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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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89話 空を飛ぶ商人たち

朝日が巨大な学園都市へと変貌した村を照らしていた。


かつて盗賊に怯え、病に苦しみ、飢えに泣いていた貧困村。


今では人口七万五千人を超え、食料充足率二〇〇%以上を誇り、教師四万人、教導スキル覚醒者二万人を抱える巨大共同体へと成長していた。


村の中央広場。


そこには新たに到着したヴァレリア商会の従業員たち数百人が集まっていた。


先日まで研修を受けていた出向組は王都へ帰還した。


その代わりとして第二陣が到着したのである。


彼らは周囲を見渡しながら驚きを隠せなかった。


空を飛ぶ教師。


魔法で耕される畑。


巨大な倉庫。


整然と並ぶ紡織工房。


農業革命によって生まれた広大な穀倉地帯。


そして絶えず続く授業。


まるで国家そのものだった。


「ここ、本当に村なのか……?」


若い商会員が呟く。


隣の女性職員も頷いた。


「王都より発展している部分があるわ……」


その言葉は決して大げさではなかった。


王都は権力が集中する場所。


この村は人材が集中する場所。


その差は日に日に大きくなっていた。


広場の一角。


マーガレット・ヴァレリアは腕を組みながら新しい従業員たちを見ていた。


赤い髪が風になびく。


巨大商会の会頭。


商売スキルと会頭スキルを覚醒した女。


今や彼女自身も教育の力を理解していた。


「さて、始めましょうか。」


その言葉と共に授業が始まった。


教師役は教導スキルを持つ商会員。


かつては普通の経理担当だった男である。


それが今では数百人へ知識を伝える教師になっていた。


「魔力は才能ではありません。」


「正しい訓練で誰でも扱えます。」


「皆さんも覚醒できます。」


最初は半信半疑だった。


王都では魔法とは選ばれた者の力だった。


貴族。


天才。


英雄。


そんな人間だけが使うものだと思われていた。


しかしここでは違う。


農民も使う。


職人も使う。


商人も使う。


教師も使う。


誰もが使う。


それが当たり前だった。


午前の授業が進む。


魔力操作。


魔力循環。


呼吸法。


集中法。


感知法。


教導スキルの補正も加わり、受講者たちは驚くほど早く上達していった。


「できた!」


若い女性職員の掌に水球が生まれた。


周囲から歓声が上がる。


「水属性覚醒だ!」


「おお!」


教師が笑顔になる。


「おめでとうございます!」


「最初の一人です!」


そこから連鎖が始まった。


火属性。


風属性。


土属性。


光属性。


次々に覚醒していく。


昼になる頃には百名以上が属性を発現させていた。


マーガレットは思わず苦笑した。


「王都で何年もかけて育てる人材が半日で育つなんて。」


隣の幹部が笑う。


「会頭。」


「王都の常識は忘れた方が良さそうです。」


「そうね。」


マーガレットは素直に認めた。


ここでは常識が違う。


午後。


今度は超能力訓練。


レビテーション。


テレパシー。


テレキネシス。


基礎能力の訓練が始まった。


教壇に立つのはミシェルだった。


鳥人族の美女教師。


索敵部隊の主力。


「まず浮いてください。」


商会員たちが顔を見合わせる。


「浮く?」


「どうやって?」


「落ちたら?」


ミシェルは笑った。


「大丈夫です。」


「最初はみんなそう言います。」


十分後。


一人が浮いた。


二人目が浮いた。


三人目が浮いた。


やがて数十人が空中に浮かび始める。


歓声が上がった。


「飛んだ!」


「本当に飛んだ!」


「すげぇ!」


マーガレットも浮いていた。


既に覚醒済みである。


今では数百メートル程度なら自由に飛行できる。


その瞬間。


ふと思った。


「そういえば。」


「私たち、昔はどうやって移動してたのかしら。」


周囲が笑う。


「馬車ですね。」


「二週間かけて。」


「王都と往復で一ヶ月です。」


沈黙。


全員が固まった。


そして。


「馬鹿らしい。」


誰かが言った。


爆笑が起きた。


「確かに!」


「一ヶ月も無駄にしてたのか!」


「今なら一時間で着くぞ!」


「飛ばせば三十分だ!」


再び大爆笑。


商会員たちは笑いながら空を飛んでいた。


王都では想像もできなかった光景だった。


夕方。


授業終了後。


マーガレットは商会本部と念話を繋ぐ。


『本部聞こえる?』


すぐ返事が来る。


『会頭ですか?』


『聞こえます。』


『問題ありません。』


マーガレットは苦笑した。


便利すぎる。


以前なら連絡だけで数週間。


今では一瞬。


物流革命どころではない。


通信革命だった。


夜。


商会宿舎。


夕食を囲む従業員たち。


パン。


肉。


野菜。


果実酒。


どれも高品質だった。


農業革命による豊かな食料生産。


保存技術。


流通技術。


教育。


全てが噛み合っていた。


若い商会員が言う。


「会頭。」


「ここに来る前は魔法なんて無理だと思ってました。」


「でも違いました。」


「知らなかっただけでした。」


周囲が静かになる。


マーガレットは頷いた。


「そうね。」


「私もそうだった。」


アイテムボックス。


レビテーション。


念話。


魔法。


超能力。


商売スキル。


会頭スキル。


全部。


元々存在していた可能性だった。


誰も教えなかっただけ。


教育がなかっただけ。


ケルナインが言った言葉を思い出す。


『才能がないんじゃない。』


『教える人間がいなかっただけだ。』


その意味を今なら理解できた。


窓の外を見る。


広大な街。


明るい灯り。


働く人々。


学ぶ人々。


飛び交う教師。


訓練する戦士。


研究する職人。


そして成長し続ける人材。


マーガレットは静かに笑った。


「環境が人を育てる。」


「本当にそうね。」


かつての貧困村は存在しない。


ここは人材を育てる巨大な学校だった。


そしてヴァレリア商会も変わる。


王都へ戻った第一陣。


今ここにいる第二陣。


そしてこれから来る第三陣。


第四陣。


全従業員。


全員が教育を受ける。


全員が覚醒する。


全員が育つ。


その未来を確信していた。


夜空には無数の光が浮かんでいた。


訓練を続けるレビテーション使いたちである。


空を飛ぶ商人。


空を飛ぶ職人。


空を飛ぶ教師。


それは常識が変わった証だった。


そして変わった常識は、もう二度と元には戻らない。


ヴァレリア商会の第二陣研修は始まったばかりだった。







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