22 飛ぶ魔法の会得と今後
飛ぶ魔法と気を感じる鍛錬について師匠達と検討した結果、飛ぶ魔法を生体魔法回路に組み込むことを先行して行うことにした。
飛ぶ魔法は身体能力の向上と魔法の使い方に熟練した結果か最初に考えて上手くバランスが取れなくて転げていた時の魔法に何故か近づいて来た。
以前は自由度が高いと外力によってバランスを崩した時に持ち直すことが出来ずに転がった。
これでは危険なので転がっても良いようにボールに乗りこむことによって安全を確保して、何とか魔法で飛ぶ事に成功した。
次に少しでも生身に近い形で飛ぶため、魔法で動きに制約をつけて自由度を減らし安定性を増すことによって、何とか転がらずに魔法で飛ぶことが出来るようになった。
これはプロテクトスーツ・プロテクトパーツを使った時のワイヤーアクションのような飛び方をしていた頃のことだ。
それが鍛錬等による能力の向上とともに外力によってバランスを崩しても持ち直すことが容易に出来るようになり、外力を利用する事すらできるようになった。
このため現在は魔法で飛ぶ時には自由度を増やして不安定になっているがその方が動きやすいと感じている。
古代魔法人は行き成りこれを遣ろうとした訳だから飛べなくても当たり前だ。
古代魔法人の中には能力だけなら飛ぶに足る人もいたに違いないが手順を踏んで飛ぶ技術を身に付けなければ飛ぶことは出来ない。
翼を持った鳥の雛でも練習もせずに行き成り飛ぼうとすれば落ちる。
悩んでいるのは飛ぶ魔法のどの要素を最初に生体魔法回路に組み込むかだ。
全てを一度に組み込めば飛べることは分かっているが、生体魔法回路に組み込むと常時発動するのが基本なので下手をすると意識を失っても飛び続けることになって危険だ。
それで今は球体関節人形を魔法で浮かせて色々検討している。
さてと……どうするかな。
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結局、最初に組み込んだのは重力と釣り合うように体全体に擬似重力を掛ける魔法だ。
これを掛けると無重力状態が地上で再現できる。
飛ぶ魔法を始めた最初の頃に遣ろうとして上手くバランスが取れなくて使えなかった魔法だ。
今ではこの方が動き易いと感じるんだから不思議なもんだ。
この魔法は結構応用が利く、物を均等に混ぜたり、重量物を運んだりするときに便利だ。
自分に掛けた状態でいると力を加えることにより全方位どの方向でも同じ力で動かせる。
さてこの状態で飛んで魔法を使い込んで一ヶ月後に生体魔法回路に何を組み込むか考えないとな。
4月から大学4年だし権藤先生の研究室なのは決まっているし、卒業研究のテーマもこのまま飛ぶ魔法で良いだろう。
俺は呑気に「今年中には飛ぶ魔法も一区切り付くから丁度良い」なんて考えていた。
そして権藤先生にその話をした。
「卒業研究のテーマなんですけど今年中には飛ぶ魔法が一区切りしそうなんでこれにします」
「君はまだ自覚が無いね。それを公表するつもり?飛ぶ魔法は軍事的に応用可能だって有用だって君も言ってたよね。更にこの前の魔法で体を動かすことで思考速度が上がって体感時間が変わる技術も絡むよね。全部機密だから当分公表できない。思考速度が上がって体感時間が変わる技術については検討の結果、君の遣り方が自衛隊で採用が決まってもう始めている。神尾メソッドに追加となったわけだね。論文の方もいつもの様に沃土君が纏めて君と連名で提出するから後で確認してね。とにかく君の飛ぶ魔法に絡んだ魔法は全部機密だから別の研究テーマを探しなさい」
「でも俺は飛ぶ魔法に応用する前提で今まで色々遣っているからそんなに簡単には見つかりませんよ?」
「何かないの。何か」
「そうだ、球技で魔法を使ってズルをするのが問題になっていますよね。それで魔素を希薄化すれば魔法が使えなくなるから問題が解決するんです。魔素の希薄化はどうでしょう?」
「魔素の希薄化ねぇ。成功したら公表出来ないし、失敗しても成功の兆しでも有ったら公表できない。魔法が使えなくなるんだよね。魔法に対しての絶対的なバリアが出来るわけだ。核ミサイルに搭載出来たらどうなると思う?テーマとしては有りだけど公表は出来ないな。他にはない?」
「えーと……考えてみます」
「よーく考えてね」
「そうだ、飛ぶ魔法とは別の魔法なんですけど。空気の層を自分の周りに造って殻みたいにして内側の空気が漏れないようにすると宇宙服を着なくても宇宙空間に出られるし飛ぶ時にゴーグルとかもいらないんです。これは次に考えるつもりだった魔法です」
「それは飛ぶ魔法絡みと考えた方が良いと思うよ。テーマとしては凄く良いけどね。成功したら機密だね」
「いっそのこと魔法関係は全部非公表にして好きなことは出来ませんか?俺以外にも困っている人がいると思うけど」
