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**第156話 『激安コロッケの謎』**


「お久しぶりです。

 忍さん、マサさん。」

暖簾をくぐって入ってきたのは、門井さんだった。

少し痩せたようにも見える。

マサが顔を上げる。

「おっ!門井さん。

 最近、みかけなかったけど……仕事忙しいのかい?」

「そうなんですよ……出張続きで。

 ついさっき、茨城から戻ったばかりなんです。」

忍が心配そうに声をかける。

「あらあら……ちゃんと食べてるの?」

「いやぁ……食べれてないですね。

 コンビニ弁当がメインでしたよ……(苦笑)」

門井さんは、カウンターに小さなビニール袋を置いた。

「茨城のスーパーで惣菜見てたら、

 野菜コロッケが3つで100円だったんで、

 思わず買っちゃいました(笑)」

忍が目を丸くする。

「定価で……?

 やすすぎじゃない?」

マサも袋を覗き込む。

「ほんとだ……100円だよな。

 価格破壊だなぁ……。」

「門井さん、何か食べてくかい?」

「もちろん。

 この店で食べたくて寄ったんですから。」

「じゃあ――何にする?」

少し考えてから、門井さんは言った。

「丼物、食べたいですね。

 マサさんに任せますよ。」

「……あいよ。」

マサは振り返り、忍を見る。

「せっかくだから、そのコロッケも食べてくかい?

 ……でも持ち込みは――」

忍が即答する。

「構わないわよ。ね?マサさん。」

マサは肩をすくめて笑った。

「女将がそう言うならな。」

■ 親子丼と惣菜コロッケ

親子丼の鍋から、甘辛い出汁の香りが立ち上る。

鶏肉はもも。

玉ねぎは少し大きめに切られ、

卵は二段階で回し入れる。

「親子丼はな、

 卵を急がせないのがコツだ。」

半熟で火を止め、

白飯の上に、静かに滑らせる。

一方、コロッケはトースターで温め直すだけ。

だが、マサはひと工夫した。

「激安コロッケはな、

 油を足さず、余分を抜く。」

表面に霧吹きでほんの少し水を打ち、

高温で一気に温める。

「こうすると、

 衣がベタつかず、軽くなる。」

門井さんは、まず親子丼を一口。

「……あぁ……。

 身体に戻ってくる……。」

次に、コロッケを割る。

中はほくほく、

じゃがいもと玉ねぎが主役の、素朴な味。

「……でも、これ。

 3つ100円って、やっぱり不思議ですね。」

マサが箸を置く。

「謎でもなんでもねぇよ。」

「え?」

「野菜コロッケってのはな、

 規格外のじゃがいもや、

 形の悪い野菜を使うことが多い。」

忍が補足する。

「味は同じでも、

 “売り物にならない”だけなのよ。」

マサは続ける。

「それを無駄にしないための値段だ。

 安い=悪い、じゃねぇ。」

門井さんは、コロッケを見つめながら頷いた。

「……出張先で、

 ちゃんと食べてなかったの、

 バレてますね。」

忍が優しく言う。

「食べるってね、

 贅沢じゃなくて、自分を戻す行為なの。」

門井さんは、最後の一口をゆっくり噛みしめた。

「……やっぱり、

 ここで食べると、安心します。」

マサは小さく笑った。

「激安でも、高級でもな。

 ちゃんと向き合えば、

 料理は応えてくれる。」

深夜食堂しのぶ。

今夜は、

**100円のコロッケが教えてくれた“価値”**が、

静かに胃袋へ染みていった。



『マサ流 親子丼 ―戻ってくる味―』**

門井さんが箸を置いたあと、

マサは鍋を軽く洗いながら、ぽつりと言った。

「親子丼ってのはな……

 簡単そうで、誤魔化しがきかねぇ。」

忍がうなずく。

「だからこそ、体調が出る料理よね。」

■ マサ流・親子丼レシピ(1人前)

【材料】

鶏もも肉 … 100〜120g

玉ねぎ … 1/4個

卵 … 2個

温かいご飯 … 丼1杯分

割り下(出汁)

だし汁 … 80ml

醤油 … 大さじ1

みりん … 大さじ1

砂糖 … 小さじ1/2

■ 作り方

① 鶏肉の下処理

マサ

「胸じゃなく、ももを使う。

 脂が、疲れた身体を戻す。」

鶏もも肉は一口大

皮は残す(旨味)

② 玉ねぎを煮る

フライパンまたは小鍋に割り下を入れ、

玉ねぎを先に入れて中火。

「ここで甘みを出すのよ。」

玉ねぎが透き通ったら次へ。

③ 鶏肉を入れる

鶏肉を入れ、

火を強くしすぎない。

マサ

「煮立たせると肉が硬くなる。」

アクを軽く取る。

④ 卵は二段階

卵は溶きすぎない

白身を切る程度でOK

① まず2/3量を回し入れ、

 蓋をして弱火で30秒。

② 火を止める直前に

 残りの卵を回し入れる。

マサ

「卵は“火を入れる”んじゃねぇ。

 余熱で固める。」

⑤ 盛り付け

ご飯の上に、

滑らせるようにのせる。

「丼は“置く”んじゃなくて、“被せる”の。」

■ 仕上げの一言(マサの助言)

味が薄いと感じたら

 → 後足し醤油はしない

 → 次回、割り下で調整

卵が固くなったら

 → 火が強すぎ

美味しく感じない日は

 → 身体が疲れている証拠

門井さんは、もう一度どんぶりを見つめて言った。

「……これ、

 派手じゃないのに、

 ちゃんと“帰ってきた”感じがします。」

マサは静かに頷く。

「親子丼はな、

 腹じゃなくて、

 人を戻す料理だ。」

忍が、そっと微笑んだ。

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