました。」
マサが鼻で笑う。
「貧乏学生あるあるだな。」
青年は照れ笑いを浮かべる。
「仕送り、減って……
バイトもシフト減らされて……
最近、ちゃんと食べてなかったんです。」
忍が、静かに言う。
「それでも、ここに来たのね。」
青年は頷いた。
「……コンビニのご飯、
味はするけど、
“気”が入ってない気がして。」
■ 揚げ玉は、油の記憶
マサは、カウンター越しに言った。
「揚げ玉ってのはな、
天ぷらの“余り”だ。」
「でもな、
油と小麦粉と、
職人の仕事の残り香が残ってる。」
青年は、箸を止めた。
「……だから、
こんなに、満たされるんですね。」
■ マサの一言
「金がなくてもな、
食うことは、諦めるな。」
「揚げ玉は、
“まだ生きてる証拠”みたいなもんだ。」
青年は、どんぶりを空にした。
「……また、来てもいいですか?」
忍が、微笑む。
「もちろん。
お腹が減ったら、いつでも。」
青年は深く頭を下げ、
夜へと消えていった。
■ エピローグ
閉店後。
マサが、残った揚げ玉を見つめる。
「……俺も、
学生の頃、
これで凌いでたな。」
忍は、そっと言った。
「今は、作る側ね。」
マサは、小さく笑った。
深夜食堂しのぶ。
今夜は――
**“安さ”じゃなく、
“生き延びる味”**が、
静かに灯っていた。
揚げ玉丼(深夜食堂風・貧乏学生のごちそう)
材料(1杯分)
温かいご飯 …… 丼1杯
揚げ玉(天かす)…… 大さじ3〜4
めんつゆ(3倍濃縮)…… 大さじ2
※なければ
醤油 大さじ1
みりん 大さじ1
砂糖 小さじ1/2
水 …… 大さじ2
卵 …… 1個
刻みネギ …… 少々
七味唐辛子 …… お好みで
作り方
つゆを作る
小さめのフライパンか鍋に
めんつゆと水を入れて弱火にかける。
(自作の場合は、醤油・みりん・砂糖・水を合わせる)
揚げ玉を入れる
つゆが温まったら揚げ玉を投入。
揚げ玉がつゆを吸って、
ジュワッと音を立てたらOK。
卵でとじる
溶き卵を回し入れ、
火を弱めて半熟で止める。
※完全に固めないのがコツ。
盛り付け
ご飯の上に、
揚げ玉と卵をたっぷりかける。
仕上げ
刻みネギを散らし、
お好みで七味を一振り。




