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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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7話 井戸改善

朝。


村の中央にある井戸の前に人が集まっていた。


老人。


女たち。


子供たち。


農民。


皆が不安そうな顔をしている。


昨日まで病に伏せていた者もいる。


ケルナインは井戸を見下ろした。


水は濁っていた。


臭いもある。


家畜小屋から流れた汚れ。


生活排水。


雨で流れ込んだ泥。


全部が混ざっている。


鑑定。


結果は予想通りだった。


【飲用不適】


【細菌汚染】


【寄生虫混入】


【疾病発生源】


ケルナインはため息を吐いた。


エミリーが聞く。


「そんなに酷いのか?」


「酷い」


即答だった。


村人達がざわつく。


「でも今まで飲んでたぞ」


「死んでないぞ」


誰かが言った。


ケルナインは頷く。


「死なない場合もある」


「病気になる場合もある」


「運が良かっただけだ」


静かになる。


誰も反論できない。


昨日まで病人だらけだった。


それが証明だった。


ケルナインは井戸の縁を叩いた。


「この井戸は捨てる」


村人達が驚く。


「えっ?」


「捨てる?」


「水が無くなるぞ」


当然の反応だった。


この村には井戸が一つしかない。


ケルナインは首を振る。


「新しく作る」


エミリーが眉を上げる。


「そんな簡単に?」


「簡単だ」


ケルナインにとっては。


土属性。


水属性。


魔力操作。


全部ある。


問題はそこではない。


問題は村人だった。


「お前達が作る」


全員が固まった。


「俺達が?」


「そうだ」


「俺が作れば一日で終わる」


「だが意味が無い」


エミリーは少し理解した。


この男は何でもできる。


それでもやらない。


なぜなら。


育てたいからだ。


ケルナインは地面に棒で線を引いた。


「まず考える」


「なぜここが駄目か」


村人達を見る。


沈黙。


しばらくして。


小さな声がした。


マイケルだった。


「家畜が近いから……?」


「正解」


ケルナインが頷く。


マイケルが少し驚く。


初めて褒められた。


次。


エルナが手を上げた。


「雨が降ると汚れが流れてきます」


「正解」


さらに頷く。


エルナも少し嬉しそうだった。


ケルナインは村人達を見る。


「答えは出た」


「なら改善できる」


簡単な理屈だった。


問題が見えるなら直せる。


見えないから直せない。


それだけだ。


午前。


新井戸建設が始まった。


村人総出だった。


男達は掘る。


女達は土を運ぶ。


子供達は石を集める。


ケルナインは指示を出さない。


ただ質問する。


「どう掘る?」


「崩れないようにするには?」


「水脈はどこだと思う?」


考えさせる。


村人達が議論する。


初めてだった。


今までは命令されるだけ。


考える必要が無かった。


しかし今は違う。


自分達で決める。


エミリーはそれを見ていた。


村人達の目が変わっている。


昨日まで諦めていた人間達だ。


午後。


十メートル。


十五メートル。


さらに掘る。


途中で岩盤に当たる。


男達が止まる。


「無理だ」


「掘れない」


弱気な声が出る。


そこでケルナインが初めて動いた。


土属性。


石属性。


魔力操作。


岩盤が静かに割れていく。


村人達が息を呑む。


巨大な岩が粉々になった。


「すげぇ……」


誰かが呟く。


ケルナインは振り返る。


「凄いのはこれじゃない」


「え?」


「お前達が掘った」


静かになる。


確かにそうだった。


ここまで掘ったのは村人達だ。


ケルナインではない。


夕方。


ついに水脈へ到達した。


透明な水が湧き出る。


歓声が上がった。


子供達が飛び跳ねる。


老人達が泣く。


女達が抱き合う。


それほど大きな出来事だった。


ケルナインはそこで終わらせない。


「次」


村人達が固まる。


「まだあるのか?」


「ある」


当然だった。


井戸を作っただけでは終わらない。


「排水路」


「家畜小屋移転」


「洗浄場所」


「手洗い場」


「飲料用と生活用の分離」


村人達は頭を抱えた。


多い。


やることが多い。


だが。


誰も文句は言わなかった。


なぜなら理解したからだ。


病気になりたくない。


家族を守りたい。


理由がある。


夜。


焚き火を囲みながら。


エミリーが聞く。


「全部やるつもりか?」


「やる」


「大変だぞ」


「知ってる」


ケルナインは平然としている。


エミリーは苦笑した。


この男は。


何かを変えることを怖がらない。


人を変えることも怖がらない。


そして。


自分でやらせる。


そこが不思議だった。


普通なら支配する。


命令する。


従わせる。


しかしケルナインは違う。


「なあ」


エミリーが聞く。


「なんで自分でやらない?」


ケルナインは焚き火を見る。


しばらく沈黙。


そして答えた。


「俺は旅人だからだ」


エミリーは黙る。


「いつかいなくなる」


「だから残るものを作る」


「人だ」


火が揺れる。


村人達の笑い声が聞こえる。


今日だけで終わらない。


井戸は残る。


技術も残る。


知識も残る。


人も育つ。


それが本当の救済だった。


ケルナインは新しい井戸を見る。


透明な水が月明かりを映している。


病を治すことはできる。


しかし病にならない環境を作る方が価値がある。


そして。


環境は人を育てる。


今日。


村は少しだけ変わった。


水が変わった。


考え方が変わった。


そして村人達自身が。


未来を作り始めていた。







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