サカバコウサロ・参上
「邪魔するぞぇ~」
「いらっしゃい。おや、これはまた。」
「やれやれ、誰もかれも儂を珍獣扱いしおるのー。神狐がそんなに珍しいかのう?珍獣サービスを要求するべきかの」
「……お気を悪くされたのであれば申し訳ございません……」
「……冗談に決まっとるじゃろ。何を他人行儀にしておるんじゃ気色悪い」
「いえいえ。かつてど の よ う な 縁があったにせよ、い ま は お客様ですので」
「ほぅ……毎度おんしの性格にはため息が出るわい。年寄りにはもちっと優しくせんか……もう店の素材をくすねに来とった木っ端狐じゃあないんじゃぞ」
「……ふふ。これは失礼を。……では、こちらお詫びの……」
「ほぇ、こりゃ気前がいいのう。油揚げの妖酒蒸しかえ」
「それと、こちらも。」
「んふ♪い・つ・も・の、じゃな?」
「さて、どうでしょうか」
「んふふふふ!言わずともわかるわい、この黄泉穴の色……“還り酒”、それも、反魂の香の香り、“久遠”じゃな!」
「お見事です。さすがに慣れていらっしゃる」
「これでも神狐じゃからな!お ぬ し は 知らんのかもしれんが」
「ふふ……これは1本とられましたね。手に入れるのに苦労したのに、残念です」
「ふふん……」
「……」
「……のう、おんしや」
「……はい」
「……儂が前に来た時からどのくらい経ったのかの」
「人間の暦ですと4、500年といったところでしょうか」
「……妖の暦じゃと――暦なんてものがあればじゃが――ついこの間といったところか。全く、難儀するわい」
「……まだ『約束』を?」
「そーうーじゃ。あンのバカのせいでえらい目におうとるよ」
「言葉の割には、楽しそうに見えますが」
「あほ抜かせィ。なんでこの儂が待ちぼうけを喰らわんといかんのじゃい」
「……」
「“きっと帰って来るから待っていてくれ”。なんとまあバカなヤツもおったもんじゃと思わんか」
「儂が妖と知っておいてあんな契りをする人間がおるとは思わなんだ」
「妖相手に愛だの恋だの愚か、愚か。愚か過ぎて滑稽じゃ。涙が出るわい。むろん、一番の愚か者はほかでもない。そんな愚かな契りを捨てられぬ儂じゃがな」
「……」
「”一生ともに居よう”。たかだか100年ほども生きられぬ脆弱な生き物の癖に。そんな言葉に何の価値がある。永遠にともにおるような顔をして、そのくせ――」
「――そのくせ人間は、なぜあんなにも早く逝ってしまうんじゃろうか」
「……」
「まばたきすれば老いておる。ふと目を離せば死んでおる。ふとまどろめば骨さえ消える。」
「火花がごとく瞬いて消える命の癖に」
「どうしてどうして、人の言葉には。あれほどいのちがこもっておるのかなあ」
「……。」
「どうしてどうして、人の愛には。あれほどしあわせがこもっておるのかなあ……」
「……」
「……」
「……ほぅ……ちょいと飲み過ぎたようじゃわい……そろそろ、いくかのう。約束の時間が来るのじゃ」
「少々、お待ちいただけますか」
「……なんじゃ?」
「いえ、ここ最近、この時間になると決まっていらっしゃるお客様がそろそろおいでになる時間なのです」
「……それがなんじゃと――」
「……コン、なのかい?」
「え――」
「ああ、矢張りそうだ。コンだ――やっと、あえた。」
「――ああ――」
「すまない、ずいぶん待たせてしまっただろう?寒かったかい、こんなに震えて……すまない」
「――いいえ。いいえ、ついさっききたばかりよ――」
「……愛とか、恋とか。いいものですねえ…… 」




