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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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9話 魔力循環訓練

朝。


畑の改革が始まって数日。


村の空気は明らかに変わっていた。


井戸は綺麗になった。


病人は減った。


畑も整備が進んでいる。


人々の表情から絶望が消え始めていた。


しかし。


ケルナインは次の段階へ進もうとしていた。


食料だけでは足りない。


水だけでも足りない。


村を守るには力が必要だった。


盗賊。


奴隷商。


傭兵崩れ。


この世界は弱者を食う。


ならば。


弱者を強くするしかない。


朝日が昇る頃。


村の広場に全員が集められた。


農民。


老人。


女達。


子供達。


エミリー。


セリナ。


マイケル。


皆が不思議そうな顔をしている。


ケルナインは広場中央に立った。


「今日は魔法を教える」


ざわついた。


村人達は顔を見合わせる。


魔法。


それは選ばれた者の力。


才能が必要。


貴族が独占するもの。


そう信じられていた。


老人が手を挙げる。


「旅人さん」


「俺達は魔法なんて使えねぇ」


「そう教わった」


ケルナインは答える。


「嘘だ」


静まり返った。


「使えないんじゃない」


「教わっていないだけだ」


全員が息を呑んだ。


エミリーが眉をひそめる。


「そんな簡単な話なの?」


「簡単だ」


「なら誰でも使えるのか?」


「使える」


即答だった。


疑う余地もない口調だった。


ケルナインは地面に座る。


「全員座れ」


村人達も真似をする。


ケルナインは胸を指した。


「まず知れ」


「お前達の中には魔力がある」


「全員だ」


マイケルが驚く。


「僕にも?」


「ああ」


「エルナにも?」


「ああ」


「村長にも?」


「ああ」


老人達も目を丸くした。


ケルナインは続ける。


「問題は量じゃない」


「流れだ」


そして目を閉じる。


魔力操作。


魔力循環。


彼の得意分野だった。


体内で膨大な魔力が動く。


普通の人間なら耐えられない量。


魔力吸収によって集めた魔力が循環し続ける。


事実上の無限魔力。


だが。


見せる必要はない。


必要なのは理屈だ。


「心臓を意識しろ」


「次に腹」


「次に背中」


「次に肩」


「腕」


「指先」


村人達が真似をする。


最初は何も起きない。


当然だった。


数十年使っていない器官を動かすようなものだ。


だが。


十分後。


最初の成功者が現れる。


マイケルだった。


「え?」


少年が驚く。


「暖かい」


「何か動いてる」


ケルナインは頷いた。


「それだ」


広場がざわつく。


「本当か?」


「嘘じゃないのか?」


マイケルは首を振る。


「違う」


「本当に動いてる」


興奮していた。


生まれて初めてだった。


自分に才能があると思ったことなど。


一度もない。


ケルナインは言う。


「才能じゃない」


マイケルが見る。


「努力だ」


「お前は真面目に聞いた」


「だから成功した」


その言葉は胸に刺さった。


昼。


訓練は続く。


何度も。


何度も。


魔力を巡らせる。


感じる。


流す。


循環させる。


失敗する。


またやる。


その繰り返しだった。


エミリーは苛立っていた。


「なんで出来ないのよ」


狼獣人の身体能力は高い。


戦いにも慣れている。


なのに。


魔力循環は上手くいかない。


隣ではマイケルが成功している。


悔しかった。


ケルナインは見ていた。


そして一言。


「力みすぎだ」


エミリーが睨む。


「力を抜け」


「流れを感じろ」


「押すな」


エミリーは黙る。


そして深呼吸した。


その瞬間。


体内で何かが動いた。


暖かい。


細い流れ。


川のような感覚。


「……これ?」


「そうだ」


エミリーは驚いた。


本当にあった。


魔力は存在した。


午後。


成功者が増え始める。


マイケル。


エミリー。


エルナ。


数人の農民。


少しずつ。


確実に。


村人達の目が変わる。


自分にも出来る。


それが分かった。


それだけで人は変わる。


セリナは少し離れた場所で観察していた。


ダークエルフ。


知性派。


彼女はすぐ理解した。


「なるほど」


「才能主義じゃない」


ケルナインを見る。


「教育か」


ケルナインは何も言わない。


その沈黙が答えだった。


セリナは鳥肌が立った。


この世界は間違っている。


貴族は才能を独占する。


魔法を独占する。


だから支配できる。


もし。


全員が使えるなら。


世界そのものが変わる。


彼はそれをやろうとしている。


夕方。


訓練は終わった。


疲労困憊だった。


戦闘より疲れる。


それでも。


誰も文句を言わない。


理由は簡単。


成果があった。


マイケルが掌を見る。


小さな光。


光属性魔力。


ほんの僅か。


それでも確かに存在した。


「出来た……」


涙が出そうだった。


エルナも成功している。


水属性。


小さな水滴。


それだけ。


それだけなのに。


皆が笑っていた。


村長が震える声で言う。


「俺達にも出来るんだな」


ケルナインは頷く。


「当然だ」


「人間だからな」


その言葉は優しかった。


夜。


広場では興奮が続いていた。


子供達は魔力の話。


老人達は成功談。


女達は明日の訓練の話。


村全体が明るかった。


ほんの数日前まで。


死を待つだけだった村。


病に怯え。


飢えに苦しみ。


盗賊に怯えていた村。


今は違う。


変われる。


強くなれる。


その希望があった。


エミリーは焚き火を見ながら呟く。


「悔しい」


セリナが聞く。


「何が?」


「私よりマイケルの方が先に成功した」


セリナは少し笑った。


「いいことじゃない」


エミリーも笑う。


確かにそうだった。


悔しい。


でも嬉しい。


村が強くなっている。


それが分かるからだ。


少し離れた場所。


ケルナインは夜空を見上げていた。


村人達は気付いていない。


今日覚えた技術がどれほど大きいか。


魔力循環。


全ての始まり。


魔法。


治癒。


身体強化。


超能力。


戦闘技術。


生産技術。


全てに繋がる基礎。


基礎がある者は伸びる。


基礎がない者は止まる。


だから最初に教えた。


環境が人を育てる。


正しい環境。


正しい知識。


正しい努力。


それがあれば人は変わる。


才能ではない。


教育だ。


その証明が。


この貧困村で始まろうとしていた。







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