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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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8話 畑改革開始

井戸改善から三日。


村の空気は少し変わっていた。


病人は減った。


水汲みの時間も短くなった。


子供達の顔色も良い。


それだけでも大きな変化だった。


しかし。


ケルナインは満足していなかった。


朝。


村外れの畑。


エミリー。


セリナ。


マイケル。


エルナ。


農民達。


皆が集まっている。


ケルナインは畑を見渡した。


そして静かに言った。


「酷いな」


農民達が気まずそうに俯く。


怒られたと思った。


しかし。


ケルナインは畑を責めていなかった。


人を責めても意味がない。


問題を見る。


それだけだった。


鑑定。


視界に数字が流れる。


土壌。


水分。


肥沃度。


害虫。


雑草。


収穫量予測。


全部が見える。


結果。


壊滅的。


「なるほど」


ケルナインは納得した。


村が貧しい理由。


病人が多い理由。


盗賊に狙われる理由。


全部繋がっていた。


食料不足。


それが始まりだった。


エミリーが聞く。


「そんなに駄目か?」


「駄目だ」


即答だった。


農民達がさらに落ち込む。


ケルナインは首を振る。


「安心しろ」


「お前達が悪いわけじゃない」


全員が顔を上げた。


「え?」


老人が聞いた。


「俺達は何十年も畑をやってるぞ?」


「だからだ」


ケルナインは答える。


「何十年も間違ったやり方を続けている」


静かになった。


怒る者はいない。


なぜなら。


病人を治した。


井戸を改善した。


実績がある。


言葉に重みがあった。


ケルナインは地面を掴む。


土を指で潰した。


「痩せている」


「栄養が無い」


「水も逃げる」


「根も育たない」


農民達は困惑した。


そんなこと考えたことがない。


種を撒く。


育つ。


収穫する。


それだけだった。


ケルナインは言う。


「土も生きている」


「育てるんだ」


誰も理解できない。


しかし。


聞く姿勢はできていた。


午前。


畑の分析が始まった。


村人全員参加だった。


土を掘る。


石を除去する。


雑草を集める。


水の流れを確認する。


ケルナインは質問を投げる。


「ここだけ育たない理由は?」


「水が流れるから?」


マイケル。


「正解」


「じゃあこっちは?」


「石が多いから」


エルナ。


「正解」


少しずつ。


村人達が考え始める。


答えを与えない。


考えさせる。


それがケルナインのやり方だった。


昼。


セリナが報告に来た。


「村の家畜糞が余っています」


「使う」


「肥料か」


「そうだ」


農民達が驚く。


捨てていた物だった。


臭い。


汚い。


価値がない。


そう思っていた。


ケルナインは言う。


「価値が無い物なんてほとんど無い」


「知らないだけだ」


その言葉は。


後に村の思想になる。


午後。


農業革命が始まった。


まず堆肥作り。


枯草。


落葉。


家畜糞。


木屑。


全部集める。


山にする。


発酵させる。


農民達は驚く。


「こんなので良くなるのか?」


「良くなる」


「本当に?」


「鑑定済みだ」


ケルナインは平然としていた。


実際。


数字で見えている。


収穫量は三倍以上になる。


夕方。


次は水路。


井戸改善で得た知識が活きる。


村人達だけで議論する。


どこを掘るか。


どこへ流すか。


ケルナインは聞くだけだった。


エミリーが気付く。


「あんた本当に口出さないな」


「必要ない」


「失敗するかもしれないぞ」


「失敗すれば学ぶ」


当然のように答える。


エミリーは黙った。


自分は逆だった。


失敗が怖かった。


だから全部抱えた。


だから疲れた。


だから村は変わらなかった。


この男は違う。


失敗を許容する。


だから人が育つ。


夕暮れ。


農民の老人が近付いてきた。


「旅人さん」


「なんだ」


「俺は五十年畑をやってきた」


ケルナインは聞く。


「それで?」


老人は笑った。


少し寂しそうに。


「初めて畑を理解した気がする」


その言葉は重かった。


五十年。


人生だ。


その人生で。


初めて理由を知った。


ケルナインは頷く。


「知識は力だ」


老人は笑った。


「違いねぇ」


夜。


村では珍しく食事会が開かれた。


豪華ではない。


スープ。


硬いパン。


少しの野菜。


それだけ。


それでも皆が笑っていた。


未来が見えたからだ。


病気が減った。


水が変わった。


次は食料だ。


村人達の目が変わっている。


諦めの色が消えていた。


マイケルは焚き火の前で拳を握る。


「僕も覚えたい」


「農業も」


「魔法も」


「全部」


ケルナインは少しだけ笑った。


「なら覚えろ」


「環境は整えた」


マイケルは頷く。


強く。


何度も。


村は少しずつ変わっていく。


奇跡ではない。


英雄でもない。


教育。


知識。


経験。


失敗。


それらが積み重なっていく。


そして。


畑改革は始まったばかりだった。


来年。


収穫は増える。


再来年。


飢えは減る。


さらに先。


余剰食料が生まれる。


余剰は余裕を生む。


余裕は学びを生む。


学びは人を育てる。


人が育てば村は変わる。


ケルナインが見ているのは畑ではない。


未来だった。


環境が人を育てる。


その最初の種が。


今。


この貧困村に蒔かれたのだった。







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