「それが君ほど困っている人はあまりいないんだ。ほとんどの人は既存の技術への魔法の応用で君みたいに魔法そのものの技術を考えている人はあまりいないんだよ。君は魔法が主で科学技術が従だけど他の人は逆なんだ」
「そうなんですか?でも俺と同じような事をしている人はいますよね?」
「飛ぶ魔法で考えてみると良い、ハンググライダーに乗って自然風をあまり気にせずに魔法を使って飛べるようになった人はたくさんいる。けど君の様に魔法だけで飛ぼうと考えて実行した人は少ない。君は少数派なんだ。実現は難しいけど成功すると成果が大きい。でもそう考えると君が何を遣ろうとしても成果が機密になる気がするな」
「どうしましょう。俺が考えても卒業研究の手頃なテーマが出ない気がしてきました」
「こちらから手頃なテーマを出しても良いけど、そんなことを遣る時間が有ったらさっき君が出したテーマの研究を進めた方が良い。卒業研究だけのために君が与えられたテーマを遣るのはもったいない気がする。学長と相談してみるよ」
「宜しくお願いします。出来れば初めの俺の希望通りで非公表でも可にしてください」
「君も一応は考えて置いてね。新しい機密のテーマが増えるだけかもしれないけど。君が院生になる頃なら公表可能かもしれないし博士論文のテーマになら出来るだろう」
「えーと俺は来年もこの研究室に決まりですか」
「君は監視付で民間企業に就職するつもり?就職できるのは国防関係や防衛産業の魔法研究部門ぐらいかな。それなら大学に通う方が良くはないかな?」
「あぁ、そうなりますか。当分は監視付と言うことですね」
「さっき君が出した2つのテーマも君に張り付いている監視から上に報告が行くからそのテーマの結論が出るまでは監視を解くのは無理な気がするな。これらは防衛省の方でも独自で研究すると思うから結論が出るのは速いかもしれないけどね」
「それなら大学に残った方がまだ自由はありますね。差は微々たるものですが」
「そーゆうことだね」
俺が大学に残って研究を続けるのは既定の事みたいだ。
監視も当分は解けないことが分かった。
さてと卒業研究のテーマはどうするかな。
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結論としては俺の卒業研究のテーマは飛ぶ魔法で良しとなった。
俺の望み通り、論文は非公表となり研究発表も一部の人間だけ視聴可となる。
ただし、院生になるのは既定だから勉強しないとね。
院生になった後の研究のテーマは空気の殻を造ることでほぼ決定だ。
魔素の希薄化の方は防衛関係の研究室で遣ることになった。
重要度が高すぎてテーマを漏らすことすら禁止にされた。
魔素の希薄化に成功したら核武装が再装備に成りかねないから世界は更なる混乱にまっしぐらだ。
飛ぶ魔法の生体魔法回路への組込は大学三年の間に終了して、後は気を感じ取る鍛錬だ。
まずは瞑想して自分の生命エネルギー場の気の流れを感じ取ることから始める。
気は体の中を循環してから体の外へ出て体の外を循環する。
次に気が循環した状態でこの生命エネルギー場を広げてゆき生態系のエネルギー場と一体になって世界の気の循環を感じ取る。
以上の事をイメージして大きくなったり小さくなったりを繰り返す。
気の鍛錬は3年近く遣っていて、自分の中とか外の気の循環に関しては日常生活の中でも意識している。
生体魔法回路に組み込んだ気の鍛錬による生命エネルギーの強化を始めてからずっとだ。
生体魔法回路の魔素の循環は成体ならだれでも感じ取ることが出来る。
気の流れも魔素の流れも普段は意識してないだけで誰でも感じ取れるようになる。
特に魔素の方は空気の様に認識すれば分かる様になる。
ただ気の流れは生きている自分そのもので自分から切り離せないため魔素や空気より客観的に認識しにくい。
気を感じ取る鍛錬は気を認識した方が効率が良いので最初は自分の気を感じ取ることから始める。
ここまでは今迄続けてきた気の鍛錬で遣っている。
今迄の気の鍛錬は自分の気を強化するために行っていて意識するのは自分の気の流れだけで良い。
だが魔法を生体魔法回路にに組み込んで常時発動で気の鍛錬を行っているので自分の気の流れを監視して調整する必要がある。
よって自分の外側の気の流れに付いては『あるね』ぐらいの認識であまり問題はなく、あまり意識すると気の鍛錬の邪魔になる。
俺は鍛錬を始めて既に三年程経過しているので問題はないが鍛錬の初期には特に注意が必要だ。
俺は気の鍛錬による生命エネルギーの強化を優先していたのでこのようになる。
気を感じ取る鍛錬では認識を改めて自分と同じ様に自分以外の気も意識して感じ取る様にしないといけない。
