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かわいげがないと言われましたので  作者: 柚みつ


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12/24

12.それぞれの夜は更けて

それぞれ、人物ごとに視点が変わります。

 


 sideエドガー


 どうしてこうなった。ジュリエッタやロザリーとは別室に案内され、この部屋にいるのは俺一人。しかも、扉の前には王家の監視付きだ。

 先ほど突きつけられた、俺は伯爵家を継ぐ者ではないという国王の言葉だけがぐるぐると頭を巡っている。もちろん、知っていた。俺の生まれは伯爵家ではないからだ。

 だが、それがなんだというのだ。あの女――ミレイユは伯爵家の令嬢だったし、そこの婿になったんだから俺が伯爵家の当主で間違っているはずがない。そもそも、俺がミレイユに声をかけたのはただの気まぐれ。お高くとまっていると噂の伯爵令嬢のあいつが、男爵の俺を相手にするはずもないからと、仲間内で戯れの賭け事だった。


 自分で言うのもなんだが、人の懐に入るのは上手い。おかげで、あいつはあっという間に俺に惚れ込んで、伯爵家の婿に入るまでになった。もちろん、男爵の俺が出来る努力はしたさ。だが、あいつはそれを易々と飛び越えていく。書類の処理が上手く出来なくても、それは自分がやるからとあいつが言ったんだ。女だったが子も産まれ、跡継ぎの心配がなくなったから存分に楽を出来る――そんなタイミングで、ミレイユは病にかかりあっという間に死んだ。


 あいつが死んでからすぐに後妻を取ったのも、社交界に顔を出していたのも、全て。すべてが伯爵家の当主としての甲斐性を見せるにふさわしい行動だ。そのはずだったんだ。


「なぜだ……」


 だが、今の状況はどうだ。俺は犯罪者のような扱いを受け、あいつは、リリアーナは王子といけ好かない令息が賓客のようにもてなしているじゃないか。

 たかが家の執務をやっていただけの女が、どうしてそのようなもてなしを受けている。その位置にいるのは俺じゃないのか。なぜだ。どうして。

 そもそも、たかが伯爵家のことに国王だけでなく、王子や隣国の令息が首を突っ込んでくる方がおかしい。リリアーナが、あいつが裏で手を回したに違いない。そうでなければ、この俺がこんな扱いを受けるはずがない。


「くそっ!」


 苛立ちを紛らわすように近くにあったクッションに拳を振り下ろす。家にあるものよりも上質な手触りが、ここは違う場所なのだと主張する。それがまた、俺を苛立たせる。はぁはぁと肩で息が上がるほどにクッションを殴り、そのままソファーにもたれ掛かる。

 いくら天井を眺めていようとも、伯爵家の当主ではない俺が何者なのか、その答えは見えない。





 side ジュリエッタ


 私は、没落寸前の子爵の娘だった。名前ばかりの貴族で、平民と同じように毎日働かないと、日々の食事にも困るような生活を送っていた。こんな生活で一生を終えるなんて、ごめんだわ!

 だから、私は考えた。お金がないならお金のある人にすり寄ればいいのだと。

 男爵だって暮らしは楽ではない。少なくとも、伯爵家以上を狙わないと、この生活から抜け出せない。情報集めと一緒に、自分を可愛らしく見せて男性の庇護欲を誘う仕草を勉強した。なかなかに大変だったけれど、身に付けた価値があったわ。


 伯爵家に、しかも彼の子供を連れて行けるなんて! あの女の子供がいるのは計算外だったけれど、彼は私との子を大事にすると言ってくれたもの。かわいいロザリー。今まで身に付けた仕草を幼い頃から教え込んだからか、私の天使はエドガー様相手でもかわいさを振りまくことを忘れない。

 優しくて、羽振りのいいエドガー様に、かわいいロザリー。そんな二人に囲まれた私は、天国のような生活を手に入れたはずだったのに。


「どうして私がこんな部屋に!」


 エドガー様ともロザリーとも離されて、案内された部屋は伯爵家の自室よりもずいぶん狭い。おまけに行動を常に見続けられて、不愉快でしかないわ。

 それにしても、この部屋に案内される前を思い出すと今でもイライラしてくる。


「エドガー様が伯爵家の当主じゃないなんて……!」


 そうよ。エドガー様が伯爵家でなくなるなら、嫁いだ意味がなくなってしまう。私は、もう二度とあんな生活には戻りたくないのよ。

 せっかくあの女の影がある使用人は解雇して、私が暮らしやすいようにしたのだから、この環境は手放したくない。

 あの女、ミレイユ。知った時から伯爵令嬢だというのを鼻にかけていた嫌な女。あいつには負けたくないと思っていたから、あいつが結婚したエドガー様が私を選んでくれた時には正直スカッとしたわ。それに、もういないのだから。私がどんなことをしても、咎める声は飛んでこない。


「どうしてよ!」


 伯爵家だったら、使用人たちがお菓子を持って来てくれるというのに。私と視線を合わせようともしない使用人は、まっすぐに立ったまま動かない。客をもてなさないなんて、王宮の使用人といってもその程度なのね。

 今すぐにでもあの家に帰りたいわ。早く夜が明けてくれないかしら。





 side ロザリー


「ひとりだわ……」


 お母様も、お義父様も、お義姉様もいないこの部屋は、自分の部屋のように居心地のいい場所ではない。かわいいクッションも、フリルのような装飾をつけたテーブルもなく、ただ寝るためのベッドと小さいソファーにテーブルがあるだけ。

 王様は明日までこの部屋にいてもらうと言っていたけれど、明日ってどのくらいまで?

 わたしは、これからどうなってしまうの?


 今までだったらどうして、と聞いたことに返事があった。だってお母様はいつもそばにいてくれたし、お義父様だってわたしが抱きついて質問したら優しく答えてくれた。

 けれど、今日はどれだけ聞いても答えは返ってこない。こんな時、お義姉様だったらこたえてくれるのかしら。


 そうよ、お義姉様。

 王子様とかっこいい人に連れて行かれたお義姉様。伯爵家の当主がお義姉様とか、お義父様は違うのだとか話していたわ。わたしには、難しい話は分からないの。だってそれでいいって、分からないなら男性の腕を取ったあとに上を見て分からないの、と小さく話しなさいとお母様が言っていたもの。

 お義姉様と一緒にいるとお母様が悲しむから、最近はあまりそばにいないけどね。金髪で紫の瞳のお義姉様は絵本から出てきたお姫様なのよ。小さい時に髪の毛を結んでくれたのが嬉しくて、ずっとついて回ったわ。

 それから顔を合わせないと思ったら、おうちの仕事はお義姉様がやるのだとお義父様が教えてくれた。使用人も、お母様もそれが当然なのだと頷いていたから、そういうものだと思って、わたしは邪魔しないようにお義姉様のあとを追いかけるのを止めた。


 お義姉様の休憩用に、お茶や食事の手配をお願いすれば、お母様は優しいと褒めてくれる。お義父様に甘えた姿を見せれば、お母様が喜んでくれる。

 だから、わたしは誰かに甘えてお願いをしなければいけないのよ。そしてそれを、お母様に褒めてもらわないと。


「会いたいなあ……」


 お母様に、お義父様に、それからお義姉様。どうして、わたしのそばにいてくれないの?





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