これは武技を習得するとき気配の察知とかに有効なので本来は気の鍛錬による生命エネルギーの強化と併行して行うものらしい。
普通は俺の様に気の鍛錬だけを行って、生命エネルギーの強化だけを一気に行うようなことはしなかったらしい。
天谷師匠は俺が飛ぶ魔法を優先していたため、生命エネルギーの強化を優先したようだ。
天谷師匠は俺に教えた経験もあって医療関係者の方々にも俺の様に教えていた。
これは実戦ならともかく日本の普段の生活で気配察知とかを鍛えなくても特に問題はないからだ。
自衛官の皆さんには必要な力なので既に鍛錬しているのを俺が知らなかっただけだ。
ただ気の鍛錬による生命エネルギーの強化を一気にやった方が習得の効率が良いらしく、自衛隊では順番に別々鍛錬している。
これは日常生活にあまり危険が存在しないから併行して習得する必要が無いためだ。
併行して鍛錬すると習得に2年以上掛かるのが順番に別々鍛錬すると1年~1年半で済む。
効率と言っても半年から1年の話なので置かれた状況によってどちらが最適かの答えは色々あるだろう。
自衛隊の場合は集団を鍛えるので効率は重要だ、1人前になる時間が短くなるほどたくさんの人間を育てることが出来る。
だが個人の場合は得手不得手や要不要に合わせて習得する必要がある。
いくら効率が良いからと言っても自分に必要な技術を習得するのを後回しにする人はまずいない。
俺の場合は飛ぶ魔法等の鍛錬の結果、限界がきて必要になったので気を感じ取る鍛錬を始めることになった。
だけど武を優先するなら人によっては気配を察知するための気を感じ取る鍛錬を優先してもおかしくはない。
個人的な習得なら個人の優先順位に従って習得しても全然問題はない。
だが日本政府は魔法教育カリキュラムに習得の基本として自衛隊と同じ習得順で組み込む予定だ。
教育として人に教えることを考えると効率を考慮した方が良い。
俺が気を感じ取る鍛錬を4ヶ月続けた辺りで視覚に頼らずに大体は動ける様になった。
視覚に頼らず魔法を使って体を動かすのには半年ぐらい掛かった。
飛ぶ魔法は生体魔法回路に組み込んだので一定の速度で飛び続けるのは意識せずに可能になった。
そして理論上は生命エネルギーが尽きない限り飛び続けることが可能になった。
最近は大学の屋内では狭いので長時間飛ぶ時には自衛隊に行って格納庫みたいなところで飛行試験をしている。
今の所は俺しか飛んでいないけど自衛隊の人にも教えているからしばらくしたら空中で格闘訓練とかも始めれそうだ。
教えると言っても飛んでいるところを見せて使っている魔法とその他の技術を説明するだけで、他の魔法と同じで魔法回路を造るのは魔法を習得する人が自ら遣らなければいけない。
俺が飛ぶ姿を実際に見ているのでイメージは持ちやすいため、俺よりは楽に習得可能なはずだ。
現在、自衛隊では専用のプロテクトパーツを使って魔法で飛ぶ訓練をしている。
歩兵の実践としてはこれで充分なんだけど空で事故にあった時の生存率を上げたり、遭難者の救助活動に利用するため、希望者は俺の様に飛ぶ事を習得する事になっている。
年内にはそこらあたりも論文に纏めて提出予定だ。
纏めるのは文章化するのが上手い沃土だし、俺はいつもの様に共同研究者として名前を書くだけだから気楽なもんだ。
俺が遣っているのは実験とノートを取るのと週一でノートを纏めてレポートにするぐらいだ。
レポートは実験の動画と一緒に権藤先生に提出するだけで終わり。
俺はレポートを提出するときに沃土が纏めた動画を沃土や権藤先生と一緒に見ながら報告する。
これは初めからずっと変わっていない、4年になってから研究しか遣っていないからレポートの量が少し増えたけど。
天谷師匠の飛ぶ魔法の習得は生身で飛ぶ前の段階までは自衛官と一緒に身に着けていたので、俺が気を感じ取る鍛錬を始めたのと併行して天谷師匠は最新の飛ぶ魔法の技術を身に着け始めた。
能力が有って飛ぶために力をどう使うかを覚えるだけなので習得にさほど時間は掛からなかった。
年内に生体魔法回路にも組込が終わったし、基礎能力は俺より上なので飛ぶのも俺より上手いぐらいだ。
自衛官の人達も飛ぶ魔法を身に着け始めた時点で俺より基礎能力が上の人が多かったので習得は速かった。
そろそろ生体魔法回路への組込が始まるのでそれが終われば俺よりも上手くなるだろう。
研究班みたいな人も中にはいてその人達は自分が使うためと言うより自衛隊内で普通に使える技術にするために習得している。
全ての自衛官は飛ぶ魔法だけに注力すれば俺並には成る能力があるんだろうけどそれでは戦えない。
自衛官にとって飛ぶ魔法は戦うための技術の1つであって、ある水準までできれば問題ないものだ。
防衛大学と自衛隊の教育カリキュラムに組み込んでどこまで習得できるかが課題だな。




